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【完結】衣食住保障してください!〜金銭は保障外だったので異世界で軽食販売しながら旅します〜  作者: 桃月 とと
第7章 世界は変化する

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第10話(番外編) 勇者、迷う

 レイジーは転がる『与する者』を魔法で縛り上げていた。その辺に茂っていた蔦がまるで鋼のように硬くなり、男達の腕や足にキツく巻きついていく。


(圧倒的だったな~……)


 勇者一行が陸路で移動中、魔物の大群が血走った目で親子に襲いかかっているのに遭遇した。レイジーはその瞬間、ゾッと体が震えてしまう。これまで経験したことのない震えだ。


(なんだ? 今一瞬、何かみえたような……)


 だがこの震えはかつて一度、トリエスタ近郊で魔物の大群へと突っ込み死にかけたせいだろう、と気合いを入れ直す。そしてその時と同じようにハッキリと()えた。


「人間がっ! 与する者が紛れてる! その三本ヅノのヤツだ!!!」


 彼の心眼の加護は一瞬で魔物に化ける人間を見破った。その叫び声から数秒後、その()()は地面に倒れることになる。レイジーにはアレクサンドラの美しい金髪が一瞬だけ見えた気がした。


「ノレ!」


 ニーナはいつの間にか本来のサイズに戻っており、ルッチェの声に従ってレイジーは急いでその竜の背中に飛び乗った。上空から他に同じような人間(与する者)がいないか確認するために。追われていた親子はルチルの()()で、彼らが乗っていた野良馬にまたがり、すでに遠くへと逃がされていた。


「他には!?」


 上空から魔物の大群を凝視する。


「尻尾が九本の牛型と細身のゴーレム! それから茶色いワーウルフ!!!」


 これもまたアレクサンドラに声が届いた途端に片っ端から地面へと沈んでいった。


「ショウの方は!?」

「ゼッコウチョウ!」


 ある一ヶ所を機に魔物達が見当たらなくなっていた。真っ白な湯気のような煌めきが上空に立ち上っている。

 勇者の持つロッドが光を放っていた。たった一滴勇者の血を受けると、それは強力な浄化の力を発揮し、問答無用で魔物達を美しい光を放つ消し炭へと変えていく。


 文字通り、勇者の『血』が成しえることだった。


◇◇◇


「さっき逃げた人達は?」


 翔が心配そうにルチルに尋ねる。


「ダイジョウブ ウマニハ トオクマデ ニゲルヨウ ツタエタ」

「よかった……」


 地面に落ちたボロボロの短剣を拾い上げ、ほっと息をつく。先ほど逃げていった親子が落としていったものと思われた。


「いいものだ。大鹿の剣に大亀の甲羅の鞘か……これは本来瘴気を纏わせて使うものなのだが……お前が触れただけでその効果がなくなっている」

「え!? 壊しちゃったってことですか!?」


 まさかそんな機能があるなんて知らなかったんです……と、ちょっぴり言い訳をしながらその古びた短剣を翔が申し訳なさそうに見つめていたので、アレクサンドラはクスクスと笑った。だが、その表情は長くは続かない。


「さて。サラ・ガルド殿に人類は感謝しなければ」


 地面に残された魔物達の足跡と、四体の気を失った男達。すでに変身魔法は解けている。頬に傷のある男が唸り声を上げながら目を覚ました。その瞬間、アレクサンドラがその男を思いっきり蹴り上げる。


「ウグッ」

「ちょっと!!!」


 もちろん翔は大慌てでそれを止めた。甘っちょろいと言われても、すでに抵抗できない人間を痛めつける趣味は彼にない。


「すまない。衝動が抑えられなかった」


 アレクサンドラは素直に謝った。彼女も本来なら自分より弱い人間に興味などない。だが今はなぜか半笑い。


「レイジー。こいつらの加護が視えるか?」

「感知が一人……心眼がニ人……支配(テイム)が一人……」


 レイジーがどんどん戸惑っていくのがわかる。


「えっ……」


 レイジーだけでなく、勇者一行の加護の力が増していた。翔が新たに御使から新たに得た加護の効果だ。他者の力を強化する。だからレイジーは加護の有無だけではなく、その内容すら把握することができるようになっていた。


「英雄の末裔ってことですか……」

「少なくともそこで呻いている男はそうだ。なんせ私の遠縁だからな。体の頑丈さだけが取り柄の愚か者だ」


 アレクサンドラは目が怒りで燃えていた。いつも飄々とした喋り口だが、ここまで使命感に燃えていたとは翔にもわからなかった。だがこれ以上彼女が手を出すつもりはないという、理屈のない確信が彼にはある。

 この世界の人々のこの自制心の強さを翔は尊敬していた。怒りも、嫉妬も、恨みも抱かないわけではない。だがその感情をできる限り広めることも深めることもないように心がけている。『魔王』という存在がそうさせているのだ。


「サラ ノ ヨゲン アタッタネ」


 ルチルはジッと『与する者』達から目をそらさなかった。

 

「そうだね」


 翔達がこの道を通ったのは、途中でサラ・ガルドが率いる対魔王軍の野営地に立ち寄ったからだ。一番初めに捉えられた『与する者』は沈黙を保っていたが、サラはいくつかの予知から情報を取り出していた。


『これ以上私から情報を引き出される前に、あの男を暗殺した方がいいのでは? と考えた人間が魔王軍にいたのでしょう。何人か敵の姿が見えましたよ』


 ゆったりとした声色でサラはそんなことを話す。『与する者』の誰かが囚われた男を亡き者にする計画を頭に浮かべた。その()()()で一つ未来が生まれたのだ。だからサラは予知で彼らのことを知ることができた。

 サラは紙に『与する者達』の人相や服装をさらさらと描いた。日頃そんな訓練でもしているのかとても上手い。

 さらに彼女は翌日、新たな予知を見た。勇者に会って力が増した影響だ。


『皆様が与する者達を捉えている未来が見えました』


 そしてその予知の中には彼女が以前予知で見た『与する者』が。

 周囲の植生から今より南であることは予想できたので、翔達勇者一行はそちらを目指すことにした。なんせ『魔王』が行方不明になっている。さらに『与する者』達も魔王を探していることをアレクサンドラから聞いていた。その理由が思い付かず、ここ最近ずっと彼らの中の話題になっている。


 そいういうわけで、彼らは予定通りレッダスという大きな街へと向かっている。そこには勝利を司る御使ヴィーアを祀る神殿があり、特級神官もいたので、なにか新たな情報が手に入るかもしれないという期待もあった。


「ショウの感覚でもこっちなんだよな?」

「そうですね。確かに」


 勇者と魔王はお互いに相対する存在のせいか、なんとなくお互いの居場所がわかった。なんとなくソワソワする方向だ。

 縛り上げられた『与する者』達は暴れないように魔法をかけられた上で、馬に乗せられ運ばれている。これからレッダスの神殿に彼らを引き渡しにいく。すでにルチルの力によって神殿へ手紙は届けられており、急ピッチで受け入れ準備が進められていた。


(口を割らせる! って言うと思ってたけど)


 その場で脅し攻め立てても、本当の答えが出てくるかわからない。実際、最初に捉えられた『与する者』はいまだに本人は口を割ってはいのだから。効率的ではないのだ。無駄な時間は使わないと、アレクサンドラの意見から『与する者』達のことは専門家に任せることにした。


「……なんで魔王は魔王軍から出ていっちゃったんですかねぇ」

 

 勇者の不思議そうな声が周囲に届いた。

 しかもその後、魔王本人が暴れ回ったような形跡もない。魔王に抱くイメージとは異なり、一体何がしたいのか皆目検討がつかなかった。


「理由なんてあるか~? だって魔王だぞ?」


 レイジーは勇者が何を言っているんだ? とこちらも心底不思議そうに答えた。


「そんなもんですかねぇ……」


 だが御使は魔王に自我があると言っていた。魔王に意思があるということだ。魔王の意思で逃げ出し、悪さもせずに身を隠しているのだろうか、と翔は想像を膨らませている。


 それを聞いて、バカにしたような声を出したのは頬に傷のある男。


「はっ……こんなのが探し続けてた勇者かよ」

「なんだ。まだ眠り足りないのか?」


 即座にアレクサンドラがドスのきいた声をかけるが、翔には彼女が敢えて煽っているように見えた。


「『そんなの』に魔物の大群を率いた英雄の末裔が大負けしたなんて、私なら恥ずかしくて生きていけないな」


 明らかにバカにした口調だった。頬に傷のある男の方はその言葉を聞いてワナワナと口元が震えている。元来短気なのだろう。そしてそのことをアレクサンドラは知っていた。彼女の狙い通り、男は簡単に挑発に乗ったのだ。


「ハハハ! 今回の勇者はとんだ間抜け野郎だ! 目の前を通り過ぎていった魔王が見えなかったんだからな!」

「……!!?」


 最初にその意味に気がついたのは、心眼を持っているレイジー。あの親子を見た時の震えの理由がわかったからだ。そしてその後で勇者、アレクサンドラ、そしてルチル達。思ってもいなかった重大な情報が手に入った。


「あの女性か子供のどちらかが魔王!?」


 一瞬しか見なかった。だが、ハッキリと彼らのことを『人』として認識していた。

 翔の中に、どうしようもなく憂鬱な感覚が頭にも心にも充満していく。


(あの二人のどちらかを浄化する(消し去る)……?)


 そんなことが自分にできるのか。翔は途端にこの旅がやりとげる自信が全くなくなっていくのがわかった。

 魔王というからには、荒々しく悪意に満ち溢れているのかとそう思っていた。過去の魔王はそうだったのだ。だから今回も同じだと疑うことすらしていなかった。

 

 だが実際は必死にお互いの手を引いて魔物から逃げている親子。


(どうしよう……どうしよう……どうしよう……)


 その言葉だけが、勇者の中でこだました。

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