政宗ちゃん元服す
俺の名は木村可親。伊達家に仕える豪族の出で、今日は伊達機宗様に呼び出されて米沢城に来ている。天守閣に呼び出された俺は、そこで片倉景綱と出会った。
「これは片倉どの。あなたも呼び出されてここに?」
「ヨシチカどの、今日は政宗さまの小姓を決めるとかなんとか」
そうショートボブのおなごは俺に言った。
伊達家に限らず、武士には厳しい家格のしきたりがある。片倉家は召し出し一番座の家柄。我が木村家は召し出し二番座で家格は片倉家の方が上だ。召し出し一番座は、新年のあいさつも一月一日に呼び出される。召し出し二番座は一月二日だ。木村家は伊達家とは距離を置いていたが、輝宗様の代になってから臣従した。石高三千石の領地が与えられ、福島藩の芦名家と直接面する国境の領地と、鉄砲組頭の役目が与えられて、輝宗様の覚えはめでたい。要害の地に所領を持つのは武士としてこの上ない名誉だった。
「政宗様もついに元服なさるか」
と言いながら俺は深いため息を吐いた。政宗様は女だてらにやんちゃで、おそらく輝宗様の血よりも、気性の荒い義姫様の血が強く出たのであろう。義姫様は政宗様のことはあまり愛されなかったと聞いている。むしろ輝宗様に似た、長男の小十郎様を溺愛なされた。
景綱どのはなかなか輝宗様が来ないことをしきりに気にしていた。
「ていうか、正座辛い」
そう片倉景綱様は愚痴をこぼす。
「足を崩されればいかがか? 景綱様はおなごでしょうに」
俺はあくまでも親切心からそう言った。のだが……
「あっ、今、おなご扱いした。拙者は武士でござる! 馬鹿にすると輝宗公に言いつけるぞ?」
景綱様はそう言い返してきた。無理しなくていいのに。景綱様は真面目だから……
「馬鹿にしたつもりはないのだが」
俺はそういい、あえて足を崩して片膝を立てて座った。
「輝宗さまが来たら怒られるよ? ヨシチカ」
どこまでも真面目な景綱は言う。面倒くさいので以降は堅苦しいのはやめだ。様つけもなし。歴史小説じゃあるまいし。
「こう、男はどーんとかまえて、女の子はしんなり座ってだなー」
「その座り方は政宗様のマネ?」
「正直、俺も正座は辛い。オランダの便所は座って用が足せるとかなんとか」
「なにそれ、どこ情報?」
「支倉どのに聞いた」
「ていうか、わたしも一応女子だし、トイレの話とか空気読めないでしょ、ヨシチカ」
空気どころか世界と一体化して熱光学迷彩まで纏っているまであるぞ、俺は。
俺がそんな他愛もない話をしていると、輝宗公の小姓が現れたので俺はすっと正座に戻した。しばらくすると輝宗公が現れ、俺たちに言う。
「片倉景綱、木村宇右衛門可親、両名を呼んだのは他でもない、正宗の元服に当たり、そなたらを正宗の小姓とする。木村可親!」
「ははっ!」
「そなたを小姓頭とする。景綱はいずれ片倉家を次ぐ身ゆえ、そなたが小姓らをまとめよ」
「これは光栄の至り」
「変わり身はやっ! 家格ではわたし、片倉家のほうが上のはず」
ナイスミドルガイの輝宗公に片倉は言った。
「不服ともうすか? 景綱」
「わたしがおなごだからと侮られているような気がします。不服です」
「可親を小姓頭とするのは他ならぬ正宗の意思であってもか?」
「不服は不服です」
「政宗を呼べ!」
輝宗に言われて小姓が奥の間に下がる。
すると、隻眼の超絶美少女、正しスタイルは胸板がまな板のポニーテイルの麗しの君が現れる。その威光の前には神ですらかすむ。ただし、胸はない。ほぼ確実に景綱よりはない。その上おなごとして残念なのは、その口調である。
「どうした、オヤジ!」
「案の定、景綱がゴネてな」
「またぞろ家柄がなんだのと言いだしたのか? ヨシチカを頭とするのはオレの決定だ! 景綱。不服なら腹を切れ!」
野郎口調のいろいろ残念な美少女はそう言ってのける。
「わたしじゃだめなんですか?」
「だめだ。小姓頭なんて小さいことを言ってるうちはだめだ。オマエは俺の軍師になれ。豊臣の竹中半兵衛のように。身の回りの世話なんぞはヨシチカ一人で事足りる。お前はヨシチカに鉄砲と刀の扱いを学び、オマエはヨシチカに軍学を教える。どっちもウイン、ウインな関係だ。オレが何も考えなしに行動してると思ったか?」
「わ、わかりました……」
結局政宗に押し切られて、景綱は折れた。