第4話 第二の人生スタート!
異世界に降り立つにあたり、蒼の体に変化が起こった。唐突に頭から足先まで光に包まれたのだ。綺麗な真っ白い光だったからか、そばにいた翔が、おぉ! と感動するような声を発した。
「なに!? なにごと!?」
「異世界の体じゃあこの世界に入れないんですよ~」
「ここ異世界じゃないの!?」
神殿の真っ白な床を指でさす。
「狭間の世界ってやつですね~」
相変わらずゆるゆるなリルケルラの声。そうこう話している間に光がどんどん強くなってくる。
「魂だけなら問題ないんですけど~体は一から作り替えです。あ、なにか要望とかってありますか~? なければこちらの世界で違和感のない程度に作り替えちゃいますね~」
またも軽いノリになっているリルケルラにもちろん蒼は不安を覚える。
「え!? どういうこと!? ちょっと待って!!?」
「はいは~い。なにかありますか~?」
「一から体を作るって……赤ちゃんはいやですよ!?」
「了解です~」
(言わなきゃ赤ちゃんだった!?)
などと余計なことを考えていたせいか要望を考える暇もなく、急激に光が消え始めた。
(あああ! もっとなにか……もっとなにか言えばよかった!)
だがもう遅い。
「出来上がりです~~~!」
「えええええ!」
気がきくことにリルケルラは指をくいっとふって、鏡を出してくれた。それを見た蒼の感想はというと、
「どっか変わった?」
「うーん……どこだろう」
翔も首を傾げる。
「あ! なんかお肌の状態がいい気がする! 肩こりもない! 視力もよくなったような!!? 体を作り替えたから!?」
頬を触り、すぐさま蒼は反応した。
「そうですね~特に見た目に大きく変わったところはないと思います~」
リルケルラ曰く、現在の蒼の体はこの世界でいうところの成人年齢に達したくらいの肉体年齢なのだそうだ。つまり、肉体年齢はほんの少し若返っている。だが、蒼が喜んだのはそこではない。
「その体に加護を与えました。病気に罹患することないし~怪我の治りも人一倍早いですよ~」
「いいんですか!?」
「はい~これは私の裁量範囲で自由に与えられる加護なので~」
この加護があれば病気や毒で苦しむことはない。暑くても寒くても、どんな環境でも体は問題なく動く、超健康体になったのだとリルケルラは鼻高々に語った。だが怪我にかんしては大抵のものならあっという間に治るが、
「即死にいたる怪我だけはどうしようもありませんので~そこは気をつけてくださいねぇ」
ということだった。
「先輩も言っていましたが、どうせなら異世界の人にこの世界をめいっぱい楽しんでもらいたいんです!」
(魔王がいるこの世界を!?)
と、ツッコミを入れるのは野暮だと蒼は黙って頷く。予想外にいい加護をもらえて素直に感謝をしていた。
「これって実はショウさんと同じ加護なんですよ~」
だからショウは幼き日に異世界……蒼たちの世界へ移動しても体を作り変える必要がなかったのだ。そして今回も。
「俺ってすでに加護持ちなの!?」
「そういえばしょうくんが病気したって聞いたことないような……」
「初代勇者の力を継ぐものは皆そうなんですよ~流石に異世界だと加護の力は弱まりますが、それでもそこそこ効果はあったかもしれませんねぇ」
興味深そうにリルケルラはまたウンウンと頷いていた。
「ショウさんの加護と違ってアオイさんの加護は一代限りです~そこはご了承ください~」
(そんなこと気にする状況になる……?)
自分の次世代……今は到底そこまで考えられない。というより、元の世界でも仕事ばかりでそこまで考えられていなかった。
(そんな余裕があればいいけどね~……)
「あおいねーちゃんが何も気にせず暮らせるよう、俺が頑張るね」
蒼のなんとも言えない、虚無感を思わせる顔をみて翔は笑いそうになるのをこらえていた。彼女が何を考えたのかすぐさま見当がついたのだ。
翔とは別々の土地へと降り立つことに決まっている。彼は特別な土地へうやうやしく召喚され登場すると。
「人々が結束するために特別なイベントがあった方がいいでしょう?」
インパクトが大事なんです。と、リルケルラはグッと拳に力を込めた。
「なんかちょっと恥ずかしいよね……」
肝心の勇者の末裔はノリ気ではないようだったが。
◇◇◇
別れの時間、どちらからともなく蒼と翔はギュッとお互いの肩に手をまわした。
「あおいねーちゃんがこの世界にいると思ったら、寂しさもなにもなくなっちゃったよ」
勝手でごめんと謝る翔の背中を、またも蒼はポンポンと叩いた。
「人生、楽しもうね!」
「……うん!」
翔はこれから特別な場所で特別な訓練を受ける。そこに蒼は入ることは許されない。もちろん蒼は翔の近くでできる限りのサポートをしたかったが、病気をしない、怪我が早く治る程度の加護では対魔王軍には加入できない。遠回しに足手纏いだとリルケルラに言われてしまった。
だが、永遠の別れではない。同じ世界にいるのだからいつかはきっと会える。
「では! 良い人生を!」
なんだかワクワクしているリルケルラの掛け声と同時に、二人の足元が光った。