交差する運命
「あーあ、せっかくのティータイムが台無しだ。」
声の主は椅子から立ち上がり、その鋭い目つきを少女へ向けた。
黒い外套を纏い、手に握られた角ばった回転拳銃も漆黒。髪も同様に黒ではあるが、左目から上はまるで染めたように髪も肌も白い。異様な雰囲気を漂わせていることはこの一等車両に入った時点で既に気づいてはいたが、それがまさかディーサイドに匹敵するほどの戦闘力を有しているとは予想もしていなかった。
ディーサイドとはかつてこの世界の人類文明を崩壊させた天使、そのコアを用いて制作された武器を持つ者たちの総称である。ディーサイドはその身に宿す権能によって異形たる怪物『レムナント』を排除することを目的としている。
そして少女が持つ日本刀こそが天使のコアを用いて作られた武器、通称『セラフ』と呼ばれるものである。セラフはその使用者に人類を超えた力を授ける。
通常レムナントを破壊し得るのはセラフか、もしくは大口径の銃火器や爆弾などの高威力の破壊兵器である。決して回転拳銃で倒せるような生半可な相手ではない。
にも関わらず目の前の男をそれを成して見せた。
現在少女にとって最も警戒すべき相手は、レムナントではなく銀髪混じりの男となっていた。
「貴様、何者だ・・・?」
少女は腰に提げられた刀に手を添える。
男が何か不審な動きをしようものなら抜刀する構えである。
しかし、少女のその問いに男が答えることはなかった。
代わりに少女へ黒い回転拳銃を向けた。
「・・・!?」
一瞬の後、少女が男の背後へ移動すると、銃声と耳を劈く金切り声のようなものが聞こえた。
一つは男の持つ銃から。
一つは少女の持つ刀の斬撃から。
しかし、両者は共に破壊しあったのではない。
割れた窓から新たに侵入したレムナントをそれぞれが破壊していた。
「助けてやったなどとは言うまいな?」
それに対し男が返答する。
「当然だ。」
男が銃を仕舞うと、少女もまた刀を鞘へ収める。
「私は挽歌。貴様の名を聞こう。」
わずかに男が躊躇いを見せ、しかしすぐに口を開いた。
「・・・零式だ。」
未だ走行する列車の中、それこそが最初に二人の運命が交わったときであった。