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追試を六回やってる見習い魔法使いのぼくが瀕死の竜に無茶ぶりされた  作者: 碧衣 奈美


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銀の魔物

 ティファーナが自慢げに説明する。聞かされたタッドは呆然となった。

「昨日みたいに直接あの魔物に対抗したって、あたし達じゃかなわないでしょ。タッドも防御するのが精一杯だったし。相手は竜の力だもんね。だから、その力に触れずに何とか黒幕の所まで行けないかって考えたの。あっちは空を飛ぶけど、人間は何かに乗らないと追い掛けられない。だけど、ヘリだとかその(たぐい)に乗れば、音に気付かれるだろうしね」

 地上から上を見ながら、車などで追い掛けるのも無理だ。地形によっては限界がある。魔法使いは魔獣の力を借りたりするらしいが、今までタッドからそんな話は出なかった。たぶん、タッドは魔獣に頼れないのだ。

 それなら、どうすればいいか。

 誰かに追い掛けてもらえばいいのだ。魔物に気付かれないように、気付かれてもケガの心配なんかしなくて済む誰かに。

 そうなるともちろん、人間には無理。それなら……。

「黒幕が使ったのと同じ方法を、あたし達も使うことにしたの。それに、ほら、タッドも言ってたでしょ。発信機みたいなものでも付けられたらって。それを思い出したのよ」

 竜を封じる時、相手はメカを使って奇襲をかけた。なら、こちらも機械に頼ればいい。

「今、あの魔物は東へ向かって飛んでる。女の子もまだ一緒よ。魔物が戻る場所と女の子が連れて行かれる場所が別でも、リアンスが両方に発信機を付けてくれたから、別れてもそれぞれの居場所はわかるわ」

 ティファーナの説明に、タッドはただ感心して聞いているしかなかった。自分が眠っている間に、二人はこんな計画をたてていたのだ。

 フェオンが聞いてもわからなかったのは、発信機なる物の言葉や使用目的がわからなかったためだろう。

「女の子がいる場所を調べれば、何かわかるはずよ」

 この際、魔物がどこへ行くのかはおいておくとして、女の子が連れて行かれた場所には黒幕の関係者が必ず姿を現わすはず。魔物は押さえられなくても、人間ならできる。

「わざわざ動かなくたって、行き先はわかるもんねー。人間の技術をなめるんじゃないわよ」

 鼻歌でも出そうな様子で、ティファーナはキーを叩く。地図と重ねているらしい。

「こういう計画を立てたのもすごいけど、簡単に発信機を作る方がもっとすごい……」

「結構簡単なのよ。材料があまりなかったから、ちゃっちいのしかできなかったけど」

 その「ちゃっちい」物だって、普通の人には彼女が言う程「簡単」ではないと思うのだが……。これだと、研究者と言うより、技術者と言う方がしっくりくる。ティファーナならどちらの道へ進んでもいけそうだ。

「ティファーナ、奴はどの辺りへ向かってるんだ?」

「えーとね。このまま行くと、ビィノースの山に当たるわね」

 点滅する点が重なっているところを見ると、魔物はまだ少女と一緒のようだ。

「あれ、ルーチェの山じゃないんだ。占い師はその山の竜がって言って……バカ正直に自分達がいる場所を言ったりはしないか。一番高い山の名前を出せば、それらしく聞こえるからってことだろうね」

「ビィノースの山ねぇ。あそこは金持ちが別荘をよく建てる所だって聞くぞ」

 (ゆる)やかなスロープに適度な雪が積もり、すべりやすいコースだとスキーヤーには好評な山だ。しかし、金に物を言わせてそれらを買い占める(やから)がいたりする。

 エコーバインの法律で、土地を買い占めることが禁止されるようになったが、それでも自前のスキーコースを造る成金のような輩はまだ残っている。法律の施行(せこう)前に買った土地の返還要求はされなかったためだ。

 だから、ビィノースの山の表半分は一般人が楽しむスペースだが、裏半分は私有地として立入禁止になっていたりする。

 さらわれた少女達がその立入禁止区域に連れて行かれていれば、見付かりにくい。通りがかりの人が、何か怪しい、と気付くことがないからだ。

「こうなったら、忍び込むしかないわ」

 そんなことをあっさり言うティファーナ。

「俺達がここにいても、位置がわかるだけだ。何かあっても助けられないぜ」

「竜珠を持った誰かが、そこに現れるかも知れない。なら、行かねば」

 なぜか、みんなの目がタッドの方に注がれる。見られたタッドは小さくため息をついた。

「……それしか方法がないなら、仕方ないよね」

「決まり! リアンス、ビィノースの山まで大至急よ」

 車まで戻るべく、全員が走り出した。

☆☆☆

 ティファーナがコンピュータで出した画面に従い、リアンスは目的地へ向かって車を走らせた。ちゃんと舗装された道が続いている。

 本当なら雪があるはずのここビィノースの山も、竜珠の影響で普通の山と変わらない。もし今回の黒幕がこの山にいて、竜珠を持っているのなら、ここが一番影響を受けているはずだ。

 やはりそのせいだろうか。この星へ来てから、一番気温が高く感じられる。実際、高くなっているはずだ。今までよりずっと暖かいし、町中とは違って雪山なのに雪は日陰にすら残っておらず、土肌がさらされている。ぬかるんですらいない。

 きっと雪崩(なだれ)が起きる以前に、高温で雪は溶かされたに違いない。この周辺の土地は災害などが起きたりしなかったのだろうか。

 ずっと道なりに進んで行くと、白い壁の洋館が現れた。

 玄関への階段や窓枠などが柔らかな茶色でアクセントが付けられ、屋根も同じような明るい茶色。ホテルとまではいかなくても、ちょっと大きなペンションという外観だ。

「ここ、別荘なんだろ。ぼくの家よりもでかいよ。何をやってかせげば、こんなのが建てられるんだろ」

 車を離れた場所に置き、洋館のそばまで来たタッドは、建物を見てそうつぶやいた。

「タッド、所帯じみたことを言うなよ。結婚してるならともかく」

 タッドのつぶやきを聞いたリアンスが、横であきれている。

「え、所帯じみてた? そうかな。素直に感想を述べただけだよ」

「もう、そんなことはいいから。魔物も女の子も、ここへ来てるわ。あれ? ……魔物の方は消えてる」

 発信機の光は、二つに分かれることなくここへ着いた。つまり、女の子をさらった魔物は、この館の敷地内へ来たのだ。消えている、ということは、役目が終わって存在を消されたのだろう。どう消えたのかはわからないが、電波の届かない場所へ消えた、もしくは戻されたのだ。単に遠くなのか、異空間かまではわからない。

 でも、女の子の方は光がまだ点滅している。となれば、魔物を操っている人物、女の子を必要とする人物もここにいる。もしくは、現れるということになる。

「竜珠の気配が今までになく、濃い。この近くにあるはずだ」

 フェオンがそう言うのなら、竜珠に関しては確実だ。

「まさに敵のアジト発見ってところかしら。さてと。ここからどうする?」

「竜珠があるなら、無関係とは言わせない。一気に乗り込む……といきたいところだが、例の魔物がいるだろ。消えたと言ってもどこから出て来るか、わからないからな。へたすりゃ、こっちが自滅だ。それに、黒幕が誰かってのを先に確かめないとな」

「うん、正面突破は危ないよ」

 魔物もいる敵のテリトリー内だ。慎重になるに超したことはない。

「ティファーナ、この別荘が誰のものかっていうのはわからない?」

「待って。地図を拡大すれば、映るかも。個人のものだと表示拒否されることもあるけど、やってみる」

 ティファーナが急いでコンピュータのキーを叩く。

「あ、出たわ。えーとね。アイズって出てるわ。アイズ家の別荘ってことね」

 この辺り一帯はアイズ家の敷地、ということだろう。

「アイズ? どこかで聞いた気がするな。アイズってのは、確かエコーバインの有名な貴族で……あ、そうだ。クオーリアのファミリーネームが確かアイズだったはずだぜ」

「クオーリアって……誰だっけ?」

 何となく聞いた覚えがあるような。どこでそんな名前が出ただろう、とタッドが首をひねる。

「ほら、エコーバインへ来る途中、宇宙(てい)の中で話してたろ。ミスコンの賞をさらえてった美人だよ」

 ティファーナの機嫌が悪くなった、あの話題の主だ。

「ああ、そんな話、してたわね。それじゃ、ここはその人の別荘なの?」

「彼女の物かまでは知らないが……アイズ家のものってことなら、そうなるか」

 さすがにティファーナのコンピュータでは、館の名義までは検索できない。

「名義はいいとして……彼女、もしくは彼女の関係者が絡んでるってことよね」

「他にもアイズって名の貴族や、別荘を持てるだけの金がある同姓の奴かも知れないぜ。ここで断定はできない」

 リアンスはそう言うものの、ほぼ確定だろうな、と考えていた。有名な貴族と同姓なら、記憶に残っているはずだ。

「あ、見回りかしら。人がこっちへ来るわ。隠れないとまずいわよ」

 ティファーナが近付いて来る人影に気付いた。

 一応、ここは私有地。勝手に入れば、放り出される。放り出されるだけならいいが、何をしに来たのかを突っ込んで問われれば答えに困る。

 タッド達は、急いで近くにあった大きな倉庫へと逃げ込んだ。倉庫と言っても、一般的な二階建ての家と同じようなサイズである。金持ちは倉庫まで大きい。

「うわああっ」

 倉庫に入った途端、フェオンが叫んだ。

 いつもは大人より冷静な顔をしているフェオンがこんな声を上げるなんて、余程のことだ。

 しがみつくフェオンをタッドが抱きしめてやるが、小さな身体がひどく震えている。

「落ち着いて、フェオン。大丈夫だよ。何か感じるの?」

「魔物が……竜を封じた魔物が……」

 かすれる声で、フェオンが言った。

 こんな所に魔物が? と思いながら見回す。タッド達が逃げ込んだ倉庫には、除雪用のロボットが置かれていた。どうやらここはロボットの保管庫らしい。傷だらけのボディは、銀色の鈍い光を放っている。

 その姿を見て、タッドはふと思い当たった。

「これが……銀の魔物か」

 フェオンがこれだけ怖がっているのだ。間違いないだろう。

 腕の部分には、雪や氷の壁を壊すためのドリルが付けられているはず。今はカバーで隠されているが、あの中に竜を封じた剣が設置されていたのだろう。

 深い雪で立ち往生しないよう、背中部分には飛行用の装置が取り付けられている。これがあれば、ドリープ火山の竜の元へ行くのも去るのも簡単だ。

 頭にあたる部分には、雪を溶かしやすくするための薬を吹き付ける口がある。あそこから、竜の動きを麻痺させる薬を噴射した可能性は大きい。

 このタイプはリモコン操作ができるはず。安全な場所にいて、首辺りについたモニターで周囲を見ながら動かすことができるのだ。

 竜が封じられたあの日。フェオン達の前に現れたのは、やはり人間の作った機械だったのだ。

 大金を持つのであれば、自家用の宇宙船なりを持っているかも知れない。エコーバインからレクシーまで、この機体を運ぶのも訳ないだろう。

「フェオン、怖いだろうけど、教えてくれるかい。火の竜を封じたのは本当にあいつ?」

 このメカを証拠にしたくても、本来雪深いエコーバインなら他の屋敷にも似たようなものはあるはず。「同じタイプ」という証言だけでは、決定的な証拠にはならない。

「……あいつだ。腕に青い紋様があった」

 言われてよく見れば、確かにそのロボットの腕の部分にマークがある。円の中に竜らしき動物の横顔の文様。アイズ家の紋章をかたどったものなのだろう。この家のロボットだ、という名札みたいなものだ。

「最初見た時は、狼の顔かと思った。はっきり覚えている」

 きっとフェオンの脳裏には、その形が焼き付いているのだ。

「わかった。大丈夫だよ、フェオン。怖がらなくてもいいんだ。あいつは動かない。俺達を襲って来たりはしないから。あれは人間が作った機械なんだ。ほら、ティファーナが持ってるコンピュータと同じで、生きてはいないんだよ。感情がないってわかるだろ?」

 タッドがそう説明してなだめる。だが、目の前で竜が封じられたのを見ているフェオンは、わかってはいてもすぐには落ち着かない。涙こそ見えないが、今にも泣きそうな表情。

 こんなに怖がってるフェオンを見るの、初めてだ。かわいそうに。それだけ怖かったんだ。そうだよな。竜がなす術もなく封じられたんだから。

 タッドは図書館でかけたものと同じ魔法を、そっとフェオンにかけた。タッドにしがみつく力は抜けたものの、フェオンは絶対にロボットの方を見ようとはしなかった。

「これで火の竜を封じたのは、アイズ家の誰かっていうことは間違いないわね。さらわれた女の子はこの別荘へ連れて来られたし、その理由はともかく、犯人がいるって断定できるわ」

「人間の仕業なら、警察だって動けるぜ。あの魔物も厄介だし、俺達が無理に動くよりは魔法使いの援軍を要請した方が事件解決も早いだろ」

 ここは素人(しろうと)が動くより、エキスパートにまかせた方がいい。

「おやおや。そういうことをされては、困りますねぇ」

 いきなり聞き覚えのない声がして、全員が倉庫の入口へ目を向けた。近付いて来た人影が、フェオンの悲鳴でこちらへ来てしまったようだ。

 長身を包む黒のスリーピースに、黒いネクタイ。黒髪はオールバック。細い黒縁(くろぶち)の眼鏡をかけているが、ダテではないだろうか。その眼鏡の奥に光る目がひどく冷たい。アイスブルーの瞳のせいか。

 そこには三十代半ばのビジネスマン風、いや、色だけを見ていると犯罪組織の一員にも見える格好をした男が立っていた。一見すると、抜け目のないエリートという感じがする。その口元には、人を見下すような笑みを浮かべて。

「あの人間……竜珠の気配が濃い……」

 フェオンの言葉に、タッドは改めて相手を見た。こんな格好でも魔法使いなのだろうか。

「こちらから何だか妙な気配がしたので来てみれば……。尾けられるようなヘマはしなかったつもりですが。どういう経路でおいでになったのか、実に興味がありますね。ぜひとも聞かせていただきたいものです。いやとはおっしゃいませんね?」

 タッドはすぐに、倉庫の周辺に結界が張られたと知った。

 力が強い。きっと竜珠の力を応用してるんだ。ぼくの力じゃ……簡単には破れない。

「そろそろ誰かが動き出すだろうとは思っていましたが、案外早かったですねぇ」

 竜珠の気配なら、フェオンがすぐに気付くはず。だが、あのロボットに(おび)えたフェオンは、そしてそれをなだめていたタッドも、その気配に構っていられなかった。

「おかしな動きをしない方が、自分のためですよ。もちろん、ご承知でしょうが」

 相手が魔法使いだと知らないリアンスが動こうとするのを、言葉で止めてしまう。

「リアンス、ダメだよ。この人……魔法使いだ」

 タッドがリアンスに危険を知らせた。リアンスは小さく舌打ちする。

「こんな所では何ですから、館の方へおいでください。ゆっくりお話をうかがいたいですからね。さぁ、どうぞ、こちらへ。そちらのお嬢さんが来てくだされば、(あるじ)も非常に喜びます。今日はここに来ておりますので」

「ふぅん。ロリコンなのかしら、あなたの主って」

 黙ったままなのもシャクなので、言い返してみる。

「まさか。こんなかわいらしいお嬢さんなら、大歓迎ということですよ」

 ティファーナのいやみも、あっさりした笑顔で跳ね返されてしまう。

「さぁ、おいでください」

 タッド達にいやと言う権利はなかった。

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