第一話
俺の名前は田島。社会人3年目、メールの山に埋もれてるサラリーマンだ。
正直、上司の佐伯さんから来るメールは長くてくどくて読みにくい。返信に頭を使うのが面倒で、ある日ついにAIに頼むことにした。
「佐伯部長への返信、ていねいで前向きに、でも絶妙に中身は薄く」
そう打ち込んだだけで、AIは完璧な返信を返してきた。
「ご指導ありがとうございます。ご指摘の意図を汲み取り、改善に努めてまいります。」
……なんだこの文章。俺より全然しっかりしてるじゃん。
しかも、佐伯さんからの返信が早い。
「さすが田島くん、君は本当に誠実だ。安心して任せられるよ。」
その日から、俺の社内評価が上がっていった。
2週間後、会議中——
佐伯部長がにこにこしながら言った。
「実はさっきのメールでの君の意見、とても的確だったよ。全体方針に反映させたんだ。」
俺(……意見?何送ったっけ?)
こっそり送信履歴を確認。
AIが送ってた文章:
「確かに現在の方向性には課題があるかと思います。代替案として、チーム間の情報共有を強化し、週次レビューを取り入れるのはいかがでしょうか。」
俺「(え、そんなこと言ってたの!?)」
その日の午後、佐伯部長がぽつりと漏らした。
「やっぱり、君みたいな若手が会社を変えていくんだなぁ……私もAIに頼ってる場合じゃないな。」
俺(部長……あなたもAI使ってたんですか……)
──俺と部長の信頼関係は、AI同士のやりとりで出来上がっていた。
つづく