第22話:Who killed Cock Robin?
「ユキナ、どうして……。」
サヤカの呟きは暗闇へと溶けていった。
「本当に死んでるのかよ……?」
「そう、みたいね……。」
スバルが聞いてくるが、カリンも答えられない。
目の前に広がる死に足が竦むが、状況を確認するために周囲を見回すと、視界の端で何かが光った。
恐る恐るランタンを向けると、赤い血がべったりと付着した斧と火の消えたランタンが転がっている。
「なんなのよ、ここ……。」
冷たい地下室を照らしながら、カリンは呟いた。
部屋には沢山の棚が並べられており、古そうな本やよくわからない瓶詰が並べられている。その奥の机に近づくと、様々な工具が乱雑に置かれているのが見えた。
「……おい、それ、ホンモノか?」
背後にいたスバルが机の上を指さす。
そこには人間の頭骨があった。
大人のものとは思えない小さなそれの下には、同一人物のものと思われる骨と不思議な文様が刺繍された白い布が敷かれ、まるで祀られているように綺麗に整えてある。
「……もしかして、サクラ?」
どうやら近くに換気口があるようで空気が流れ、ランタンの灯が揺れた。
「……なぁ、早く先生に言いに行こうぜ?もうオレ達だけでどうこうできる問題じゃねぇよ。」
スバルが服の袖を引いてくる。
「……そうね。」
カリンは一度こちらを見上げる頭骨へと向き直ると、手を合わせてから出口へ向かう。
「サヤカ。行きましょう?」
「…………うん。」
声をかけるとユキナの傍らで項垂れるサヤカも立ち上がった。
「……誰が、こんなことを…………。」
隠し部屋を出たところでサヤカの呟く声が聞こえ、カリンはランタンを強く握りしめる。
「…………これは、推測でしかないんだけど……。」
「!犯人わかったのか?!」
推測を語る前にスバルが声を上げた。
「わたしも、知りたい!」
サヤカもそれに続き、震える手でしがみついてくる。
「…………たぶん、犯人はルリよ。」
大人達はサクラを捜すために外にいて、サヤカが来る前に一度も食堂に現れなかったのはルリだけなのだ。
「……そんだけの理由か?それじゃあルリが犯人とは限らねぇだろ。」
「まだあるわ。ルリは普段、掃除が終わるまで作業服のままで過ごしてた。でも今日、アンタ達が呼んできたルリは…………。」
「制服に着替えてた……!」
作業服に着替えるものの、ケンイチのいない炭焼き小屋でルリが許された作業は火の番だけ。いつものルリなら着替えたりせずに食堂に現れるはずなのだ。
誰にも見せられないような汚れができない限りは……。
「でも、なんでルリはこんなことしたんだ?」
「……ユキナがあの部屋の存在に気付いたからよ。」
よくわからない研究室のような部屋。おそらくルリはあの部屋の存在を隠したかったのだろう。
「とにかく、まずは先生に報告よ。」
そう言って館に戻る。
院長室に向かいノックするが返事は無い。
「まだ見回りじゃねえか?」
「……二階を捜してみましょ。」
仕方なく近くの階段から二階に上がった。
階段のすぐ横にはルリの部屋がある。
「突入するか?」
スバルが腕を回しながらそう言った。
「……止めておきましょ、何があるかわからないし。」
「今は先生に言うのを優先した方がいいと思う。」
二人でそれを止めて再び歩き出す。
「……ねぇ、カリン。サクラもやっぱり…………。」
「えぇ、さっきそれらしい骨を見つけたわ。」
「ルリの奴、いくら何でもヤバすぎだろ。」
「…………本当に、ルリがサクラを殺したのかな?」
エントランスを通り過ぎたところでサヤカが立ち止まった。
「どういうこと?」
「だって、同じ部屋にはアスカがいるし、部屋の外で殺したにしても子供一人でサクラを運ぶことなんてできない。」
「……まさか——。」
「あなた達!こんな時間に何をしているの?!」
突如後ろからかけられた声に振り返ると、エントランスの階段からシズカが現れる。
「危ないことはしないでって言ったでしょう?!部屋に戻りなさい!」
「シズカ先生、ユキナを見つけたの!講堂に隠し部屋があって!」
「中はなんか、ヤバくてっ!ユキナが倒れてて……!」
「もう一つ骨があって、もしかしたらサクラのかもしれないのっ!とにかく早く来てっ!」
見知った大人に会えたことに安堵し、三人は早口に捲し立てる。
「えっ、ちょっ、ちょっと落ち着いて——。」
ボーン!ボーン!
シズカが三人をなだめていると、エントランスの振り子時計が鳴った。12時になったようだ。
その音に勢いを削がれ、三人は落ち着きを取り戻す。時計が鳴り止むとシズカが口を開いた。
「……本当に無事でよかった。お願いだから、危ないことはしないで。……本当に心配なの。」
震えた声で三人を抱きしめる。その体も同じように震えていた。
それだけでシズカがどれだけ自分達を心配してくれたていたのかがわかり、申し訳ない気持ちになる。
「……シズカ先生。ごめんなさい、心配かけて。今も、それから……今朝のことも。」
カリンが謝ると、シズカは優しく頭を撫でた。
「いいえ、私の方こそごめんなさい。本当は私がしっかりしなきゃいけないのに、あなたに辛く当たってしまった……。大人として情けないわ。」
「アタシはただ、一刻も早くユキナを見つけたかったの。危険かもしれないけど、サクラもユキナも大事な家族だから。」
「えぇ、わかっているわ。カリンさんは本当にみんなを大切に思っている。……でもね、私にとってはあなたも大切な家族なのよ?もちろん、スバルさんとサヤカさんも。」
「「先生……。」」
四人はしばらくの間抱き合った。体温が混ざり合い、寒い夜の中にいても安らぎを感じる。
少女達は家族のぬくもりをほとんど知らない。
だからこそ、この安らぎがとても尊いものに思えた。
「……今日はもう休みなさい。詳しい話は明日聞くわ。」
「でも……。」
しばらくして、シズカは三人から離れると、ランタンを持って立ち上がる。カリンは不満の声を上げるが、聞く耳を持ってくれない。
「あとは先生を信じて?さぁ、部屋に戻りな——ぐぁっ!」
突然、シズカが悲鳴を上げて倒れた。三人はその先に立っていたものを見て凍り付く。
「…………やっぱり子どもの力では一撃とはいきませんね。残念です。」
「……ア、アスカ…………?」
暗闇の中にいたのは、真っ赤に濡れる斧を手に持ったアスカの姿であった。




