セリオ攻防
剣と声が交錯し、国家の正統性が“暴力なき戦場”で問われる一話をお届けします 。
銀河歴1374年 星標第9週
惑星セリオ、都市ヴァルト=ニア
帝国紀元1年 星標第9週
惑星セリオ、都市ヴァルト=ニア
I:陣頭の空
セリオの空は青く澄んでいた。だがその青を裂くように、連邦軍の降下艇が都市上空を旋回する。都市ヴァルト=ニア——属星最大の鉱業都市にして、現在最も“政治的熱量”が高い都市 。
レオニスの艦は、都市防衛衛星の旧コードを用い、軌道圏に静かに侵入した 。
「我々は、侵攻ではない。進入でもない。これは……“進言”だ」 。
そう語る彼の声に、ルベリアは頷く 。
II:市街の混乱
ヴァルト=ニア市内では、連邦側の“治安部隊”と市民自治組織との間で緊張が高まっていた 。
空では無人偵察機が交差し、地ではスピーカー車が互いの声明を流し合う 。
「連邦は市民を守るためにここにいる」 。
「ならば、なぜ我々の代表を捕らえたのか?」 。
「治安回復のためにだ」 。
「治安を乱したのは、あなた方だ」 。
言葉が、兵器と化していた 。
III:剣を抜かぬ出陣
レオニスは正式な布告を持たずして、地上へ降下した 。
彼に従うのは、再編成された《第一遊撃群》と副官ルベリア、そして——セレスティウス。彼は今や、レオニスの“書記官”として動いている 。
「武器の使用は一切禁止。防衛は最小限。目的は、都市との交渉と市民の保護」 。
この命令に、兵たちは迷いながらも従った。銃を構えずに戦場に出ること。それは、《銀河戦史》における前代未聞の布陣だった 。
IV:アルナクの強硬
その頃、アルキュリオン。
アルナク・ヴェステリオは、強硬派の軍司令官《ハウメル提督》に正式な指令を下す 。
「レオニスの部隊が“降下”した瞬間、それは交戦と見なす。非正規軍であろうと、民兵であろうと、“反乱”を名乗る者はすべて制圧せよ」 。
「例外は?」 。
「ない」 。
V:都市の民
レオニスの到着に、ヴァルト=ニアの市民は動揺した。だが、彼が兵を連れて市庁舎前に現れたとき、彼らが見たものは——剣ではなく、マイクだった 。
「市民の皆。私は将軍だが、今日は兵ではない」 。
「私はあなた方の代表を解放に来たのでも、あなた方を煽りに来たのでもない」 。
「ただ、“話すため”に来た」 。
民衆の波に、静寂が走る 。
レオニスは市庁舎の階段に立ち、演説を始めた 。
「私は、国家を“倒し”に来たのではない。あなた方の声が国家に届くまで、その“道”を繋ぎに来た」 。
「連邦が崩れたなら、我々はただの破片になる。だが、“再構築”ができるのならば——私はその礎になる」 。
VI:兵の動揺と拒否
ハウメル提督の指揮する連邦軍が市外周に到着したとき、異変が起きた。突入命令が下される直前、前線部隊の一部が命令を拒否したのだ 。
「都市には武器はない。レオニス将軍も剣を抜いていない」 。
「ならばこれは、“戦争”ではない。命令は違法だ」 。
混乱が波紋のように軍内部に広がる。
アルナクの作戦は初めて、“内側から”揺らぎを見せた 。
VII:新たな名
その夜、ヴァルト=ニア市民代表団は正式にレオニスに宣言する 。
「あなたを、我々は《銀河護民官》と呼ぶことにする」 。
「それは、かつて“帝”に対抗する者に与えられた、民を守る役職の名だ」 。
レオニスは静かにうなずく 。
「名は、望んで得るものではない。だが、それに恥じぬように、立とう」 。
【終章ナレーション】
銃が撃たれなかった一日。
剣が抜かれなかった一戦 。
その日、銀河に新たな“正統性”が生まれた。
それはまだ法でも、国家でも、制度でもない 。
だが、人々の心が、初めて一つの“形”を見出したのだった 。
次回予告:《破られる静寂》
アルナク派、都市空爆を正当化する「法的緊急宣言」へ。セレスティウス、秘密裏に《帝国憲章初版》を公開。レオニス、“護民官”としての広域声明を発信。そして、ついに“血”が流れる——誰の命が、どちらの正義に捧げられるか 。