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腹ペコな○○たち  作者: 在処


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第15話:小鳥は暗雲に迷う

「…………いや、無理ですよこれ。」

 西口の先は雪によって閉ざされていた。

 朝の捜索で大人たちによって開かれたであろう道も、降り積もる雪によって塞がりつつある。

「大人なら進めるかもしれませんけど、雪かきもされていない状態でこの中を進むのは無理です。」

「サクラさんが外に出るなら、温室だと思ったのですが……。」

 その後も可能性のある場所について話し合っては巡ってみるが、やはり何も見つからない。

 意気消沈しながら歩いていると、勉強部屋から物音が聞こえてきた。

 何かを叩きつけるようなその音は、およそ勉強部屋から聞こえていい音ではない。

「誰かいるのかしら?」

「ちょっ!ユキナさんっ!」

 躊躇(ちゅうちょ)なく扉を開くユキナ。アスカはそれを制止しようとするが、一歩間に合わず扉は開かれる。

「!……なんだお前らかよ。ビビったぁ~。」

「だからやめようって言ったのに~。先生とルリちゃんに見つかったら怒られちゃうよぉ。」

 そこにいたのはスバルとスミレであった。

 スバルの足元にはボールが転がっている。

「……室内でボール遊びなんて危ないですよ。」

「仕方ないだろ、外はすげぇ雪なんだから。体動かせる場所が無ぇんだよ。」

「だからと言って、ここでするのは危ないのでなくて?それもスミレさんまで巻き込んでなんて。」

「じゃあどこでやればいいんだよ?」

 二人でボール遊びを止めるよう説得するが、スバルは聞く耳を持たない。

「……強情ですね。」

「当たり前だ。オレは誰の指図も受けねぇぜ。」

 アスカの溜息に得意気に答えるスバル。

「あんまり我儘だと、いつか嫌われてしまうかもしれませんよ?」

「関係無ぇよ。それで自分を曲げるなんてかっこ(わり)ぃだろ。そんなのオレは嫌だね。オレはオレらしく生きる。それを変えるつもりは()ぇ。」

 スバルの決意とも取れる言葉に、再度溜息が漏れた。

「……わかりました。」

「おっ、じゃあアスカもやってくか?」

 遊び相手ができたと嬉しそうなスバルに、アスカは首を振り答える。

「いえ、ルリさんに報告します。」

「いやそれはズルだろぉ!」

 こうしてアスカは、スバルのボール遊びを止めさせることに成功したのであった。



「――で、何も見つかって()ぇと?」

「まぁ、はい。」

 勉強部屋にて、四人はそれぞれ自分達の席に座る。

 アスカ達はここまでの捜査の状況をスバルとスミレに話した。

「だろうな。ナカにいるなら、先生達がもう見つけてるだろ。」

「そうですよね……。」

 スバルの言葉に反論できず、黙り込むアスカとユキナ。

「やっぱり、どこかで動けなくなっているのでは?」

「ですが、あの雪の中で外に出るとは思えませんし……。」

「オイオイ、他にも可能性はあるだろ?」

 考え込んでいると、スバルが話に割って入ってきた。

「ここにいる誰かが、サクラを(さら)った犯人って可能性だよ。」

「えっ!」

 スミレが驚きの声を上げる。

「オレはケンイチ先生あたりが怪しいんじゃねぇかって踏んでるぜ。唯一の男だし。」

「それだけで犯人扱いするのはどうかと思いますが……。ありえなくはないですね。」

「アスカさんまで、失礼でしてよ。ルリさんに聞かれたら大変ですわ。」

 ユキナの言葉に反射的に扉の方を見る。当然、扉が開く気配は無い。

「……ま、まぁそれは冗談にしても、だ。もしかしたら大人達の中に犯人がいるかもしれねぇぜ?」

 ひやりとした緊張感を紛らわすように、スバルが冗談めかして言う。

「……これからは先生達の動向にも気を付けた方がいいかもしれませんね。」

「そんなこと無いよっ!」

 アスカがそう呟いた時、それまでほとんど会話に入ってこなかったスミレが突如大声で否定した。

「先生達はそんなことしないよ……。そんなこと、しないもん……。」

 消え入りそうな声で呟くスミレ。

 その目元には涙が溜まり、今にも零れそうだ。

「ス、スミレさん、誰も本気でそんなこと思っているわけではありませんわっ。ねっ?」

「あっ、あぁ、当たり前だろっ。冗談だって。だから泣くなよぉ……。」

 ユキナとスバルが咄嗟になだめる。

「そ、そうですよ。悪口っぽくなっちゃいましたけど、私達も先生のことは信じてますから。」

 アスカも初めて見るスミレの涙に動揺を隠せない。

 その後、本格的に泣いてしまったスミレを三人で慰めるのであった。



「アンタ達~。いい加減大人しくしなさいよっ!」

「「きゃ~!」」

 アスカ達がスミレをなだめている頃、カリンは談話室を走り回るカリンとヒナコを追いかけていた。

「……捕まえたっ!」

「わぁ~!捕まっちゃった~!」

「コ、コナツちゃ~ん!」

 ようやくコナツを捕まえたカリン。

 嬉しそうに笑うコナツを後ろから抱きつつ、ヒナコと向き合う。

「さぁ、大人しくしなさいヒナコ。コナツがどうなってもいいの?」

「えっ!コナツ、何されるの?!」

「ごくりっ。」

「言うこと聞かない子は……くすぐりの刑よっ!」

「アハハハハッ!やめてぇ~!」

 コナツをひとしきりくすぐったカリンは、うつ伏せに倒れたコナツの尻を叩いた。

「ほらっ、わかったら大人しくしなさい。ただでさえ火の近くで危ないんだから。」

「「はぁ~い。」」

 追いかけっこに満足したのか、二人もカリンに倣って大人しく暖炉の前に座る。

「お疲れ様、カリンちゃん。」

「……イノリも手伝ってくれれば良かったのに。コイツ()の相手するの大変なんだけど?」

「ゴメンね?」

 膝で眠るメグを撫でながら謝るイノリ。カリンを手伝う気は毛頭ないようだ。

「……帰ってこないね、アスカちゃん。」

「どうせユキナに付き合わされてるんでしょ。しばらく帰ってこないわよ。」

 ユキナは好奇心が強く、気になったことにはとことん首を突っ込んでいく。

 恐らくアスカもそれに振り回されているのだろうとカリンは考えていた。

「大丈夫かな?サクラちゃんが心配なのはわかるけど……。」

「館の中を捜してるうちは危険なことは無いでしょ。大丈夫よ、多分。」

 すでに大人達によって館内はくまなく捜索されているのだ。

 これ以上の手がかりが見つかるとは思えない。

「……サクラちゃん、どこに行っちゃったんだろうね?」

 イノリが、誰にともなく呟く。

「……サクラは、コマドリだね~。」

「メグちゃん?」

 それに答えたのは、眠っていたはずのメグであった。

「コマドリ?」

「……もしかして、外国の詩の話?でもそれって……。」

 イノリの表情が曇り、それに嫌な予感がしたカリンはメグに尋ねる。

「なんなの、それ?」

「Who killed Cock Robin? I, said the Sparrow……。」

「ちょちょちょ、いきなり英語?!」

 突然流暢に英語の詩を(そら)んじるメグ。

「えっと、誰がコマドリを殺したか?っていう詩なの。」

「ふーん。……って、それじゃあまるでサクラはもう……。」

 イノリの説明を聞いたカリンは、メグの言わんとしていることに思い至り言葉を失った。

「……メグちゃん、どうしてそう思うの?」

 イノリがメグに尋ねる。

「う~ん……。………………スヤァ……。」

「……ちょっと!ちゃんと説明しなさいよ!」

 意識を手放しかけているメグを揺すって続きを促すと、メグは気だるそうに眼を開いた。

「……サクラは、コマドリになって飛んで行っちゃったの……。きっとみんな飛んで行って、そうして誰もいなくなっちゃうの……。」

「「…………。」」

 何も言えなくなるカリンとイノリ。メグはそんな二人のことは気にせず、再び眠ってしまった。

「……なによ、それ。」

 ようやく感情が追い付いてきてカリンはそれだけ吐き捨てる。

「コナツたちも飛んでいっちゃうの?」

「そして誰もいなくなっちゃうですか?」

 横を見ると、不安そうな顔でコナツとヒナコがこちらを見上げていた。

「……そんなワケ無いでしょ。大丈夫よ。」

 そう言って二人の頭を撫でる。

 しかしカリン自身、胸につかえた不安を拭い去ることはできないのであった。



「不安?」

 炭焼き窯の前に座ってぼんやりと火を眺めていると後ろから声がかかった。

「……アヤちゃん。」

「よくこの雪でここに来ようと思ったね、ルリちゃん。」

「……うん。ケンイチさんが雪かきしてくれてたから。」

 アヤは窯の中で燃える炎に手をかざす。

「はぁ~、火はあったかいね~。癒される~。」

「うん……。」

 小さく首肯し、炎を見つめるルリ。

「不安?」

 アヤはもう一度、同じ質問を投げかけた。

「……何が?」

「わかんないけど、背中から哀愁が漂ってるんだよね~。……何かあった?」

 普段通りの調子だがこちらを(おもんぱか)る声音に、ルリは自然と胸の内を吐露する。

「……サクラちゃん、見つかるかなって。」

「んまぁ、ダイジョブじゃない?大好きなケンイチ先生を信じなよ。」

「アハハ……。軽いなぁ……。」

 乾いた笑いが出た。

 アヤのおどけた調子に合わせてみようと試みたが、上手くいかない。

「ルリちゃんでも不安になることなんてあるんだね~。」

「そんな、人を心が無いみたいに……。私だって、まだ11歳の女の子なんだよ?」

「そりゃあ、失礼しました。お嬢さん。」

「もう……。……ケンイチさんが頑張ってくれてる。だから、私も頑張らないと……。」

 炎が揺れる。思わずぎゅっと拳を握った。

「……まっ、そういうことなら、あたしもしっかり支えますよ。これでも年長さんですからね~。」

 固く握りしめられた拳に、アヤの手が重なる。

 その手のぬくもりに力が抜けていくのを感じて、ルリは今度こそ自然に笑うことができた。

「……ありがとう。アヤちゃん。」

「いえいえ~。あたし達はルリちゃんがしっかりしてくれてるからこそ、好き勝手できるからね~。」

「もうっ。……お手柔らかにね?」

 二人で笑いあう。

 ルリの心にはもう、不安は無かった。

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