第8話:午前中は掃除と勉強の時間です
「……………………んぅ……。」
気怠さの中で目が覚め、時計を確認すると6時57分を指していた。
「…………………………。」
まだはっきりとしない意識に鞭打ち、ベッドから起き上がる。
白いブラウスにワンピースタイプのスカート、上からカーディガンを羽織り、身支度を整えてアスカは部屋を出た。
西口から外へ出ると、山々の様子が目に飛び込んでくる。
山の紅葉は所々葉が落ち、茂っていた雑草たちも枯葉へと変わっていた。
息を吸うと冷たい空気が肺を刺し、頭がすっきりと冴えていく。
アスカが孤児院に来て一ヶ月が経っていた。
館を出て枯れた蔦の這うアーチの横を通り、かろうじて草が刈られた道を歩く。
その奥には小さな温室があった。
「おはようございます。」
挨拶をしながら扉を開けると同時に、二人の少女が振り向く。
「おはようございます、アスカさん。もうそんな時間ですのね。」
「おはようございます~。もう少しで終わりますから、待っててくださいね~。」
作業着姿のユキナとサクラはそう言いながら花に水を与えていく。
温室の花への水やりは二人の日課らしい。
アスカも最初は手伝おうとしていたのだが、朝に弱いアスカは一日目から遅刻をかまし、二人に謝る羽目になった。
その結果、朝食の時間に二人を迎えに行く役目を仰せつかり、この一週間何とかこなしている。
せめてこれくらいはと片づけを手伝い、三人で食堂へと向かう。
「あ、三人ともおはよう。」
「おはようございます、ルリさん。」
扉を開けようとした時、作業服姿のルリが現れた。
どうやらルリは毎朝炭焼き小屋でケンイチの作業を手伝っているらしく、勉強前に行う掃除が終わるまで作業服で過ごしている。
席に座ると、スバルがにやにやとした顔で声をかけて来た。その向かいにはカリンが座っている。
「よぉアスカ。今日もちゃんと一人で起きられたか?」
「……おはようございます、スバルさん。それくらいちゃんとできます。」
「ハッ、ここに来てたった二日でサクラに頭下げたヤツがよく言うぜ。」
「…………うるさいです。」
絡んでくるスバルをあしらい、朝食を口に運ぶ。
ごはんとみそ汁、ベーコンエッグ、サラダを平らげお茶をすすると、活力がみなぎってくる気がした。
「アスカちゃんは悪くないんですよ~。」
その後も執拗にからかってくるスバルを見かねたのか、サクラが口を開く。
「寝起きでふにゃふにゃのアスカちゃんは、と~ってもかわいいんです~。だから、起こしちゃうのがかわいそうで~。」
「なっ……!サクラさんっ!」
サクラの突然の暴露に、アスカは顔を熱くするのであった。
掃除の時間を終え、食堂の向かいにある部屋に集まる少女達。
マリナからプリントが配られ、授業が始まる。
内容は簡単な読み書きから計算まで様々であり、日によってはミドリによる裁縫、料理の授業もある。
「うぅ~、アスカちゃ~ん。これってどうやって解けばいいんですか~?」
「えっと、これはですね……。」
頭を抱えるサクラに説き方を教えるアスカ。
「……前から思ってたけど、アスカって読み書きも計算もできるのね。」
それを見ていたカリンが声をかけてくる。
「まぁ、いろいろありまして……。わからないところがあるなら、教えましょうか?」
「……大丈夫よ。これくらい自分でできるわ。」
アスカの返答に少しむっとした表情で返すカリン。
善意からの発言だったのだが、嫌味に聞こえてしまったのかもしれない。
日本語の難しさにため息をついていると、ふと視界の端に窓の外をぼうっと眺めるルリの姿が映った。
視線を追うように外に目を向けると、正門側の景色が見える。
綺麗に均された庭、高い鉄柵、その奥には木々が生い茂る山の連なりがある。
ここに来る時に通った山道もあるはずだが、色とりどりの紅葉に隠され窓からは見えない。
「……アスカちゃ~ん。」
はっと我に返ると、サクラが悲壮な顔でこちらを見上げている。
それからアスカは、サクラのプリントを手伝うことに時間を費やすのであった。




