秩序の名にて
レオニスの改革提言、議会の最初の拒絶、軍の分断命令、そして後の帝政の鍵を握る人物の登場。秩序の名の下に、英雄を排除しようとする力が動き出す。
銀河歴1374年 星標第4週、アルキュリオン
高位議事殿。その中央の議事円卓には、連邦を構成する惑星系の紋章がホログラムとして浮かぶ。千を超える代表が座すが、実際に政治を動かすのは、常任議員70名、そして“古き血統”から選ばれた12の長老議員たち——その中に、アルナク・ヴェステリオもいた。
レオニスは、単身でその壇上に立った。
「属州市民参政法案」「ゼロライト交易監査法案」「惑星軍改革予備案」——提出されたのは、連邦にとって数百年ぶりの根本的転換を迫る文書だった 。
沈黙。誰もが動揺を見せないふりをしながら、視線だけが交錯する。
そのとき、アルナクが静かに手を挙げた。
「レオニス・アル=ヴァレンティア中将。あなたの功績は称賛に値する。しかし、提案の内容は、急進に過ぎる」 。
「急進とは、秩序の否定か?」 。
「秩序とは、時間によって磨かれるものだ。民のためとはいえ、連邦そのものを危機に晒す改革は、我々の責務に反する」 。
3分後、否決が決定された。名目は「議会手続きにおける再審査要求」だったが、事実上の却下。レオニスは、ただ一度だけ笑った。「では、民の声はどこに届けばいい?」 。
アルナクは答えなかった。
その夜、レオニスの副官ルベリアの元に“辞令”が届いた。《カミアナ連隊第1・第2・第3部隊は、宙域D63・E14・F05に再配置を命ずる》 。
それは軍内部における“名誉の解体”だった。彼らの忠誠心を、散らし、削ぎ、無力化する。議会の常套手段だった。
「これは、恐れているのか、それとも備えているのか……」と、ルベリアは低く呟いた 。
その頃、銀河中央情報局の地下会議室。黒衣の青年がひとり、報告を聞いていた。淡い金髪に、瞳は水銀色。彼の名は——セレスティウス・マルクス。レオニスが個人的に育てた義子であり、元は政治学術院の特待生。だが今や、彼は「情報の刃」として議会の裏層に潜っていた 。
「アルナク派は、軍を分断しつつ、次に“司法査問会”を動かすつもりです。レオニス将軍を軍規違反、及び暴動扇動未遂として査問対象に——」 。
セレスティウスは微笑む。だが、どこか冷たい。
「……父さんが動くなら、僕も動くしかないね」 。
彼はすでに、複数の属州惑星に通信を流していた。《属星諸君。レオニス将軍は、あなたたちの声を議会に届けた。今、あなたたちは、その声をどう返す?》 。
惑星カミアナ——再建中の都市で、ひとりの若者がこの通信を見ていた。彼は家族をレオニスに救われた過去を持ち、いまや“民兵組織”の再結成を呼びかける立場にある。そして惑星イストラ、惑星ダクス、惑星ネフェリアでも、類似の動きが広がりつつあった。「もう一度、声を上げる時だ。いや——今度こそ、本当の始まりだ」 。
高位議事殿より、正式な通知がレオニスに届けられる。
「連邦軍中将レオニス・アル=ヴァレンティア、議会特別召喚による《査問会》出席を命ず」 。
名目は「軍規遵守に関する説明責任」。だが、それは“政治的抹殺”への第一歩。
彼は、静かに立ち上がる。
「ならば、議場の中心で語ろう。私の言葉で」 。
次回、『裁かれる剣』。議会が仕掛けた罠、査問会。だが、それはレオニスにとって、自らの正義を銀河に示す最大の舞台となる。居並ぶ議員たちの冷笑の中、彼の言葉は民の心を掴み、議場の空気を支配する。そして、その最中に届く《属星連鎖蜂起》の第一報。裁かれるはずだった剣は、連邦そのものを裁く刃と化す。
議場が騒然とする中、レオニスが最後に放つ一言