第7話 遺跡
「今日もいい天気~~~!」
暖かな風が吹いている。蒼はまだセレーニア小国連合にいた。ここにはたくさんの島があり少しずつ特色が違うので、オルフェの実家のあるイグミア島を拠点としてノンビリと島巡り観光を楽しんでいる。
「では。また夜に戻ってきます」
「は~い! 気をつけて!」
ここでもライルは別行動。
『ギルドに出土品を保管してあるらしいので見せてもらってきます』
彼は魔王探知機の改造を始めていた。あの大きな光を放ったのを最後についに装置が動かなくなったいたのだ。
『今回の魔王はどうもおかしいと、有識者が口々に言う理由がよく理解できました』
少し面白がっているような、挑戦的な表情だった。
蒼達が今いるエリアル島は美しいビーチと古代遺跡が数多く残っており、今でも時々古代の遺物が出土する。
美術品以外は一般的に売り買いされることはないので、それ以外はギルドが買い取り、ライルのような特殊な専門家が調べたりさらに購入することがよくあった。
「遺跡専門の冒険者がいるんだよ」
この島一番の大きな遺跡群を眺めながら蒼達は昼食をとっていた。手に持っているのはプチバーガー。間にはハンバーグに照り焼き、厚切りベーコン。
(トレジャーハンターみたいな? そういえばディルノアやカーライル家でもそんな話を聞いたような)
三百年以上前の発達した文明の跡から発掘された遺物は、今の世を生きる学者達に大きな発見を与えることが多々ある。
なんだかワクワクする職業だと蒼は目を輝かせていた。
「アルフレドさんもそういうお仕事したことありますか?」
同じく目をキラキラとさせ期待の眼差しでレーベンはアルフレドを見つめている。
「うーん俺はどっちかというと発掘隊の護衛についたり、崩れかけて危険な場所の調査に入ることが多いかも」
困ったように笑いながら武闘派アルフレドは答えるが、
「えー! 前は兄さま、しょっちゅう綺麗な魔石や短剣や矢尻を見つけて見せてくれてたよ!」
兄に出来ないことは何もない! と、本人ではなくフィアが声を上げる。
「ああ……家を出る前は確かに」
それを思い出したアルフレドは穏やかな笑顔へと変わっていった。
「ふむ。せっかくだ! なにか探してみようじゃないか」
いいことを思いついたとオルフェは得意顔になっている。
一緒にこの島についてくると言った時、蒼は心配だったのだ。エリアル島は彼の知っている部分が残っているからこそ三百年の月日を感じ辛くなるのではないかと。
「思い悩んでも仕方がない! 過去へは戻れないのだからね。言っただろう? 私は人生をめいいっぱい楽しむのだ!」
心配無用! と、一番最初に遺跡へ向かって駆け出して行った。蒼達も急いで広げてあったピクニック道具を片付けてオルフェについて行く。
「ここにまだ何か残ってるの?」
「いや。今発掘してるのはアッチの海辺の方らしい。商人の屋敷跡」
ならオルフェは一体何を探しているというのか。領城跡をキョロキョロと見渡すと、彼はちょうど遺跡の真ん中あたりの壁を手で触って確かめている。
「そこに何かあるの?」
フィアが尻尾を振りながら彼の前にあるグリフォンが刻まれたレリーフを見ていた。
「ふっふっふ……! ここには幼い頃一度来た事があってね。この辺りの地下に隠し通路があったはずなんだ。本や文書も見かけたことがあるから、もし見つかったら喜ぶ人間は多いだろう」
「おぉ! 大発見だ!」
だから絶対に一緒に行く! と彼は意気込んでいたのだ。
全員がワクワクとし始めた。オルフェ曰く、このグリフォンのレリーフの周辺に隠し扉が埋められていたはず……ということで、全員が一生懸命に石畳の地面を触り違和感を探す。
「五カ所沈みやすいところがあるはずだ。それを順番に押すと……」
「あ! ここちょっと動きます」
「ここにも!」
「ここ! ここも!」
全員が夢中になっていた。何度かボタン代わりらしい石畳を押し込んでいると、地面が低く唸りゆっくりと動き始めた。そしてちょうど大人が一人入れるほどの穴が開く。
「すごいすごい!」
珍しくレーベンは大はしゃぎ。もちろんオルフェは鼻高々。
「ははは! さすが私だ! 記憶力抜群!」
魔物の気配がないのを確認し、アルフレドを先頭に全員が中に入っていく。通路の中は意外と広く、ところどころに小部屋が作られていた。保管所代わりにもされていたようだ。人が入ると明かりが自動的に灯され、さらに蒼達を大騒ぎさせた。
「かなり奥まで続いてそうだね」
「たしか領城と神殿が地下で繋がっていたはずだ」
神殿の跡地にはもうほとんど何もない。魔王侵攻の当時、一番被害が大きかった場所だと言われている。
「わっ! これじゃない!?」
蒼が通路にある小部屋の中の書類戸棚のようなものを見つけた。
「ああそうだ! ここだここだ!」
ついにお宝発見! オルフェの予想通りだった。中身は当時の暮らしがわかる資料がメインだったが、別の戸棚には専門書のようなものも数多く残されていた。
「うわ! これ論文集かな……文字は読めるのに何書いてるかわかんないけど……」
中にはライル・エリクシアや、オルフェをキメラ化させたソフィリア・サルヴァドランという名前も。どうやら誰かが個人的にまとめたものらしかった。
「紙物は喜ぶ人が多いよ。そもそもこの時期の資料は貴重だし、研究者が殺到するんじゃない?」
「オルフェすごーい!」
カーライル兄弟に褒められ、オルフェはこれでもかと嬉しそうにしていた。
「はーっはっはっは! 私にかかればこんなもんだ!」
とりあえず資料はそのままに。
「ギルドに報告しにいこう。専門家がいるはずだから、うまく運び出してくれると思うよ」
「そうだな。せっかくのお宝だ。大切に扱ってもらわなければ」
そうしてその小さな資料室を出た瞬間だった。
「……誰だったかな……前に会ったことがある人の匂いだ……」
フィアが反応した。入ってきた扉は閉めてきたので、出口の方から誰かが同じように隠し扉を潜って来たことになる。
もちろん全員に緊張が走った。まさか三百年もあったのに、まったく同じ日に同じ地下通路を発見する人がいるなんて。
(アルフレドの加護には反応してないってことは人間ではあるってこと?)
すでに剣を抜き前方に立っている。鍵を使い家の中に逃げ込むことも考えたが、オルフェの大発見をそのままにするのは忍びなく、とりあえず後方で様子見をすることにした。
足音が徐々に近づいてくる。相手はこちらに気がついていないようだ。
「……女性と子供だ」
アルフレドが小声で呟いた。
それから数十秒後現れた姿を見て、オルフェ以外が目を見開いた。
「え?」
「……!」
お互い、見たことがある顔だったからだ。
「サニーさん! ミュスティー!」
「え? ア、アオイさん!?」
あっちもこっちも予想外。グレーリー平原で出会った親子だ。魔王軍と対魔王軍の戦闘によりブルベリアから逃げ出して来たと聞いていた。
「「なんでこんなところに!?」」
こうして彼らは、ブルベリアからもグレーリー平原からも遥か離れた、三百年も前に魔王によって滅ぼされた遺跡で再会した。




