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第1章 花屋敷の呪い児12

「〝紅の君〟、ご無事ですか」

「ええ。ありがとう、〝銀の使い〟」

 そんな至極当然といった二人のやり取りでさえ、自分がマオを守る時に〝そう在りたい〟と願う姿だ。

「この蟲は時間を掛ければまた再生します。それまでは壺の中にでも入れておきましょう」

「そう、なのか……。そうしたらまたマオが苦しむんじゃないのか」

「安心なさって。そうならないようこれから手を打ちます。――〝銀の使い〟」

「はっ」

 それは初めから想定していたんとばかりのように、〝銀の使い〟と呼ばれた青年は銀色の壺を取り出すとその蓋を開ける。そして、マオの身体からゆっくりと引き剥がされていった『影の蛇蟲』を壺の中へと収めると蓋をし呪符のような物を貼り付け封じ込めた。

 それと同時に、

「蛇の声が……消えた?」

 つい先刻まで、シャアシャアと鳴り響いていた蛇の威嚇。

 それが壺に収まると同時に、一斉に聞こえなくなった。

 そのことに唖然としながらも、〝紅の君〟と〝銀の使い〟を交互に見比べる。

「この娘の呪いは、我が主の手によって取り除かれた」

「本当か?」

「ええ、本当よ。……ご覧なさい。蛇の痣も消えているでしょう?」

 そう言って、〝紅の君〟が指さした場所には先程まであった蛇の鱗状の痣が完全に掻き消えていた。

「本当だ。……よかった、マオは、マオは助かったんだな」

「ええ。けれど……一つ貴方に提案することもできるのよ」

「提案? なんだ?」

 提案というその言葉に目を瞬かせながらも〝紅の君〟の声に耳を傾けると、それは思いがけないものだった。

「人を呪わば穴二つ、という言葉があるのは知っているかしら。ヒトを害すると、自らも同じ目に遭うことを覚悟なさい、という意味合いなのだけれど……。この呪いを蒐集したいとも思うけれど、本来ならば、呪いをかけた者に還すこともできるわ」

「……!」

 呪いをかけた者……それはもしかしたら、いや、もしかしなくともあの大男だろう。

 自分で蛇蟲を作っていたのか、はたまた市場に住まう呪術師に頼んだのかも知れない。

 どちらにせよマオを呪い殺すことで俺に対する報復のつもりだったのかも知れないが、今回は徹底的にあの男には運がなかった。

「どうする? 貴方なら還したいと思うかしら」

「…………」

 その問いかけに、沈黙する。

 欲を、いや、本心を言うのであれば呪いをかけた人物にも同じ目にあわせたいと思う。

 けれど、きっと――マオはそれを望まない。

 詭弁かもしれないし、俺がたんに悪人になりきれないのをマオを理由にしているのかもしれない。だが、この蛇蟲の呪いを引き受けてくれるというのなら、それに超したことはなかった。

「……。悪いが、この呪いはアンタのほうで引き取ってくれ」

「ええ。分かったわ」

 それは酷くあっさりとした了承だった。

 一寸の躊躇いも、恐怖も垣間見せないその姿に内心驚くことしかできない。

(〝紅の君〟……本当に何者なんだろう)

 好奇心から、つい色々と訊いてみたくなる。

 けれど、俺の直感が言っていた。〝それ〟に触れてはいけないと――今はただ、呪いを解いて貰うことだけに専念することだ、と。だからといって、ただそれだけですぐに帰ることはできない。

「……〝銀の使い〟も言っていたが、本当に今回の呪いを解いた代価はソレでいいのか?」

「ええ。この蛇蠱の呪いを貰うこと。それが、この度のお代よ」

「すぐに払いはできないけど、頑張れば……時間はかかるけど、金銭も用意することもできるんだ。マオの命を助けてくれたんだ、しっかりしたことは――」

「――〝紅の君〟に意見するつもりか」

 しておきたい、そう言葉を発するよりも早く、俺の言葉に被せるようにして〝銀の使い〟が言葉を紡いだ。

 それはまるで空間に薄氷が混じったかのような冷たい殺気にゾクリと肌が粟立った。


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