銀河の裂け目
国家という幻の“本性”が剥がれ始め、剣と理念が衝突する瞬間を描きます。
帝国紀元1年 星標第8週
惑星セリオ、アルキュリオン、ヴェネリア
I:セリオの戦火
惑星セリオは、連邦の中でも特に“文化的自治”が強く主張されてきた辺境の星だった。
だがその星で、ついに火蓋が切られる 。
セリオ市民連合がゼロライト輸送航路を封鎖。
それに対し、連邦正規軍第12機動中隊が展開。市街地での小規模な交戦が発生した 。
「報道には“衝突”と書かれているが、実際は“鎮圧”だ」 。
と、ルベリアは言う。
彼女が受け取った映像では、重力制御弾による建造物崩落、非武装民の死傷が記録されていた 。
セリオの空に、赤い閃光が走ったとき、もはや“属星蜂起”は、言葉では止まらない段階に入っていた 。
II:議会、特権を付与
アルキュリオン高位議事殿。
連邦臨時安全審議会が開かれ、アルナクに対して「鎮圧権限」が付与された 。
「非常時における軍統制調整、属州再編成、軍事行動許可を議会の承認なく実行可」 。
それは、事実上の《戒厳令》であった 。
セレスティウスは議場の隅で呟いた 。
「……“秩序のための独裁”。よくある話だね」 。
III:帝国憲章、構想される
その頃、レオニスは軍事評議室にいた。
彼の前には、未だ空白の《帝国憲章》の草稿ファイルが浮かぶ。
それは、「連邦の理念」を残したまま、「中央と属州を再編するための法」——つまり、“新体制の骨格”だった 。
「この書面が、剣より鋭く人の未来を切り裂く。だからこそ慎重でなくてはならない」 。
彼は、民の自治、軍の規範、議会の形骸化防止策まで盛り込もうとした。
だが、それはすでに「連邦ではない別の体制」そのものだった 。
「これは……“帝国”じゃないか?」 。
ルベリアがつぶやいた 。
レオニスは小さくうなずく 。
「だからまだ、名は与えない」 。
IV:ヴェネリア同盟との接触
一方、情報官として動くセレスティウスは、秘密裏に“第三の勢力”へ接触を開始していた 。
ヴェネリア商業同盟。
銀河経済の約三割を担い、かつて共和国として連邦に加盟しながらも、強固な独立性を保持してきた星団国家群 。
セレスティウスは、同盟評議員と極秘に会談する 。
「貴女たちは、“混乱”から利益を得る立場だ。ならば、その秩序が“再編”されるなら、投資する価値もあるはずだ」 。
「つまり……レオニス・アル=ヴァレンティア“体制”を、我々が後ろ盾になるというの?」 。
「彼はまだ、名を望まない。だが、あなた方のような“冷静な利害計算”が彼の周囲に必要だ。理想主義には制御が要る」 。
イルサは薄く笑った 。
「面白い。彼が“皇帝”とならぬなら、我々が“財務官”となる。悪くない取引ね」 。
V:レオニス、出陣を決意
セリオでの衝突拡大、アルナクによる軍出動命令、ヴェネリアからの「財政支援の打診」——
すべての情勢が一つの結論を迫っていた 。
「セリオへ出る」と、レオニスは言った 。
「鎮圧ではなく、対話と防衛のために。だが、それは中央に“弓を引く”覚悟を持つということだ」 。
ルベリアが剣を取り、セレスティウスが言葉を継ぐ 。
「その一歩が、後戻りできない線を越えることになります」 。
「分かっている」 。
レオニスは、白銀の軍服をまとう。
その胸元には、どの階級章もない——“名”を超えた者として 。
【終章ナレーション】
こうして、銀河歴1374年。
銀河の表皮が、静かに裂けた 。
名を持たぬ軍。法に属さぬ体制。理想と現実の交差点に立つ、ひとりの男。
彼が率いるものは、まだ“国家”ではない。だが、“国家でなかったもの”でも、すでにない 。
戦火は、まだ小さかった。
だが、その火種こそが、帝国の暁であった 。
次回予告:《セリオ攻防》
レオニス、セリオへ出陣し、初の“連邦軍との交戦”が始まる。アルナクは強硬派と手を組み「連邦戒厳体制」を公式化。セレスティウスが“帝国憲章草案”を改変し、密かに力を得る。属星の一部がレオニスを「銀河護民官」として称える中、彼は剣ではなく“言葉”で都市を守るという決断を下す 。