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第9話

 周囲の人々の目に気づいた彼らは、とにかく場所を移すことにした。学院の、年季が入っているが良く磨かれた広い廊下を5人はぞろぞろ歩く。


「ろ、ロマンス小説の導入みたいなこと言っちゃって…シルバーハート様、どうしたんですか?」


 そんな無遠慮な事を口走ったのはトーマス。…あんたもそういうの知ってるのね……


「いやまあ…ライデンシャフトもこの王国で指折りの騎士の名家だからね。アトリーチェもどこかで会ったことはあるんじゃないかな」

「え、ええ……」


 ベルカントがフォローに入る。ありがたかったが、実際はワガママお嬢様だった幼きアトリーチェは騎士などヤバンだわ!と言って一度も訓練を観に来たことは無かった。実家を褒められて感激のフィデリオを尻目に、ベルはアトリにこっそり話しかける。


(アトリ、やっぱり顔に負けたの?)


(ちっ、違うわよ!断じて全く!)


(アトリは面食いだからなぁ)


 ベルはそう言って微笑み、アトリから顔を離した。違うと言っているでしょう!…許そうと思ったことと顔は特に関係していないの!ただ本当に顔に見覚えがあって……


 アトリは歯噛みしながら、ふと妙に静かなオスカーの方をちらと見た。彼は、感情の読み取れない微妙な顔をしていた。



 ................あーーー………絶対あたしが正しい振る舞いできなかったから怒ってるわ……。……これ、もしかしなくとも、未来のあたしの処刑に一歩近づいちゃったんじゃないの?



 ……やらかした。


 


 今日の第一講は女子は裁縫、男子は歴史と男女別の授業だった。ということでアトリは男子たちに手を振り、そそくさと彼らから離れる。フェデリオ曰く、彼は主にオスカーの護衛をするので、別行動の際はいつも通りアトリ一人で講義を受けることとなる。何かあった際は付近の従者を呼んでください!とのこと。意味ないんじゃないかしら?と思ったが、いずれ王の護衛を担うことになるフェデリオの練習とオスカーとの関係を構築する機会を兼ねているらしい。


「では、また後で。」


「ああ、また会おう。アトリーチェ」

「またね」

 そんな彼らの言葉を聞いてから、アトリは教室へ向かった。


 *


 アトリの背中を見送り、オスカーたち4人も彼らの教室へ向かう。


「それにしても…よくできてたなぁ、あの魔道具……改造跡も丁寧に消されてて…」


 オスカーは、トーマスのその小さな呟きを聞き逃さなかった。



 *



 一人になったアトリはようやく大きなため息をつく。


 ………あー…どうしていつもこうなのよ。やってられないわ。………………ムカついてきた。


 教室の隅の席にどかっと腰掛け、アトリは不満そうに片肘をついた。


 とんとんとんとんとんとん。


 無意識にテーブルを指先で叩いてしまう。嫌だわ。お行儀がなってない。止めないと。


 それでもアトリの気分は収まらなかった。テーブルを叩く音はどんどん速く大きくなっていく。どうしてあたしはいつもこうなの?身の振り方すらまともに出来ないじゃないこれじゃあオスカー様に見てもらえないわ。あの冷たいオスカー様の目。絶対あたしに失望してた!ああもう最悪!失敗した!失敗、失敗、失敗…………


「あ、あの、シルバーハート様?」

「何よ!!!」


 突然聞こえた声に思わず怒鳴り返す。周囲の女子生徒が驚いて空気が冷えるのを感じた。最悪だわ。


「これ、落としました、よね?」


 アトリに声をかけたのは吊り目がちな茶色の瞳に薄いオレンジの髪を後ろで緩く結った女子生徒だった。どうやらアトリは気づかぬうちに自身の裁縫道具を落としてしまっていたらしい。


「あらそうみたい、御免なさい。お礼を言うわ」


 何とか心を鎮めて言葉を絞り出すと、その女子生徒の切れ長の目はいきなり爛々と輝き出した。


「光栄でございます!わたくしイヴライト家の次女、ヴィエラ・イヴライトと申します。アトリーチェ・シルバーハート様、わたくし、こんなふうに貴女と言葉を交わせるなんて、感激でございます!」


 ん?


「握手...していただいてもよろしいでしょうか!?」





 あれ、もしかしてこの子、あたしのファン?

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