表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

【2】皮肉な決意

人の散る事は悲しき

華の散る事は麗しき

私散る時は夢覚めし


リリィ・アスナ―――

「何だったんだ…あいつは」

その言葉は風に木霊し消えていった


突然の事に身体が固まっていると…

「あれ?眼鏡くん?」

その言葉にハッとする

「リリィ…さん…」

「どうしたの!?顔色悪いよ!?」

先程の出来事を話そうと口を開いたが咄嗟に口を噤んだ、こんな面倒臭い事に関わっても怠いだけだ…

「何でもありません…」


一瞬、リリィさんの顔が顰めた気がする…


「ん?でも、ほら!眼鏡くんの手!」

手?

ふと目線を手に移すと…

していた筈の黒手袋が焦げ火傷をしている

「…!?」

「ほらほら、手当してあげるから」

関わられる方がかえって面倒だ…

「これくらい大丈夫ですから」


「でも…」


「それでは、失礼します」


「あっ…」


そう言い残して一目散に逃げてしまった


「はあ…」

不意に歩いて行くと大聖堂の前まで来ていた

ふと、視線を上げると人影が見えた

「団長…」


「ん?」


「おお!なんだ、グレゴリィ帰ってきてたのか任務は終わったか?」


「いえ、まだです」


「団長こそ…こんな所に突っ立って何してるんですか?」


「俺か?俺はなお前に伝え忘れた事があってな、それを伝えに来ただけだぜ」


「伝えたいこと?」

そう首を傾げると、団長は続けて話す


「さっきの少し見てたぜ。昔じゃねぇんだ、もっとお前は皆を頼っていいんだぜ?」


「……」

「団長は僕の両親がどうなったか…知ってますよね?」


「ああ…知ってる」


「僕の所為で死にました、僕に関わっていたから死んだんですよ」


「それも聞いた」


「なら、僕が人と関わりを持ちたくない理由も知っているはずです」


「勿論、知ってるよ」


「なのに、頼れなんて無理な話です」


両者の間に数秒の静寂が流れる

「グレゴリィ…お前は何時までそうやって生きてくつもりだ?」


「何時までも…ですよ」

大聖堂の門に背を向け歩き始める


心に虚しく団長の言葉が残響する

人に頼れ…

ならなんなんだ

母親はどうして死んだ?

あの日あの時、誰に頼ればよかった?

物心ついた時から父親はいなかった

周りの奴らは俺達を呪いとして遠ざけた

どうすれば良かった?

そもそも、俺が生まれてこなかったら?

母親の容態は悪化せずにやつれずに生きて…

幸せに…幸せ?


俺が…俺が壊した?

幸せを?家族を? ……命を?


「グッ…グウゥッ…!」

頭が割れるように痛い…!!


頭を抱えながら路地裏にへたり込む


いっその事…あの人達のためにも俺は……


「居ない方が良いのか…?」


真っ黒く視界が歪む様な気分だ

でも、何だか気分が軽いな…今から…

この世から居なくなれる、そう思うと…やっぱり…

気分が軽いな


おぼつかない足取りでフラフラと街の外へ向かう


そうだ…近くに魔淀の穴が発生しているんだっけな

あそこなら…誰にも見つからずに…いける

探しに来る人もいないだろうから


人二人分位の高さのある洞窟の様な場所に辿り着き

息を呑んで中に入る…


「暗いな…」

声は反響し奥の暗闇にかき消されていく


少し行ったところで広い空間に繋がりその場に

歩を進めていくと…


中央付近で佇む影の巨影に目がいく

その巨体には見覚えがあった


異常に発達した前足に地を這う四つ目の巨躯を持つ竜


"中級魔獣・アノルガルン"…


だが…

「おかしい、こいつはもっと最深部の方に…」

そう考えていると…


「ッ…!?」


向かってきた鋭く速い巨大な物体を咄嗟に避けた

「危ないな…」


危ない?何を言っているんだ?

自分は死にに来たんだろ?何故避けた?

そうか…やっぱり…


「死ぬのは…怖いんだなぁ……」


死にたくはなかった、けどもう遅い

全部が遅い、最後まで無様で…救いようが無い


「ははっ…死にたくないな…」

乾いた笑いと共にまたも巨大な怪物の攻撃が確実に

自分に向かって飛んでくる


「あ…」


「ダメッ!!」

誰かに弾き飛ばされ横方向に大きく身体が跳ね

怪物の攻撃を避けた


リリィさん…

「なんで…?」


「なんで、じゃないよ!!死にたいの!?」

涙目でその少女は声を荒らげていた


……何故この人は涙を流しているんだ?

怖いなら、来なければ良かったのに


つくづく、不思議な人だな…


「君の事は団長から聞いたよ…」

「その時に私は可哀想だなって思ったの」

「思うだけで、何もしないのに同情するのは無責任だし私も君に寄り添えるように努力してた!!」


「でも…君には寄り添えなかった…」


「私じゃ…力不足だったかな…?」

そう言い一粒の涙が彼女の頬から零れ落ちた


あぁ…そうか、彼女は…"リリィさん"は…

ますます、自分に嫌気がさしてくる…


「大丈夫だよ、もうすぐ団長も来てくれるからね」

「それまでは…私が何とかするから」

腰に携えた黒い二刀の刃に手を掛け引き抜き

あの怪物に向かって突進していく


「無茶です…!僕の事はいいから…!」

彼女を引き留めようと足を動かそうとするが…

「ッ…!」

さっきの攻撃で避けきれなかったのか、足に深い傷跡が残されていた


今はまだリリィさんも攻撃を避けられているが…

体力が無くなれば…

駄目だ…駄目だ駄目だ…

また死ぬんだぞ…?自分のせいで…

動け動け動け!

何度も動けと念じても足は依然として地面に釘で打たれたかのように動かない


その時…


ドゴンッ!!


暗闇の中に轟音が響き、その方向に目をやると


リリィ…さん…?

怪物に投げ飛ばされた彼女は壁に叩きつけられ

血が至る所から流れ、息は浅くなっており

痙攣も起こしている


やめろ…

「やめろ!!」

「こっちだ!俺を食え!!先にいたのは俺だろうが!!」


いくら叫んでも、四つ目の化け物は彼女をしっかりと

見つめており段々と近付いていく


こんな時でも…俺は…使えない奴だ……

何もしないで…臆病だからと逃げ続けて…


頼むよ…俺に誰かを…大切な人を


『護らせてくれ…』


……


そう願うと自然と手足が糸で繋がれたように動き出し立ち上がれた、そしてあの化け物に歩み寄っていく


しっかりと拳を握り締め

地面をゆっくりと蹴り前進していく


その気配を感じ取ったのか四つ目の化け物は

警戒した様子でこちらを睨む


「お前は殺す、俺の大切な人を傷付けたんだ」

「覚悟は……要らないか」


グンッ!


目にも止まらぬ早さで怪物に接近し一気に蹴り上げ、そのまま追撃を流れるように叩き込んでいく


原理は分からないが、力がとにかく漲っている!

やれる、奴を…殺れる!!


依然と空中で殴られている敵にトドメを撃つため

拳に更に力を込める…


「うおおぉぉぉぉぉ!!」

鼓舞故か、痛み故か分からない叫びに似た雄叫びを上げながら拳を前方に向かって全力で振り抜く!!


ガガガッ…!!


振り抜いた拳は空を切り裂き巨大な風圧が押し出され回転しながら岩ごと魔獣を削り、螺旋状の空間が作り出された


「はぁ…はぁ…」

意識が朦朧とする…

立って…られない…な…

リリィ…さ…ん…



「グ……リィ…!!」


「大…夫……すか!!」


団長…とマリーさん…

良かっ…た…


―――――――――――――――――――――――――――


「〜〜!?」

「〜〜〜!!」

「〜〜……」


「ん…」

やけに騒がしいな…


「あっ!眼鏡くんが起きた!!」

「ちょっと!団長に眼鏡くんからも言ってよ!!」


「うるせぇ、うるせぇ、とにかく暫くは外出んな!」


「あ、あの〜…グレゴリィさんが…」


「「〜〜〜!!!!」」


「あう…」


なんでこの人ら喧嘩してんだ…


「さっきの件でグレゴリィさんとリリィさんの単独外出は危険だって団長さんが外出制限を設けたそうで…」


「あー…リリィさんには謝っときます…今回も僕のせいなので…」


「あはは…私は喧嘩を止めに行きますね…お大事にです…」


「あ、あの…喧嘩は…!」


あぁ…結局、迷惑かけてばっかりだな…

でも…

でも、良かったなぁ…リリィさんも俺も死んでない…

安心感からか涙が零れる…

なんで泣いてんだろ…ははっ…


「「グレゴリィ!!

眼鏡くん!! 」」


「……」


イラッ


――――――――――――――――――――――――――


「まあ、これに懲りたら変な事はしないように!!」


「頭にたんこぶ作りながら言われても説得力無いぜ、リリィ先生」


「団長はうっさい!!」

「てか、団長からも眼鏡くんに何か言ってよ!」


「あー…そうだなぁ……」

「なあ、グレゴリィ」

「俺ら、【血の報復】の目的ってやつを覚えてるか?」


「えっと…神の遺した楽園を見つけ出す事…ですよね」


「あぁ、その通りだ」

「じゃあ、楽園ってなんだ?その楽園ってやつはどこにある?」


「聖典に記されて…」


「正直、俺はあんな紙切れクソ喰らえって思ってるぜ」


「な!?」

「何を言うんですか!失礼な!」


「グレゴリィ…神ってやつは俺らを救った事があるか?1度でも」

「楽園なんてのはな、ココに既にあんじゃねえか?」

そう言い地面をトントンと叩く


「結局な人を癒せるのは人だけだ」

「お前が人に関わりたくなくても、その心の傷はどうやっても取り繕えない」

「俺らに、チャンスをくれねぇか?」


「……チャンス、ですか?」


「そう、俺らにお前の傷を分けてくれ」

「そうして、共感して一緒に笑って泣いて怒って…」

「きっと楽しいぜ?」

団長はニカッと笑った


「……」

「僕の方こそ…お願いします!」

地面に付く勢いで頭を下げた


シーンとした空気が辺りに満ちる


やっぱり…変かな……


不安に思い顔を上げると…


ドッと全員が笑った


「言えんじゃねえか!!」


「眼鏡くぅん…良かったよぉ…」


「えへへ…何だか嬉しいです」


団長からの抱擁を迎え入れたが…

何か?力が強いような…?


「だんち゛ょ…ぐ…ぐるじ…」


「わー!!団長!眼鏡くんが!!」

「人殺し!!」


「殺してねえ!!し、しっかりしろ!グレゴリィ!!」


「きゃあぁぁぁぁ!!」

バタンッ


「マリーちゃんも倒れたぁ!!」


――――――――――――――――――――――――――



「やっぱり、騒がしいねあの子達は」


「ん?お前は誰かって?」


「あれ?もう会ってると思うんだけどな」


「そんな事はどうでもいいんだけどね、今は物語の話をしようか」


「普段の物語と違うところが何個かあったけど…」


「君のお陰かな?」


「酷く捻れたあの世界とは違う良い変化…」


「散る運命を持った物語を変えられる…けど、それをよく思わない連中もいる訳だからね」


「君が敵じゃないなら、俺も敵じゃないよ」


「まあ、俺が見たいのは"変化"だからさ」


「精々、楽しませてよ傍観者(君たち)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ