鑑定の儀
これ以前の話の登場人物の年齢を調整しました。
年齢調整により、一部表現を加筆・修正しています。
すでに既読済みの方で、余裕がある方はどこが変わったかを
確認するのも面白いかもしれませんね。
未読でここまで、辿り着いた方は問題なく、先を読めると思います。
お騒がせしました。
あの後、なんとか正気を取り戻した二人が母さんを説得してくれたよ。
はあ。やれやれ…
その日の復習はさすがに一発合格。
もう少し量を減らした方がよかったねと言うと、
二人がそうしてくれと疲れた顔で懇願してきた。
翌日から二段ずつの復習になった。
だけど、空き時間に突発的に問題を出してやることにする。
答えられなかったら、腕立て伏せを二十回させた。
ポリルが私にも問題を出してきたが、その手は効かないとばかりに、
私にスラっと答えられて不服そうだった。
逆に、問題を急に出されて、答えられなかったポリル。
「ちくしょおおおお!」
腕立て伏せをするポリルだった。
これを見て、フェリルはさらに暗唱を真剣に続けるのだった。
それからは、木剣での打ち合いの最中も暗唱するようになった二人。
集中力は切れていないようだ。大声で問題を出してみる。
二人がこちらをぐりんと向き、二人の答えが一致した。
私はにっこりと合格!と言ってあげた。
これで九九もクリアっと。
今後は計算と文字も見ていかないとなーと呟いたら、
まだあるの?と二人が愕然としていた。
計算のための九九だからね。
ちゃんと計算に使わないと意味がない。
文字もそうだ。
基本文字は全部教えたんだから、これから単語を覚えて、
ちょっとした文章は書けるようになってもらわねば困る。
二人は無念と表現するように、肩を落としていた。
それから、一年が過ぎ、二年と時は経った。
私たちは七歳になった。ついに鑑定の儀を受ける年齢になったのだ。
私はこの年齢にしては、それなりの体力がついた。
幼馴染の二人の計算力はたまに怪しいところもあるが、
この年齢なら十分なレベルだろう。
文字の読み書きもある程度は出来るようになった。
これなら、今のところはどこに出しても教育面では優秀だろう。
これからは文字の綺麗さにも、こだわっていこうかなって段階だ。
そして、今日は待ちに待った鑑定の儀を受けに、街に出かける。
創造神である神様と会う日だ。
兄であるジンの話も神様から聞けるはずなのだ。
鑑定の儀はどうやら最寄りの街で受けるようだ。
その街には、この地方を治める領主がいるという話。
異世界だからそういう可能性も考えていたが…
やはり階級社会で、お貴族様がいるんだな。
まあ、関わることはないだろう。
儀式は街の教会で行うようだ。
結構綺麗なところだな。地球でも海外にありそうな雰囲気。
小説の定番だと、一般市民は高額なお布施を払うと思うんだけど、
そんなことはないみたいだな。一般市民が払えるお布施のようだ。
周辺の村とこの街からも同じ七歳の子供が集められているようだ。
いくつもの小部屋に一人一人呼んで、対応しているようだな。
大々的に職業が発表されることはない、と。
だけど、裏ではたぶん報告はされているのだろうな。
まあ、その辺は実際に職業を授かってからしかわからないか。
さすがに街からの子が率先して儀式を受けに行ってるな。
村からの子も譲っている感じだ。
私は焦らずに最後くらいの気持ちで待っているのだが…
「なあ、俺たちの番はまだなのかよ?」
「早く自分がどんな職業か知りたいなー」
と幼馴染の二人はソワソワとして落ち着きがない。
私は別に最後でもいいんだけどなあ?
開拓村からは、私たち三人しか来ていないが、保護者がいる。
保護者は三人の監督役だ。
我が家からは父が、ポリルは母が、フェリルは父だ。
三人とも冒険者時代の仲間らしい。
この人数のため、荷馬車で来たのだ。
だから、少しくらいなら帰るのが遅れたっていいのだ。
ちなみに、夕飯はポリルの父が三家分取ってくると豪語していた。
そうして、待っていると左の方が空いてくる。
フェリルがそちらに流れていく。
「じゃあ、お先ー」
「あ、フェリル!?ずりいぞ!」
「待ちなよ、ポリル。次は右が空くよ」
「なんだって?!どうしてわかるんだ?」
「まあ、見てなさいって」
空いていたはずの左に人が流れていき、右が空き始める。
そして、フェリルは街の子に順番を譲るハメになっている。
可哀そうに。俺たちより終わるのが遅いかもな。
「ホントだ。右が空いた。じゃあ、先に行ってくるな!」
「あっ…」
はあ。本当に堪え性のない。今度は中央が空くと言うのに。
さて、それじゃあ一番少ない中央に行きますかね。
私は中央の列の群れに並ぶ。
街の子を優先しても、これなら二人よりは早いな。
五分くらい経ったかな?
という体感時間で、目の前の神官に順番を呼ばれる。
「次の子、来なさい」
「はい」
「では、こちらへ」
そのまま神官と共に扉の中へ入る。
扉の先の部屋の内部には特に目立ったものは何もなく、
部屋の中央にポツンと台座があり、寂しさを感じる。
その台座の上には、丸く中心が光っている水晶が置かれている。
神官が説明をしてくれる。
「儀式に期待していたかもしれないが、中央の水晶に触れるだけだ。
特に難しいこともなかろう?毎年ガッカリされるのだ。
この水晶がどんなに素晴らしいものなのかを子供たちは、
まったくと言っていいほど理解してくれないのだ。
最近の子供も今の大人の影響を受けているのかもしれないが、
これは我々の始祖たる創造神様が作ったシステムなのだ。
神はいつでも我々を見守っていらっしゃる。
その恩恵を授かる我々は常に感謝の気持ちを抱かねばならぬ
というのに本当に嘆かわしい」
「あ、あの、神様への感謝の気持ちは持っているつもりです。
この神々しい水晶に触れてもよろしいでしょうか?」
「おお、君はわかってくれるか!
感謝の気持ちも持っているとは素晴らしい!
どうだ?この後、私と一緒に神への感謝を祈らぬか?」
「も、もしも!じ、時間があったときにでもいいですか?
今は鑑定の儀の最中なので…」
「そうであったな!では、水晶に早速触れるがいい」
ふう。ため息をつきたくもなる。
敬虔なる信徒も、ここまで極まるとちょっと鬱陶しいな。
さて、それでは水晶に触れますか。
私は水晶を恐る恐ると、ゆっくりと触れる。
私が水晶に触れた瞬間、水晶に吸われる感覚を感じた。
目を瞬いた時には、周囲は白い空間だった。
そこには、あの日見た神様がいた。
『ようこそ、神界の領域へ』
「こんにちは、創造神様。
えっと、たしか、フェリオス様でしたっけね
兄がその節はお世話になりました。その兄の話を聞きに来ました」
『ふむ。随分と礼儀正しいな。さすがは老衰で亡くなっただけはある』
「そこまでご存じなのですね。私をこちらに呼んだのはあなたですか?」
『そうとも言えるな。子供の面倒を見れる魂はいないか、
と地球の神に相談したのだ。
そこで、ちょうど死んだのが君だったのだ』
「なんていうタイミングで死んだんだ、私は…」
『まあ、そのおかげで君の望みは叶うのだ。
ここは喜んでくれてもいい場面だと私は思うのだよ。
それで、兄の話だったな?』
「はい。今は私の望みなど、どうでもいいのです。
兄の話を聞かせてください」
『そうだな、君の兄に活舌スキルと大人の思考力を与えたのは私だ』
「それはなんとなく、わかっていました」
『そうか。では、そうだな?君の兄からの伝言では…
その身体は彼からの贈り物だそうだ。
君に渡すために、あの魔力の熱を耐えたのだぞ。
大事にしてあげなさい』
「兄さん。俺は…」
『そんなものいらなかったなどと言うなよ?
彼がどれだけ耐え忍んだか、君にはわかるまい。
君はただ贈られたものを喜び、感謝すればいいのだ。
それがいずれ、彼の生きた証になるのだから』
「兄さんの生きた証…
そうですね。私が間違っていました。
今は兄に感謝すべきですね。この身体をありがとう、と」
『それでいい。
あとは幼馴染の二人を見守ってほしいと言っていたぞ。
あの二人はあの二人で、これから過酷な運命が待っている。
君はなるべく早めに、手助けに行けるようにするのだな』
「そんなに過酷なのですか?」
『ああ、彼らから聞くことにはなるだろうが…
まずは、ポリルだ。
彼は【上級士官】という職業を授かるだろう。
上を目指せば、軍の将軍職にも就けるという職業だ。
そのため、王城に行けば、やっかみがひどいだろう』
「ポリルが、将軍…」
『問題なのがフェリルだ。彼女は【剣聖】という職業を授かる。
彼女をすぐに守れるのはポリルだ。だが、立場がそれを邪魔する。
比較的自由に動ける君が、一刻も早く彼女の下に辿り着くべきだ』
「……」
『彼らはつらい思いをする。君が助けるべきじゃないか?』
「いえ、彼らは強いです。
その程度で音を上げるような、柔な精神はしていませんよ」
『……』
「神様?私たちを試していますね?」
『ふっ、よかろう。君たちならば、素晴らしい未来を掴み取るだろう』
「ぶべっ」
「おっとっと」
「ポリル?フェリル?」
『君たちの絆の強さを試してすまなかった。許してくれ』
「へっ、あれくらいどうってことねえぜ」
「私は少し怒っているけどね」
「二人は何を言われたの?」
「私は二人が同時に苦境に陥っているときに、
任された持ち場を離れるかの判断を聞かれたわ」
「俺は、いや、言いたくねえ…」
「ええ?私は言ったのに、言いなさいよ!」
「言いたくねえったら、言いたくねえの!」
「こらこら、二人とも。神様の前だよ?喧嘩しないの」
「…すまん」
「私も無理に聞こうとして、ごめん…」
『ふふっ、君たちは本当に面白いな。
…今一度問う、君たちはその道を進むのだな?』
「おう!」
「はい」
『ならば、もう何も言わぬ。進むがいい。己が信じた未来へ』
「先に待ってるわね、コースケ」
「なるべく早く来いよ、コースケ」
二人が光の先に消えていく。私の職業も告げられるのだろう。
だが、私はなんとなくではあるが、すでにわかっている。
『では、君には【音楽家】の職業に就いてもらおうか』




