レオニス、辺境にて血と火の冠を得る
銀河歴1374年、第七宙域報告。惑星カミアナ反乱鎮圧戦。これは、英雄が生まれ、同時に連邦にとっての“危険な存在”が誕生した瞬間の記録である。
宙は黒い虚無ではなかった。ゼロライトを搭載した連邦の艦隊がその背を曳けば、光子のしぶきが生まれ、熱的残響波が空間に軋みを残す。それはまるで神々の戦争を彷彿とさせる閃光の交錯だった。
レオニスの旗艦は惑星カミアナの対軌道上に浮かび、反乱軍の艦群を見下ろしていた。だが彼はその身を、旗艦の艦橋には置いていない。彼はすでに、重力撹乱場下にある戦術モジュール《エグゾフレームΩ》を着装し、強襲揚陸艦のリフトカプセル内にいた。標高1万フィート。大気摩擦による炎の中を落下する。
「全隊、脈動中枢へ突入。戦術ドローンはデルタ散開。連動照純は私に合わせろ——指向は、城塞コア。」
彼の思考は即座に100名を超える強襲部隊の神経戦術ネットに共有された。《思考共有戦術連結》。彼の戦術、恐怖、意志の震えまでが、戦士たちの中で熱源のように燃え上がる。
「これはただの戦ではない」と彼は考えた。「これは、正義という名の秩序を、銀河に取り戻すための戦いだ。人の感情や腐敗に左右されない、絶対的な秩序。それこそが、真の平和をもたらすはずだ。」
カミアナの地表を覆う「赤錆」と呼ばれる鉄鉱性の砂塵が舞い上がる。そこに築かれた反乱軍の主拠点は、連邦技術を盗用した重力シールドに包まれ、3週間にわたり進攻を阻んできた。
落下速度を補正する慣性反転フィールドが発動し、レオニスの視界が、機械の眼と重なる。都市地下から飛び出した「鏡面戦車」は重力波を歪め、味方の弾道予測を乱す。だが、それを破るための新戦術もまた、用意されていた。
「Ω-Λ信号、射出!」
レオニスは背部のストレージから《対鏡面粒子投射ユニット》を展開。高密度の逆位相波を敵の装甲へ叩きつけた。見えない波が衝突する。重力のリズムが狂い、鏡面戦車は反転したまま地面へ突き刺さる。その隙をついて、レオニスは単独で防衛塔へ突入する。
地下二百階にある指揮中枢へ至るまで、彼は自ら先頭を切り、道を拓いた。シールドを焼き斬り、機銃の巣を破壊し、最後の門を叩く。
中枢にいたのは、かつての連邦元帥。老将はかつての同胞に向かって静かに問う。
「これは、正義の名を借りた個人の野心ではないのか?」
レオニスは一瞬だけ黙り、それからゆっくりと言った。
「個人の野心では、この腐敗は断ち切れない。必要なのは、個人を超えたシステムだ。あなたがたが手を血で洗いながら守ろうとしたその秩序は、もはや機能していない。」
そして、引き金を引いた。
戦いは終わった。都市は陥落し、レオニスの名は通信網を駆け抜けた。彼の像が、光の粒子で銀河のあらゆるスクリーンに投影される。瓦礫の中で、若い歴史家見習いが震える手でデータパッドに記録を刻み、煤けた壁の前では、ひとりの芸術家が破壊と再生のコントラストをスケッチしていた。彼らはまだ知らない。自分たちの「記録」や「創造」という行為が、やがて来る新しい帝国でどのような意味を持つことになるのかを。
「連邦最年少司令官、カミアナ反乱を鎮圧。」
だがその報は、同時にこうも記された。
「レオニス将軍、議会命令に背き、無断で武力介入。」
彼は英雄になった。だが、その瞬間から、彼は連邦にとって“危険な存在”となった。ここから、運命は静かに帝政への歯車を廻し始める。
次回、『アルキュリオンの歓声と影』。英雄の帰還が、連邦の運命を揺るがす。レオニスの演説は、単なる凱旋式典を超え、連邦の未来を左右する政治的爆弾となる。しかし、彼の言葉の裏で蠢く権力者たちの本当の意図とは? 老練な議員アルナク・ヴェステリオは、レオニスの存在を脅威と見なし、水面下で策を練り始める。民衆の歓喜、議会の警戒、英雄の野望。激動の政治ドラマ、いまここに開幕!