第3話:小さな淑女とつつましい喜び
「まずは食堂に行きましょ~。」
サクラからの提案により、一階の西側にある食堂へとやってきていた。時刻は3時を回っており、食堂に行けばおやつがもらえるため、この時間は子ども達が集まるらしいのだ。
広い室内は華やかな内装と大きな長机が一つ、そしてそれを囲うように置かれた椅子のみで、アスカの想像していた食堂とは大きく異なっていた。
長机の一角には二人の少女が座っている。
「今日はお二人だけですか~。」
そう呟いたサクラは少女達に近づいていく。
「あら、サクラさん……と、そちらの方は?」
ティーカップを傾けていた少女がこちらに気付いて声をかけてくる。肩まで伸びた金髪は緩くウェーブがかかっており、ちょこんと首を傾げる姿は食堂の雰囲気も相まってここが孤児院であることを忘れさせるほどに美しい所作であった。
「初めまして。今日からお世話になります、アスカです。」
そう言って頭を下げると、「まぁ!」と少女は立ち上がり優雅に礼を返す。
「初めまして。私、ユキナと申します。以後よろしくお願いいたしますわ。」
「はい。よろし——。」
「わぁ~!新しい子!?私スミレ!よろしくね!あっ、座って座って!一緒におやつ食べよっ!」
ユキナの挨拶に応じるより早く、隣に座ていたもう一人—茶髪のショートカットを左右で結んだ少女—スミレが、立ち上がって話しかけてくる。
アスカはその勢いに押され、言われるままに席に着き皿の上のクッキーをかじる。
「……おいしい。」
素朴な甘みの中から、バターの風味が口いっぱいに広がった。
「気に入っていただけたようで何よりです。」
久々の甘味を味わっていると、ティーカップが差し出される。
顔を上げると、そこには赤みがかった髪を後ろで束ねた女性が立っていた。
「あなたが今日から一緒に生活するアスカちゃんですね?私はミドリって言います。用務員兼家事全般の先生をしています。よろしくお願いしますね。」
ミドリは挨拶だけして「あとは若い方たちで~」とキッチンワゴンを押し、にこやかに部屋を出ていく。
「ミドリ先生はお料理がすっごく上手なんだよ!私たちもお手伝いするけど、私たちのご飯はほとんどミドリ先生が作ってくれるの!」
突然のミドリの登場にアスカが呆然としていると、スミレが補足してくれた。
「サクラのぬいぐるみさん達も~、ミドリ先生が作ってくれたんですよ~」
次にサクラが嬉しそうに口を開く。
「……なるほど。」
アスカにはそう呟き、クッキーをもう一つ口に運ぶ。
こうして小さなお茶会は始まった。
「他の子たちがどこにいるか知りませんか~?」
おしゃべりとおやつを堪能した後、サクラがユキナとスミレに尋ねる。
「ヒナコさんとコナツさんはおやつをもらってすぐにどこかへ行ってしまって、どこにいるかわかりませんの……。イノリさんとメグさんはいつもの場所にいると思いますわ。それから、スバルさんとカリンさんは談話室ですわね。先程まで一緒にいましたので。」
「あとはルリちゃんとアヤちゃんだね。二人は炭焼き小屋にいると思う。サヤカちゃんは……わかんない!」
二人から情報をもらい、次の行き先を相談するアスカとサクラ。
「どこから行きますか?」
「う~ん……。一番近いのはやっぱり談話室ですね~。」
談話室は二階東側の角にあるようだ。
「いいえ、先に他の場所がよろしいかと。」
ならば談話室に、となりかけたところでユキナが異を唱えた。
「どうしてですか?」
「スバルさんとカリンさんは喧嘩が絶えないものですから、お二人で行くのは危険かと。ルリさんに付いてきてもらった方が、余計なトラブルもなく済むと思いますわ。」
「じゃあ炭焼き小屋から行っちゃいましょうか~。」
そんな話があり、アスカとサクラは炭焼き小屋へと足を向けるのであった。




