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第二章~⑬

「そうなのよ。罹ったらどうしようとは思ったけど、お金に困っていたから我慢したの。でもワクチン接種を済ませた利用者が増えて、私達も二回接種した後はかなり安心感が増したかな。私はなんとか感染せずに済んでいるしね。だけど年明けのオミクロン株による第六波は、さすがに怖いと思った。感染力が強くて、ワクチンの効果も弱いって言われていたし、感染者数もすごかったじゃないですか」

「感染した方もいたんじゃないですか。それが怖くて辞めた方もいらっしゃったでしょう」

「もちろん。コロナ禍になる前から勤務しているのは、私ともう一人だけ。後は辞めちゃって、今いるのは後から入って来た若い子達ばかりだから」

「そうですか。もう一人はなんていう方ですか。今は勤務中ですか」

「アオイちゃんは今日遅番だからまだ来ていないはず。ああ御免なさい。これは内緒。他にどんな子がいるか、言っちゃダメなのよ」

「分かりました。ところで野中さんは何時までの勤務ですか。ここは二十四時間対応していると伺いました。通常なら八時間ずつの三交代制を取るでしょうけど、何時から何時まで働いているのですか」

「今日は十三時から二十一時過ぎまで。だからこの取材が終わってしばらくしたら帰ります。後は遅番で二十一時から朝の五時頃までと五時頃から十三時の早番。朝の早番は始発が動かないと無理だから、多少遅番の人が長くいて早番の人が遅く来るって感じかな」

「性的介助の依頼が多いのは、やはり遅番ですか」

 彼女はまた笑った。

「通常の風俗を利用している人だったら、そう思うでしょう。でも実際は早番や昼番が多いの。だって少し考えたら分かるじゃない。介護援助を受けたいと思うデイサービスが基本だから、午前中や昼間に利用する人が大半なの。周りにも怪しまれないからね」

 言われてみればその通りだ。ショートステイのように夜から朝までの介護を受ける際、利用する場合はあるだろう。しかし周囲の目を考えればなかなか難しい。

 というのも家族がいるなら、頻繁にショートステイさせると周囲の目が気になってしまう。また昼間のデイサービスより料金も高くなるからだ。

 そこで気付く。秀介の場合は実家の一軒家で一人暮らしをしているのだから、夜遅くの介護支援を受けるとなれば、近所の人に怪しまれるだろう。

 けれど的場や彼の妻も含め、そうしたサービスを利用しているとは思わなかったと聞いている。そう考えると彼の場合、家には呼んでいなかったに違いない。近所の人の目をかいくぐろうとするなら昼間に外出した際、どこかで落ち合うパターンだけだ。

 そこで須依は尋ねた。

「利用者のお宅を訪ねるのではなく、外で待ち合わせする場合はありますか。例えばホテルだとか、カラオケルームの個室だとか」

 彼女は当然とばかりに答えた。

「自宅以外でも会いますよ。普通の介助支援でも買い物だとか、病院やお役所への同行支援というのもありますから。でも性的介助の場合、他の人の目があるのでホテルやカラオケは無いな。以前は百貨店やショッピングセンターで待ち合わせて、共同トイレを使うパターンが多かったの。でも女を連れ込んで不倫していた有名人がいたでしょ。あの騒ぎのおかげで使いづらくなったのよ。本当に迷惑。あれからは個室がある居酒屋だとか飲食店で待ち合わせして、そのままそこで済ますケースが増えたかな」

「飲食店の個室ですか。匂いなどが残ったり、従業員が突然入ってきたりする危険もあるでしょう」

 驚いた烏森がそう質問すると、彼女はケタケタと笑った。

「意外とそのスリルがたまらないって、喜ぶ利用者がいるのよ。もちろん消臭スプレーは使うけど、ああいうお店って元々色んな料理の匂いが混ざって壁にも染みついているから、余程敏感な店員さんじゃないと気付かないみたい。それに障害者とその介護支援者が、そういう事に使うなんて想像もしていなんじゃないかな」

 まさしく盲点を突く利用方法だ。そこで須依は核心に入った。

「そうですね。私のような視覚障害者を先導する人が異性だとしても、そういう関係だと疑われ難いかもしれません。私と烏森とは長い付き合いで、一緒に居る時間が多いからそういう噂を立てられたことはありますけど。野中さんはそんな経験がおありですか」

「私はないかな。目が見えない人は、誘導だとか色々慣れていないと難しいでしょ。手話も出来ないから耳の不自由な人の対応もできないし。だから滅多にそういう利用者を相手にすることはないの。どちらかといえば本当に四肢が不自由だったりして、自宅に訪問するか施設に連れてくる人が多いかな。それだと普通の個室で対応できるし、困った時には他の介護士がいるから助けて貰えるでしょう」

「ではそういう利用者からの依頼は、別の方が受けるのですか」

「そうね。こういった業界だと常連さんは相手を指名するケースが大半だから、自然と住み分けが出来るのよ。だから客の奪い合いなんて滅多に起こらない。揉め事が少ないというのも、普通の風俗店にはない良さかな。競争相手自体がそんなにいないし。まあ利用者の数も限られているけどね」

「ということは、耳が聞こえない又は目が見えない利用者は、先程名前を言われた介護士さんが対応することが多いんですね。その方は手話や視覚障害者の誘導などに長けているのですか」

「まあ、他の介護士に関してはっきり言えないけど、そういう傾向はあるかな。特に目が見えない人の場合は、まあね」

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