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【完結】衣食住保障してください!〜金銭は保障外だったので異世界で軽食販売しながら旅します〜  作者: 桃月 とと
第8章 世界の始まり

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第4話 決定権

アクアネオン(海底都市)を目指しましょう」


 ライルの提案に全員が賛成した。


「そうか。あそこならそもそも見つかりにくいだろうし、誰か来てもすぐにわかるよね」


 蒼はそう前向きに受け取っていたが、英雄の末裔であるアルフレドやシノノメは万が一のことを考え、魔王の退路を絶っておきたかった。あの街に入る唯一の隠し通路を破壊してしまえば、今の魔王ではそう簡単に出てこれない。少なくとも時間稼ぎくらいはできると考えている。

 ミュスティーもそしてサニーも彼らにそういう打算的な考えがあることはわかっていた。だが彼らからしても強力な味方がいるのは心強い。現時点では、母と子の二人だけでは生きていけないのだ。


「そこで勇者と会う……」


 ポツリとミュスティーが確認するかのような言葉に蒼を除く一同が緊張した。


 魔王が——ミュスティーがただ平和に暮らしたいという願望を持ったとして、それをヨシとしてもいいのか。


◇◇◇


『この世界の行く末を決めるのはいったい誰?』


 各地にいる王? それとも対魔王軍を指揮する上級神官?


 この世界の大いなる存在である御使からの承諾は半分もぎ取っているといってもいい。リルケルラ達が魔王封印派を説得できるまでは油断ならないが、彼らは魔王を見守る気でいる。


 しかしもし魔王が人と共に生きるとして、そのことをこれまで世界の平穏を守ってきた上級神官達や、民のために身を尽くしてきた指導者達が知らないままでもいいのか、と考える者もいた。

 ミュスティーとサニーの件はまだ誰にも伝えていない。御使達も最終決定までは神託として誰にも話さないと約束してくれている。

 蒼はそういう話し合いを聞いて、


(ミュスティーがそう望んでるからって理由じゃだめなの? なんて、甘い考えだったわね……)


 一人反省した。そして同時に少し寂しい。こういう感覚が備わっていないと感じるたび、彼女は自分はまだこの世界に馴染めていないのだと疎外感を感じるのだ。

 だがそんな蒼の様子を見たからか、


『どちらにしろ魔王をどうにかできるのは勇者だけだ。勇者にその気がないのならもうこの話し合い自体が無意味だろう』


 アルフレドが落ち着き払った様子で発言した。この世界で完全に魔王を浄化することができるのは勇者だけだ。


『ミュスティー。君はどうしたい? 一生勇者から逃げ続けるか。覚悟を決めて勇者と世界のこれからについて対話を試みるか』 


◇◇◇


「アオイ。勇者は本当に自分が勇者だと知らずに生きていたのか」


 魔王がキッチンでおにぎりに肉を巻きながら、異世界人に尋ねる。


「そうだよ。ごくごく普通の学生生活を送っていたわね」


 文武両道でモテモテだったけど……というのは余計な情報だろうと蒼は黙っている。

 ミュスティーは勇者の話を聞きたがった。それは恐怖からというより、単純な興味のようだった。


「学生……教育を受けていたということだな?」

 

 それが普通? 上流の生活を送ってたという理解でいいか? と、さらに魔王は質問してくるので、


「あっちの世界じゃ十八歳くらいまでは教育を受けていることが多いのよ」


 それが一般的。それが普通の生活。勇者はあちらの世界では大勢の中の一人に過ぎないのだと蒼は強調する。周りにも聞こえるように。なぜなら、


(しょう君にこの世界の行く末を背負わすなんて)


 あまりにも荷が重い。そのことを理解できずとも知っていて欲しいと思っていた。せめて、蒼が大切に思っている旅の仲間には。


「そうか……勇者が一般人……」


 ミュスティーだけではなく、他のメンバーもイマイチ今の勇者のイメージがわかないようだった。


「こちらの世界で暮らしていたら全く違う人生だったろうなぁ」


 出来上がっていたシンプルなカップケーキをつまみ食いしながら、なぜかオルフェが残念そうだ。彼は目立つのが大好き。褒め称えられるのが大好き。勇者の末裔というだけで特別視される日々を失って現勇者も残念だろうと勝手に同情している。


「僕、勇者様が……勇者の末裔がそんなことになっていたって知らなかったです」


 勇者の末裔は絶滅寸前だ。だがそんな不安の元は知れ渡っていない。翔が蒼の世界へと転移させられた時期に、勇者の末裔の大半が命を失っていた。

 レーベンがそっとカップケーキをオルフェの側から離し、ワゴンに乗せるためのトレーへと移し替える。


「そういえば、ミュスティーはしょう君……勇者と親戚ってことになるんだよね?」


 魔王の体は勇者他英雄の末裔の血が全て入っている言っていた。勇者の末裔はほとんどいないということだから、翔に近い人間だろうかと気になっているのだ。


「私の受肉については三百年近く前から計画があったと聞いている。勇者の血は魔王の力を抑え込むのにうってつけだ。だからアオイが考えているほど、私と勇者は近い関係ではないと考えている」

「そっか」


 確かに見た目はあまり似ていない。ミュスティーやサラからはエキゾチックな美しさを感じる。一方で翔は、背も高く色素はやや薄めだったのでたまにハーフかと間違えられていたが、蒼達が住んでいた街に馴染んでいた。


「それから……勇者の両親を手にかけたのは私ではない。私のせいかもしれないが……」


 そう言葉を紡ぐミュスティーのまるで人間のような哀しげな表情が蒼の心の奥まで入っていった。

 

◇◇◇


 今日の屋台は久しぶりに初期メンバーだけ。というのも、今いる街には大きな神殿があり上級神官も三人いた。目立つメンバーは鍵の中だ。


(せっかくだからミュスティーに大きな街を見せてあげたいところだけど)


 今は安全が最優先。


「この街はまだまだ景気がいいわ~」

「両方買っていく人が多かったですね」


 本日も無事屋台の商品は売り切れ。肉巻きおにぎりはちょっと珍しいものだったが、いい匂いに誘われてお客がぞろぞろと集まってきた。

 そこでお客から聞いた話では、やはり魔王の出現による影響でここでも物流の滞っている。ただし最近それにも慣れてきてしまっているという話。


「勇者様が早く浄化してくれりゃあ有難いことこの上ないが、ただ待ってるだけってのもな」

「そうそう。私達は私達で平和に仲良くやってなきゃね~生活だってあるし」


 と、案外勇者に依存していない人も多い。期待していないわけではないが、アテにはしていないというスタンスのようだ。創意工夫やちょっとの我慢で乗り切るつもりでいる。


(そうだよね。そもそも魔王は自然災害みたもんだって言ってたし)


 どうしようもない存在だという認識なのだ。だからできる対策はするし、ダメなものはダメだと諦める。

 人格まで得ている今がイレギュラーなだけなのだ。


(こういう話を聞くとホッとするわ)


 そんな表情の蒼を見て、レーベンはにっこりと笑いながら声をかけた。


「案外皆たくましいですよ」


 蒼が心配性なことをレーベンもわかっている。だから少しでも安心させたい。


「そうだね。レーベンもそうだし」


 他の皆も、と。


「アオイもね」


 すかさずアルフレドが横入りした。

 

「図太く生きてる自覚はあるかも」


 御使に衣食住を保障させるくらいには、と蒼は照れ隠しに笑って誤魔化す。

 そんなじゃれあいをしながら屋台を片付けていると、複数の足音が聞こえ、アルフレドの表情が曇った。


「恐れ入りますがアオイ様でいらっしゃいますでしょうか……」


 返事をする前にその声の主の手の甲に視線がいく。


(三人とも蛇の紋章! クミルネ神殿の上級神官ね)


 学術研究都市ディルノアと同じだ。蒼は御使リル、アペル、そしてアーレイが祀られた神殿はそれほど警戒してはいなかったが、その他はあまり近づかないようにしていた。蒼を平和のために利用しようと考えている上級神官がいるのは知っているし、なんならクミルネ神殿所属の上級神官とは一度揉めている。

 彼らが蒼の元いた世界の兵器に関する知識を求めていたことも、もちろん覚えている。


(ごくごく一般人の私の知識なんかなんの研究の足しにもならないってのに)


 その話は、ディルノアで出会ったラネとアドアが他の上級神官達にも伝えてくれているはずではあるが……。


「そうですが。なにか?」


 蒼にしては珍しくツンケンした態度だ。その態度で目の前の上級神官はうっと言葉に詰まる。蒼からの好感度がマイナスであることを実感したからだ。思い当たる節があるというのも辛い。

 蒼の体内にはしっかり罪悪感が湧いてきているが、今日は引かない。


(だってクミルネ派閥のお偉方の中に、『与する者』と同じ思考の人がいるんだもん)


 彼らに共通するのは、『より強力な力を持って世界を管理する』という点だ。クミルネ派は『兵器』で。与する者は『魔王』で。


『御使クミルネは知を司る柱とされています。ですが前回の魔王発生(三百年前)前後、学術的な研究という研究が嫌厭され始めてましたからね。所属する神官として思うところもあったのでしょう』


 というのはライル・エリクシアの談。

 三百年かけてようやくまた研究が活発になり始めたと思ったらまた魔王だ。次こそこれまでの知の蓄積を守ろうとしているのでは? と、代弁するかのような口調だった。


 蒼は真っ直ぐに目を逸らさず彼らを見ていた。なにを言われても協力する気はありませんよ、という態度だとわかってもらえるように。なのに……。


「謝罪に参りました」

「へ……?」

「個人的にではございますが……以前、我々の仲間が上役の命とはいえご無礼を働いた件を……」

「……え?」


 ションボリと沈んでいる三人の神官を見て、蒼はもう目をパチクリするしかない。やらかした! と、少し前の強気な自分を殴ってしまいたいと思っている。

 彼らはわざわざディルノアでの件を謝りにきたのだ。彼らの上司は蒼を捉えるように命令を出していた。ラネもアドアもその命令に従うつもりはなかったが、そんなことをすること自体、彼ら神官にとっては苦痛なのだ。魔王の力を増強させることに加担するようで。


「ご、ご丁寧にどうも! その件はもうディルノアで決着がついているので皆さんが気に病むことはありません」


 そして蒼も先程はふてぶてしい態度だったと謝罪した。


「いやしかし……!」

「いいからいいから! あ! 甘いものお好きですか? よかったらドーナツ持っていってください」


 そうやっていそいそと紙袋に間食用のドーナツを詰めて押し付けるように渡した。


「謝罪に来てこのようなものをいただくのは……」

「私の罪悪感がそれで消えると思って……美味しいですよ!」


 できるだけ友好的に見えるよう、蒼は愛想良く笑った。するとやっと彼らから悲壮感が消えていった。


(個人的に……か)

 

 つまり彼ら以外のクミルネ派は、蒼の利用価値にまだ執着している可能性がある、ということだと受け取った。そしてこの神官達はリスクを追ってでも蒼にそれを知らせてくれたのだ。


「道中お気をつけて」

「こちらこそありがとうございました!」


 大きく手を振って別れる蒼とレーベンの隣にいるアルフレドはまだ表情が険しいままだ。


「上級神官も信用できないなんて」

「そう? 私はむしろ安心しちゃった。きっとそういう人はごくごく一部なのよ。しかも偉い人」


 しかも残念ながら、その上役の命令を部下である上級神官ですら遂行するつもりがないときた。


「楽観的になりすぎ? 心配性発動した方がいい?」


 蒼からそう尋ねられたアルフレドは、一瞬迷って、


「いや、そうだな。人生楽しむんだろ? 楽観的にいこうか」


 フッと笑って、蒼の手を握った。 

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