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第15話

 2人を乗せた馬車は、いつも先にシルバーハート邸でアトリを降ろし、その後王宮に到着することになっている。教会とシルバーハート家、王宮は敷地でいえばそう離れてはいないのだが、その土地が広すぎるため本邸間の移動には少し時間がかかる。がらがらと車輪が転がる音を聞きながら、2人は広くなった車内で少しくつろぐ体勢をとった。


「…ベルに何を言われたのか、聞かないの?」


 沈黙に耐えかねたアトリが、先に口を開く。もうすでにオスカーに怯えて過剰にかしこまることはしなくなっていた。


「ああ。…ベルがわざわざそうしたのなら、それなりの理由があると思って。俺は追求しない」

「そうなの…」

 

 オスカーは、ベルカントをよく信頼している。




『オスカーは、アトリに「友達ができた」ってちゃんと言って欲しかったんだよ』




 頭に残るのはさっきベルに言われた言葉。…オスカーがヴィエラに厳しすぎるのに、何か関係があるのかしら。…あたしが勝手にヴィエラと仲良くしたことがそんなに癪に障ったとか…?


「ねえオスカー」

「何だ?」


 オスカーは窓際に肘をつき、そのすらりと長い足をキレイに組んでいる。おぼろげな夢の姿を思い出し、これからもっと背が高くなるのかしら、とふと寂しく思った。席に深くもたれかかりながら、アトリは続ける。


「オスカーは、あたしに友達が増えるのは嫌なの?」

「!?…そんなわけはないだろ!………………………あの彼女は例外だ」


 オスカーは驚いたのか身を正す。


「広い世界を知ってほしいと言ったのは俺だからな。…アトリが色んな人に出会って色んなことを知るのは良いことだと思ってる」

「でもヴィエラだって…」

「それは」


 オスカーは言葉を続ける前にアトリを見つめて、こほん、と一息ついた。


「アイツは執着心とか加虐癖とかストーカーとか…危険なところが山ほどあるが」

「まあ…そうね」

 

 アトリは苦笑する。先ほどの一幕でヴィエラの本性がだいぶ明らかになった。…それでもあたしを慕ってくれることには変わりない。あたしにだって悪いところもあるし…一様には切り捨てられないわ。だから、オスカーにもそうヴィエラを責めないでほしいのだけど……


「…それ以上に、…アトリが独占される事が嫌だった。…と、いうか…」

「……………」


 オスカーの顔が心なしか赤くなっている。とうに窓の外は暗くなっているから、これは日の光のせいではないと簡単に分かる。


 ……………どっ、どどっ、どういうこと!?!?!?


 頬が上気し、宝石のような碧い目が揺れる様は見ているだけであたしも赤面してしまう。


「いや!これはだな……………忘れていい!!!」

「ええ!?!?」


 そんなの無理じゃない!勝手に心臓がうるさくなっているアトリを前に、オスカーは一度目をぎゅっと閉じて、またアトリを見た。


「とにかく!イヴライトでも誰でも!誰かと仲良くなったら俺に言うこと!いいな!王子の婚約者に近づくものは身辺調査が必要だから!!またこんな風に事件が起きる可能性があるから!!!」

「は、はぁ…」


 余裕を取り繕いながらも、取り乱すオスカーというあまり見たことのない新鮮な姿に、アトリはただ生返事をするしかなかった。





 ————ああ!やっぱりあたくしとオスカーは相思相愛。誰もあたくしたちの仲を引き裂けない……………





「?」

「どうした?」

「い、いや…今何か声がしなかったかしら?」

「何も聞いていないが…」


 ふと違和感を感じて我に返る。今確かに妙な声が頭に響いた気がしたのだけれど…気のせいかしら?


「…そろそろアトリの家に着くな」


 そうオスカーに言われて、だんだんと馬車のスピードが遅くなっていたのに気づいた。家はすぐそこだ。


「そうね。…はぁ。今日はすごい長い一日だったわ」


 蹄の音が止み、扉が開かれる。侍女のジェーンの顔も見えた。深呼吸をして、馬車を降りる。


「じゃあオスカー。おやすみなさい」

「ああ。おやすみ。また明日」







 ———————————————




『———!大丈夫か!?』

 

 誰かの名前を呼んだのかしら。よく聞き取れなかったけれど、その人を心配して叫んでいるようだった。そしてそんな台詞と共に、光る画面には赤毛にオレンジの瞳の精悍な顔つきの青年が現れた。


『これ…魔道具じゃないか!こんなものをイタズラに使うなんて…最低だ。………ぶつけられたのか?痛いところは?……』


 何だか見覚えのある展開。これはあたしが体験したから?それとも、…以前にも見たから?


『俺…このイタズラを作った奴に心当たりがあるんだ。…アトリーチェ様の取り巻きのひとり。………必ず証拠を見つけ出して、そして断罪してやる…!』


 彼の表情には苦悶が宿っていた。見ているあたしは何も感じず、お菓子をひと齧り。そしてボタンを押す。画面が移り変わってゆく。画面の中の青年は、暗い顔でこう言った。




『誰にも見向きもされないからって他人を傷つけるとか、救えないよな』




 今日の夢は、そこで終わった。



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