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第12話

 えーと、えーと?どうしてオスカーが?朝私が冷たくしたのに怒っちゃったんじゃなくて???なんでヴィエラに?ヴィエラが何したっていうの???

 突然の事に固まってしまったアトリーチェは、視線だけ動かしてオスカーを見る。ヴィエラを少し見下ろす形になり、黄金色の絹のような髪が美しい碧眼にかかる。その瞳には光はなかった。少し恐ろしくなり、その視線の先にあるヴィエラを見やると、彼女の顔には冷や汗が流れ、血色の良かった唇がやや青ざめている。しかし、ヴィエラはその唇をゆっくり開いた。


「一体、何のことでしょう?」


 そしてにっこりと微笑む。それを見たオスカーも何故か笑顔を作る。周囲でひそひそと囁きあう生徒達と教室からこちらを不審がる教師を一瞥し、言う。


「とりあえず、場所を移そうか」


 *


 移動した場所はカフェテリアの例の席。丸テーブルにはオスカーを中心として両隣にベルカントとアトリが座り、トーマスはベルの隣に、ヴィエラは少し距離を置いてオスカーの正面に座った。フィデリオはオスカーの後ろに立つ形になった。


「それで、一体何の話ですの?わたくし、友人のアトリーチェ様と話していたのに」


 初めに口火を切ったのはヴィエラ。先ほどより落ち着いて余裕ができたようだ。逆にアトリの方が顔を真っ青にして冷や汗を流している。


「イヴライト嬢は、このアトリーチェが私の婚約者ということはご存知だろうな」

「ええ勿論。」

「先日、アトリーチェが何者かによって危害を加えられたんだ」

 

 そんなオスカーの言葉に、ヴィエラは目を見開いた。とても自然な感情に見えた。


「ええっ!アトリーチェ様が!?それは一体?アトリーチェ様、お怪我はなさいませんでしたか?」

「後頭部に大きい打撲を」

「いっ、いやいや。全然ひどくなかったわよ。ホントに」


 アトリは咄嗟にオスカーの誇張表現を正す。オスカー、一体何考えてるの!?

 真偽を尋ねることもできずヴィエラは不安そうにアトリの方を見ていた。


「コホン。ここに凶器がある。…トーマス」

「は、はい」


 オスカーの指示でトーマスは私物の大きなカバンからあの魔道具を取り出し、コトリと置いた。


「それは…」

「魔法伝書鳩だ。フィデリオのものらしい。…これが突然暴走し、アトリーチェの頭に」


 皆の視線がアトリに集まる。思い出させないでよ!恥ずかしいじゃない!!


「何か心当たりはあるか?」

「いえ…ただの故障では無くって?わたくしこういうのには疎くって」

「とぼけるな!!!!」


 我慢できなかったのかフィデリオが突然叫ぶ。


「隠せると思ってるのか!?俺は全部分かってるぞ!!!」

「イヴライト家は有名魔道具工房をいくつも抱えているよね。他の人よりは魔道具に通じてるんじゃないかな」

 

 フィデリオを抑えるようにベルカントが口を挟んだ。…ヴィエラの家ってそうだったのね。知らなかった…。


「だからといって興味のないものはわかりませんわ。特に女子は。…そうですわよね、アトリーチェ様」


 アトリは言葉に詰まる。自身は親が何をやっているのかさえ最近まで知らなかったのだ。


「騎士団で使われる武器の多くはイヴライトが抱える工房のものだ。…だからフィデリオ、お前はイヴライト嬢と顔見知りなんだな?」

「はい!!そうなんです!俺はこれを改造したのはヴィエラとしか考えられません!!…あの、話してもいいですか?」


 オスカーの無言の首肯に、フィデリオはようやく自分の番が回ってきたと生き生きと話を始めた。


「ヴィエラとは幼馴染で、昔から俺に手作りの魔道具でイタズラをしてきたんです!ずっと俺の後をついてくるデカい虫の魔法機とか、親父の声にする変声機とか…それはいいとして、とにかくそいつの技術は本物です!これくらいの改造はなんてことないはずだ!」

「まあ、それに証拠はあるの?」

 

 感情的に叫ぶフィデリオとは対照的にヴィエラは平然としている。フィデリオは言葉を詰まらせた。ヴィエラの技術のことを聞いて、アトリは彼女が手先が器用だったことを思い出していた。


「…それでは事実と断定できる話からしていこうか。フィデリオ。その魔道具について教えてくれ」

「は、はい…!騎士の間では魔法伝書鳩で連絡することが当たり前で、重要な役職には1人1羽与えられます。俺も護衛に任命されて初めて手にしました。…それは多分、団の備品から出ていたと思います」

「これは本当だよ。騎士団の貸出表にしっかり残ってた。あの日の一週間前だった」


 ベルがしれっと付け加える。驚きだわ。…騎士団がそんなにまめに記録をつけていることも、ベルがそんなことまで調べているのも。


「俺の伝書鳩を狙って改造するには、俺の手に渡ってからじゃないと不可能だ。そして俺が伝書鳩を受け取った後、一度だけ人の手に渡した時があるんです。それは…点検の日。工房から職人が何人もやってきて団の魔道具に不備がないか点検するんです」

「あら。…じゃあ犯人は工房の人なんじゃないかしら?」

「いや、それは考えられません」

 

 ヴィエラの声を遮った声の主は意外にもトーマスだった。手元の魔法伝書鳩を持ち上げ、裏側を皆に見えるよう掲げた。


「こ、ここに改造跡がありますよね。わかりにくいよう巧妙に隠されてますが、ここを開けて魔法プログラムを少し変えたと考えられます。そして、使われているコーティング剤なんですが…大部分は一般的な工房で使われるものなのに、あの、ここだけ違うんです」

 

 トーマスの言葉を聞くヴィエラは間違いなく動揺していた。黙り込んでいる彼女を見て、続ける。


()()なんです。それも裁縫で使うような」

「…………………」

「もちろん俺たち騎士団員は魔道具の仕組みなんてさっぱりだ。だから考えられるのは…あの時に来た工房関係者か、ヴィエラ、お前しかいない。工房関係者なら普通の用材を使うはずだが…お前、イタズラがすぎて12歳の時から工房の物を使うの禁止されてたよな?そしたら使えるものは限られる。あの点検日もヴィエラは騎士団に来てた。視察だっけか。点検は一日中あるから、一瞬盗んでくればこれくらいお前の腕なら1時間で改造して戻すくらいできるよな?」

「……………」


 ヴィエラは震えながら黙り込む。唯一こんな展開になることを想像していなかったアトリだけがおろおろと皆の顔を見回していた。


「なっ、何言ってるの!?ヴィエラが犯人なんてありえないわよっ!!だって……」

「動機は十分にある」

 

 アトリの必死の反論もやむなくオスカーに遮られる。それにベルが話を続けた。


「イヴライト家の武器の主要な仕入れ先として騎士団があるのだけど、騎士団の統括は全てシルバーハート家が握ってる…つまり、シルバーハート家に気に入られることが武器を買ってもらうことにつながるよね」

「ならなおさら私を傷つけることないじゃない!」

「考えられるのは…傷ついたアトリーチェを慰めて近づこうといった所か」

「……………」


 そんな周りくどい方法あるかしら!?普通に話かけてもらえればいいのに…


「実際そうだよな?貴女は最近妙にアトリーチェに馴れ馴れしいと聞くが」

「………わたくしの従者が勝手にやったとは考えませんの?」

「それも貴女の責任だろうな」

 

 そこまで聞いて、ヴィエラは大きなため息を吐く。そして顔を上げると、正面のオスカーをじっと見すえた。


「さすがオスカー様でございます。…犯人は、わたくしですわ」

「そうか。では…」

「しかし、殿下は半分間違っております」

「?」




「わたくしの動機はひとえに、アトリーチェ様を愛するがゆえ、ですわーーーーーー!!!!!!!」





 …………………えーーーーーーーーっ!?!?!?!?!?

 どういうことよーーーーーーーーーーーーーーー!?!?!?!?!?!?!?!?

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