硝煙の主
混沌とした列車内に耳をつんざく金属音が響く。
異形の人型の怪物たるレムナントは、その空洞の瞳を揺らしながら、少女の放った一筋の斬撃によって両断された。
二つになったそれらはゴトリと地面へ落ちると次の瞬間、まるで存在しなかったかのように消失してしまった。
しかし少女にとってその現象はごく当たり前であり、気に留めることなくその双眸を他の異形へ向けた。
自身が携える剣のごとき鋭い眼光がレムナントを捉えた瞬間、再び金属音が鳴り、スーツ姿の乗客に向かって振り下ろされた異形な腕とその胴体が同時に切断された。
その時、車内から女性らしき悲鳴が聞こえ、少女の目には今にも心臓を貫かれそうな女性が見えた。
目算にして十メートル。天使の権能をその身に宿す少女にとって、その距離は地面を蹴るだけで達することができるほど短い。しかし少女とレムナントの間には混乱した乗客が数人いた。直進は不可能、三角飛びの要領で避けることは可能だが、そのタイムロスが与える影響は小さくない。天井が高ければ乗客たちを飛び越えることもできただろうが、ここは一等車両。天井にぶら下がっているシャンデリアらしき照明装置がこれほど忌々しいと思ったことは後にも先にもなかった。
コンマ数秒の時間で張り巡らせたどり着いた結論は、しかし実行されることはなかった。
撃鉄が響き、レムナントは粉々にになりながら列車内の壁に叩きつけられた。
その事象を引き起こした者は、先ほど少女が一瞥した黒と銀の髪の男だった。