真実の国章
帝国紀元1年 星標第17週
アストラディウム・帝国記章庁、惑星トラミス、ヴェネリア、各属州評議会
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【I:国章改訂案、提出される】
帝国記章庁は、アウレン・ディマルクの指導のもと、
《国章改訂案》を帝国議会に正式提出した。
旧国章:「空位の玉座を囲む六つの星」
新国章案:「傾いた玉座と、星々が交錯する渦。その中央に“刻まれない影”」
「これは、“正義も勝利も確定されない座”であることを示す記章です」
「帝国は完成された国家ではない。
むしろ、問いを残し続ける“未完の器”であることを、象徴に刻むべきだ」
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【II:記章をめぐる賛否】
帝国評議会は真っ二つに割れた。
賛成派:「この国は“完成された正しさ”ではなく、“矛盾を抱えて生きること”にこそ価値がある」
反対派:「国章は誇りであり、“曖昧”を刻めば理念そのものが揺らぐ」
惑星タルクスの代表は激しく抗議。
「我々は帝国に“矜持”を求めて加入した。矛盾を称える国家を誇れと言うのか?」
一方、ナイロスの若手代表はこう語った。
「誇るべきは勝利ではなく、“問う姿勢”そのものです」
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【III:セレスティウス、制度と理念の間で】
国章案に対し、セレスティウス・マルクスは“理性の盾”として評議会に立った。
「国章とは、国家の願いを刻むものです。
では我々の願いは何か?
“正しさを信じられる国”ではなく、“正しさを常に問える国”でありたい」
「制度は誤る。理念もすり減る。だが、“語り続ける国”である限り、帝国は立っていられる」
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【IV:カリア・デュムの反撃】
思想家カリア・デュムは、この国章案を“理念の敗北”と見なした。
「影を称え、曖昧を刻む記章など、国家の自己否定でしかない」
「記章は“導く旗”であるべきだ。“迷う石碑”であってはならない」
彼女は《独自記章運動》を属州で組織し、
各州が自らの“記憶と誇り”に基づく象徴を併記できる草案を提出。
帝国に、“ひとつの顔”であることを拒む運動が拡大する。
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【V:レオニス、静かな言葉】
護民官レオニス・アル=ヴァレンティアは、新章案について問われ、静かに語った。
「この国は、かつて空白の玉座を持っていた。
今、我々は“誰が座るか”ではなく、“その玉座に何を刻むか”を問うている」
「私の願いはひとつだけだ。
この国が、“矛盾を抱いたまま歩ける”勇気を持ち続けること」
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終章ナレーション:
旗とは、風を受けるもの。
その布に刺繍されたものが、民の視線を集め、国家の方向を映す。
帝国は、“完成”を諦め、
“未完”を誇る旗を選ぼうとしていた。
それは弱さではなかった。
それは、“考え続ける国家”の証だった。
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