表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵は静かに語る……。  作者: てきてき@tekiteki


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/17

ラボ送り

 薄暗い工房の奥で、解体屋の紫モヒカンがぼんやりと作業灯の光を反射していた。

油と金属の匂いが混じった空気の中、その紫はやけに生き物めいて揺れている。

――いや、正確には揺れた。

例のデバイスが視界に入った、その瞬間にだ。

興味を隠すつもりなど、最初からないらしい。


俺は古びた金属ケースを両手で持ち上げ、

作業台の中央へ「コトン」と置いた。

無言の工房に、やけにその音だけが響く。


「話してたのは、こいつだよ」


言葉を投げると同時に、やつは手袋を外しながら身を乗り出した。

素手になった指が、デバイスの外殻をなぞる。

まるで皮膚越しに鼓動を探るみたいな、妙に丁寧な動きだ。


「へぇ……懐かしい形だな。

 ん? なんだこりゃ? 何がくっ付いてる?」


俺は腰に手を当て、鼻で小さく笑う。

――やっぱり分かるか。

そう言外に伝えるつもりだった。


「そうなんだよ。何かが奥に隠れてるはずなんだが、

 データを見に行っても、全部隠されてる」


モヒカンは目つきを鋭くし、机のライトを斜めにずらした。

影を変え、角度を変え、覗き込む。

まるで光そのものを工具にしているみたいだ。


「すげぇなぁ、こりゃ。

 物理的にも、偽装されてるってことだ」


俺は肩をすくめ、机に散らばったボルトを一本、指先で弾いた。

転がって、音を立てずに沈む。


「やれやれ、困ったモンだよ」


口ではそう言いながら、正直なところ――

俺はこの状況を、少し楽しんでいた。


やつの口角が、ゆっくりと上がる。

獲物を前にした獣の、それだ。


「はぁ……これはあれだな。

 俗に言う、挑戦状ってやつだ」


「挑戦状? 誰から誰に向けての?」


眉をひそめる俺に、

モヒカンはデバイスの角を軽く叩きながら言った。


「この手の挑戦状ってのはな、

 挑戦してくる“全員”に向けられてる。

 しかも……かなりデリケートだ。まぁ、見てみろ」


そう言うと、やつはスクラップの山を片手で押しのけ、

足元に隠れていたスイッチを、つま先でポンと踏んだ。


「ガコン」


工具棚が音を立てて回転し、

裏側に隠されていた巨大モニターがせり出してくる。


「また秘密基地みたいな真似を。好きだな……」


軽口を叩く俺を無視して、

モヒカンは胸ポケットからペン型の小型カメラを取り出した。

指先で二度回すと、赤いLEDが点灯する。


モニターに映し出された拡大映像。

青白い光に照らされ、内部構造が鮮明に浮かび上がる。


「あのボックスが焼かれたって言ってたな。

 だが、こっちの配線は涼しい顔してやがる。……なぜだ?」


俺は腕を組み、モニターに映る奇妙な基板を睨む。


「仕掛けがあるんじゃないのか?」


舌打ちしながら拡大を切り替えるモヒカン。

画面には、何層にも重なった基板の“嘘”が映っている――

少なくとも、やつにはそう見えているらしい。


「ああ。仕掛けはいろいろありそうだ。

 ただ……こいつはブラフだらけだな」


俺は椅子の背にもたれ、息を吐いた。


「普通じゃねぇな。

 こりゃ、その辺の技術者が……」


「逆立ちしても、こんなもん作れない。だよな」


「奴らは逆立ちすらできねぇだろ」


「それも先に言っておいたよ」


俺は小さく頷く。

モヒカンは満足そうに笑い、工具を一本落として拾い上げた。


工房の空気が、ほんの一瞬だけ和む。

だがすぐに、金属の匂いと機械の熱だけが残った。


俺はモニターを見上げたまま、核心に触れる質問を投げる。


「で、冗談は置いておいてだ。

 どういう事になってる? こいつは」


配線の迷路を前に、

モヒカンは腕を組み、指先で肘をリズムよく叩いた。


「外側だけ見ても意味ねぇ。

 たぶん、中身もちょっと見ただけじゃな」


「中身も?」


細いピンを取り出し、

デバイスの側面をトントンと叩きながら言う。


「言い方が悪かったな。

 ほとんどの情報は、暗号化されてるだろう」


「うちのテントウムシでも、厄介そうだった」


「当たり前だ。そんなの続けてたら、

 最悪、システムごと乗っ取られる」


紫のモヒカンが、ゆっくり揺れる。

その目は、完全に獲物を追う獣のそれだ。


「一流ってのはな、

 相手のレベルを値踏みしながら、

 段階的に楽しめるように罠を張る」


俺は顎に触れ、黙り込む。


「俺のやってた事も、鼻で笑われる程度ってことか」


「まぁな。

 だが一番の功績は、俺の所に持ってきたことだ」


「……だろうな。俺の手に負える気はしなかった」


「RXが必要って言ってたよな?

 そんなもんで太刀打ちできるほど、こいつは甘くねぇ」


「そんなに凄いのか?」


モヒカンはデバイスを一通り眺め、結論を叩きつける。


「ああ。

 こいつは……ラボ送りだ」


その言葉と同時に、

足先で別のスイッチ群を踏む。


「ガシュン」「ギギギ……」


床の一部が沈み、

油と鉄の匂いの中、地下への階段が姿を現した。


モヒカンは俺の肩を軽く叩き、ニヤリと笑う。


「ご案内と行こうか。

 まだ誰一人入れたことのない――俺の秘密基地へ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ