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第1章 花屋敷の呪い児11


「なるほど、ね……」


 なにかしらの合点がいったのだろう。

 〝紅の君〟は小さく呟くと、つつ……っとマオの肌に指を這わせた。

「この蛇蠱の力自体はさほど強くはないわ。本来であれば、呪い殺したい相手に蛇蟲の蟲を咬ませるモノだから……咬ませることなく、絞め殺す程度の呪い、なんてことないわ」

「なんてことない……って。でも、マオはこんなに苦しんでいるのに。俺はなにもしてやれていない……できるなら、代わってやりたいくらいだ」

「そんなに想うほど、この娘のことが大切なのね」

「当たり前だ! マオは、俺の家族だ!」

「……!」

 即答した言葉。その言葉に〝紅の君〟の瞳が大きく見開かれた。

 そして数秒間の沈黙の後、

「いいでしょう」

 短くそう呟くと、〝紅の君〟はマオの身体に刻まれた痣の上に手の平を乗せると呪い語を唱え始める。

「我が呼び掛けに応えなさい、下賎なるモノよ、卑しき毒の具現よ、我が前にその姿を晒し頭を垂れよ」

 つらつらと紡がれるそれはまるで命令だった。

 この世成らざるモノに対し、服従させ抵抗させることのない絶対的な権限を有した言葉。

「さあ、おいでなさいな」

 パンと柏手を打った次の瞬間、それはマオの身体の中から無理やり引き剥がされるようにして姿を現した。シャアシャアと威嚇をするかのように甲高い蛇の鳴き声が室内に響き渡る。

 それと同時にマオの苦しむような声が、微かに聞こえた。

「ゴ、ウ……」

「マオ……!」

「まだ近づいては駄目よ」

 マオの手を握ろうとした俺を、〝紅の君〟はぴしゃりとした厳しい声で制した。

「貴方まで呪いに侵されることになるわよ。そうしたら誰がこの娘を守るの?」

「……!」

 その言葉に、思わず戦慄する。

 そうだ。俺は、これからもマオを守る。守り続ける。なのに、自分が犠牲になったらそれが叶わなくなってしまう。

 マオの身代わりになってやりたいという相反する思いに苛まれながら、無力感にただ歯噛みをする。

「〝紅の君〟、お下がりください」

 その時だ。〝紅の君〟を守るために俺達を庇い立つ一人の青年がいた。

〝銀の使い〟と呼ぶ、あの青年だった。

 半透明の蛇の蟲。それは時折グネグネと身を捩らせながらも、視線は獲物を捕らえるように此方をまっすぐに見据えている。だがそれに臆することもなく〝銀の使い〟は腰に下げていた鞘から刀を引き抜くと、蛇の蟲に向けて斬りかかった。

 斬……ッ!

 それはあまりにも一瞬の出来事で、俺が如何に無力なのかを知らしめるには充分すぎるほどだった。刀剣類は高価だ。しかも呪物を斬り捨てることのできる特別な物など下層では到底手に入れられない。刃物で手が届くといえば、日用品に類する包丁くらいだ。

 その代わりと言っては何だが、拳であればある程度はやり合える。そんな自負があった。

(俺がなりたいのは、こういう強さだ……)

 密かにそんな憧れを抱きながらも、ブツ切りにされた『影の蛇蟲』をぼんやり見つめる。

 そこに、同情や哀れみはない。

 代わりに青年に対する憧れだけが募った。


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