星の囁き
査問会での勝利は、銀河に新たな波紋を広げる。議会内部ではレオニスに共感する《中間派》が台頭し、属州では彼の名を掲げた市民蜂起が連鎖的に勃発する。だが、老練なアルナクは、この混乱を逆手に取り、連邦分裂すらも利用しようと画策する。そしてレオニスは、旧知の学者から初めて「帝政」という言葉を突きつけられる。星々の囁きが、新たな時代の到来を告げ始めていた。
銀河歴1374年 星標第6週
惑星連邦中枢と、いくつかの辺境属州にて
I:議会の綻び
高位議事殿の内周回廊。
かつて“保守”と“進歩”で明快に割れていた議席が、今や微妙に揺れていた。
一部の若手議員たちが密かに集い、自らを《緋色の円卓》と名乗り始める 。彼らは、レオニスの提案に共感を抱きながらも、「軍が民意を代弁する」形に危惧を抱いていた。
そのリーダー格、議員グレイ・ヴァルコーは言う。
「我々が求めるのは改革だ。だが、剣による改革ではない。議会内で秩序を保ちつつ、変化を促す新たな立場が必要だ」 。
こうして連邦議会に、第三の勢力《中間派》が胎動し始めた 。
II:属州の動揺と蜂起
惑星カミアナの復興都市では、レオニスの演説を再編集した映像が、地下ホログラムで何度も流されていた。「属州の声を、銀河に。」というスローガンとともに 。
惑星ダクスでは、税徴収所が襲撃され、ゼロライト精錬所が“民衆保護下”に置かれる。惑星セリオでは、地元行政官が連邦への忠誠を放棄し、《属星評議会》を設立 。
これらの蜂起は“暴動”ではなく、“政治運動”として始まっていた。だが、その背後には明らかに一つの旗印があった——レオニス・アル=ヴァレンティア 。
III:アルナクの策略
「ついに火は付いたな」と、アルナク・ヴェステリオは密かに笑む 。
だが彼が笑った理由は、属州の混乱そのものではなかった。
「今こそ、“国家統一法案”を通す好機だ。属州への特権制限、軍派遣権の中央集中化、そして——」 。
彼が描くのは、「分裂の危機」を逆手に取った中央権限の強化。混乱を制す“理想の中央”を議会内に創り出すことで、連邦の求心力を奪い返す計画だ。そして同時に、属州の急進派に資金を供給し、レオニスの名を“内戦の象徴”に変える世論操作も始めた 。
IV:レオニス、帝政の言葉に触れる
アルキュリオン郊外、廃れた軍士官学校跡。レオニスは、旧知の学者、元中央戦略院顧問と会っていた 。
「軍が国家を守るのではなく、国家が軍を怖れるようになった。お前は、その境界を越えた男だ」 。
「だから私は語った。民のために」 。
ティオリスは言う。「民の声は、時に玉座を望む。“帝政”という言葉に、お前はもう触れざるを得ない」 。
レオニスは黙する。
「お前が今、連邦の上に立てば、星々は従うだろう。だがそれは、“帝”としてだ」 。
V:セレスティウスの提案
その夜。レオニスの執務区画、閉じられた回廊の奥。セレスティウスが現れる。彼はすでに、いくつかの属星代表と非公式に接触し、“連邦議会外評議会”の設立支援を受けていた 。
「父さん。……君は、いつまでこの連邦に“許可”を求め続けるつもりだい?」 。
「私は戦を終わらせたい。それには法が必要だ」 。
「だが法は、もう“君”の後を追ってる。ならいっそ、“新しい法”を作るんだ。旧き法を破るのではなく、包摂する“新しい形”を」 。
「帝政か」 。
「君が帝と呼ばれるかどうかは、どうでもいい。大事なのは、民が自分を“護られている”と感じるかどうかだ」 。
やがてレオニスは、背を向けたまま呟く。
「その時が来たら……私は、選ぶだろう。だが、今ではない」 。
次回予告:《二つの誓い》。議会内で“国家統一法案”を巡る攻防が激化する一方、属星の《連邦外評議会》が本格的に動き出す。レオニスはついに「分裂」と「統合」の狭間に立たされる。その裏で、アルナクとセレスティウスが陰の交渉を開始。そして、副官ルベリアがレオニスに対し、“ある忠誠”を誓う——。国家の形が揺らぐ中で交差する、忠誠と野心の誓いが描かれる。