第1章 花屋敷の呪い児1
階層都市――紅玉。
それは、呪いにまみれたこの世界の象徴。
丸くて巨大な薄紅色をしたドーム状の中に、数百もの階層に分岐し構築されていると言われている。何故『言われている』という仮定を指しているのかと言えば、俺は外の世界を知らない。
知らないモノは、仮想でしか語れない。夢は理想でしか語れない。
生まれてこの方、十七年……一度も外の世界というモノを見たことがない。
否、俺が住んでいる階層の中でも一番年老いた〝層長〟でさえも見たことがないと話していたから、もしかしたら死ぬまで見る機会はないのかもしれない。
下級の俺達が住まう階層、通称――地獄層。
それはざっくりと〝層長〟から訊いただけでも百層はあるという。
どういう区切りで区分けをしているのかは分からないが、雑多な建築物が幾重にも増改築を繰り返した結果、今の地獄層ができているのだという。
正直なところ、層と層を跨いで移動することすら苦心するというのにそれも百層あると訊けば、訊いただけでゲンナリしてしまう話だった。
だが、地獄層に住まう人間達は言う。
地獄にも極楽はあるのだ、と。
ごちゃごちゃとした各階層が折り重なった、日の光乏しいこの都市の中でも一際高く、俺達のような低階級のおおよそ人間とすら扱われることのなかった下々の者にとって、夢のまた夢の存在だった。
だがいつしか、誰かが言い出した。
『花屋敷と呼ばれる特別な〝店〟があるらしい』
『どんな呪いでも、たちどころに治してしまうんだとか』
『花屋敷には人ではなく鬼が住んでいる』
などなど、訊けば訊くほど眉唾物な話題ばかりが横行している。
それでも人々が密かに縋る、その『花屋敷の噂』はこの貧困階級の多い階層都市の人間にとっては唯一の縋りどころであった。
何故ならその花屋敷に住まう主人は、この俗世に蔓延する呪いの地獄から解放してくれるというのだから――。