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第11話

 沈黙を保ったまま馬車は学院の正門前に到着し、御者によってその扉が開かれた。オスカーが先に降り、アトリーチェに手を差し伸べる。アトリは彼のエスコートに応えるもその表情は冷淡…となるように繕っていたが、オスカーから見れば彼女の口角がにやけているのが一目瞭然だった。


「オスカー様!アトリーチェ様!おはようございます!!」


 鼓膜を突き破らんばかりの声量で2人の沈黙を打ち壊したのは、赤毛のお馬鹿さん—フィデリオ・ライデンシャフト。あの日から護衛として朝からこうしてオスカー達が来るのを待っているのだ。


「お、おはようございます。お二方と…フィデリオ君」


 それに続いて現れたのはトーマス。早起き連続記録を伸ばし続ける生真面目な彼は、毎日分単位で同じ時間に校門に現れる。残るはベルカントだが、彼は毎朝の礼拝があるので登校するのは彼らより少し遅いのだった。

 オスカーは爽やかに2人に挨拶し、黙ったままのアトリをちらりと見やった。


 *


 ごーん、ごーん。

 授業を終えるチャイムが鳴り、生徒たちは思い思いに席を立ち始める。アトリもヴィエラと共に勉強道具を片付けながら立ち上がる。


「それにしても…貴女のお気持ちが晴れたようで何よりです!」

「ええ!本当に。ヴィエラのおかげですわ!」

 

 この日、教室でヴィエラに会うなりアトリは朝にしたことを意気揚々と語り始めたのだった。やったことといえばただオスカーにそっけなくしただけなのだが。


「それではアトリーチェ様。名残惜しいですが今日はここでお別れですわね。…これからも殿下たちには気をつけてくださいね。また明日!」


 そう言って教室を出ようとするヴィエラを、アトリは焦って引き留める。


「あっ、ちょっとヴィエラ!もう少しお話しましょうよ」

「それではもう少し教室で…」

「これからこの教室は特別講座に使用する。関係のない生徒は全員出て行くように!」


 ヴィエラの提案はそんな教師の一言にかき消された。言葉を聞いた周囲の生徒たちが不平を漏らしながらぞろぞろと教室を後にしていく。


「あら。まあ廊下でも話せるからいいわね、ひとまず出ようかしら」

「ま、待ってくださいアトリーチェ様!教室の外では…」


 アトリはヴィエラの手首を掴み、人の流れとともに扉を目指す。しかしどうしてかヴィエラはそれに抵抗した。


「?どうしたのヴィエラ。何か忘れ物?」


 そうアトリが尋ねたとき、すでに2人は廊下に顔を出していた。


 その瞬間。


「あー!!!アイツです!!!!」


 優雅なこの学院に見合わぬ大声が廊下に響き渡る。2人がその声をした方を振り返ると。


「あの女ですよ!オスカー様!!」

「…口を慎め。人を指差すんじゃない」


 オスカー達4人が立っていた。


 空気がひやりと静まった廊下の中で、まばらにいた生徒達が壁側に避けていく。オスカーはそして広くなった道を堂々と歩き、アトリ達の元まで近づいてきた。

 そして、アトリにまだ手首を掴まれたままのヴィエラと向き合い、口を開いた。




「ヴィエラ・イヴライト。貴女が、フィデリオ・ライデンシャフトの魔道具を改造したのか?」


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