沈黙する記録
帝国紀元1年 星標第16週
アストラディウム、オルディアン・レコード観測機関、惑星トラミス
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【I:発見される“失われた記録”】
オルディアン・レコードにて、失われていた連邦末期の記録群が再発見された。
内容は、かつての連邦高等評議会にて交わされた未公開の通信録音・命令書・構造議事録。
中には、連邦最末期において「一部属州の切り捨て」を前提とした政策案や、
「軍の暴走を容認した黙認命令」など、帝国の“誕生そのもの”の正統性を揺るがせかねない内容も含まれていた。
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【II:セレスティウスの葛藤】
帝国情報庁にて報告を受けたセレスティウス・マルクスは、公開可否をめぐって深い葛藤に陥る。
「この記録が真実であるなら、帝国の“原点”は嘘で覆われていたことになる」
「だが、制度は“信頼”で成り立っている。
この記録の開示は、“国家の信仰”そのものを破壊しかねない」
彼は三日三晩悩み、
ついに、帝国評議会と護民官に“共有”のみを行い、公開は保留とした。
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【III:アウレンの姿勢】
統合宰官アウレン・ディマルクは記録を精査し終えると、セレスティウスにこう告げた。
「帝国は、理念に支えられた国家だ。
だからこそ、我々が隠せば、理念の正しさそのものが崩れる」
「だが、真実は剣と同じだ。振るう者に覚悟がなければ、誰かを傷つける」
アウレンは慎重ながらも、限定公開の形で記録を一部公表する方向で動き始めた。
その判断に、帝国は割れた。
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【IV:カリア・デュムの告発】
惑星トラミスの思想家は、独自の解析と告発文書をもとに、
《エルサ・フラグメント》の存在を独自に公表した。
「帝国の誕生は、正義ではなかった。
むしろ“連邦の崩壊を利用した計画的簒奪”だった」
「国家は理念の上に立たねばならないが、
その理念は“記録”という事実によって試されねばならない」
彼女の発言は急速に拡散され、属州の一部では
“帝国再定義運動”と呼ばれる新たな政治潮流が発生する。
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【V:レオニスの沈黙】
護民官レオニス・アル=ヴァレンティアは、この動きの中であえて沈黙を貫いた。
記者会見で問われたとき、彼はただこう語った。
「私は、あの日あの時に戦った。
その時の選択を、今の記録が否定するならば……
それでも私は、それを“受け入れるべき問い”だと信じたい」
「国家は、正しかったかどうかよりも、
“問われたときに答える姿勢”によって、生き続けるものだ」
その言葉は、帝国の民に深く刻まれた。
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終章ナレーション:
記録は真実を語るか。
それとも、記憶に裏切られるか。
帝国が選んだのは、語ることでも隠すことでもない。
“語り方を問う”国家としての、第二段階だった。
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