冒険者ギルド
街の外壁についた。たくさんの人が並んでいる。
父に聞いたところ、怪しい物や人が入らぬように、
門で検査しているらしい。
まれに商人が怪しい物を持ち込んで引っかかるらしい。
あれ?私たちも怪しい量の宝石や水晶持ってきているけど、
大丈夫なのかな?父に聞いたところ大丈夫だと言っていた。
不安だけど、今は父の言葉を信じるしかないな。
私たちの順番が回ってきた。
門番数人で、結構サクサクと人を回しているようだ。
私たちを担当する門番をチラッと見る。
真面目だけど、優しそうな門番だな。
「父子か?通行証はあるか?荷物の中身はなんだ?」
「父子です、妻は娘がいるので村に置いてきてます。
通行証はこちらです。息子は仮通行証を発行してください。
荷物の中身は昔から集めていた宝石や水晶です」
「ふむ。先に荷物を改めるぞ。…すごいな。
よくこの量の宝石を集めたものだ。あとは仮通行証だったな。
父親と共にこちらに来てくれるか?」
「はい、わかりました」
「受け答えも言葉遣いもしっかりしている、いい子だな」
私たちは門番の待機所のような場所に連れてこられて、
外に並ぶ人を連れてくる部屋に入る。
中に入ると、透明な水晶が置かれている。
私が水晶を見ていたら、門番が話しかける。
「これは罪業判定の魔道具の水晶だ。
そこまで高い物でもないが、壊さないでくれよ?
それでは、この水晶に手を乗せてくれ」
「はい」
「ふむ。青い反応だな。まあ、村暮らしなら当たり前か。
仮通行証を発行する、君の名前は?」
「コースケです」
「コースケっと。これを持って街に入ってくれ。
三日で効力を失うからな。
効力を失ってから悪さをすれば、ほぼ鉱山行きだ。
その点は注意してくれ。
街への用件はさっきの宝石を売るためか?」
「はい、そうです。それと冒険者へギルドで登録に」
「君は何歳だ?冒険者ギルドは最低十歳からだったはずだぞ?」
「うっ、そんなに下に見えますか?十歳なんですけど…」
「すまない、少し幼く見えたものでな。
では、もう行ってよろしい。ようこそ、ディールの街へ」
「…はい、ありがとうございます」
くそぅ、幼く見えるだって?身長か?身長なのか?
私も少し気にしていることなのに、抉ってきやがって…
どうせ、私は童顔で背も低いですよーだ!
私は少し不機嫌になりながら部屋を出た。
それを見ていた父と門番は顔を見合わせ、苦笑している。
ディールの街に入る。さすがに街だけあって、人通りが多い。
ここに来るのは鑑定の儀以来か。
とは言っても、あの時のことはよく覚えていない。
荷馬車に乗っていただけだし、検問も別口だったはずだ。
それに神様との邂逅が、どうにも印象強すぎてなあ…
あの頃は、街の名前も知らなかったしな。
父についていきながら、冒険者ギルドへ向かう。
一年ぶりだな。あの時のお姉さん、まだいるのかな?
冒険者ギルド前に到着する。
やはりパッと見は西部劇の酒場だよなあ。
スイングドアというところが特に。
ギルドにお金を預けるのに、防犯は大丈夫なのだろうか?
あの時のお金は持ち帰ったからな。大した額じゃなかったし。
父について行き、中へと入る。
身長がやっぱり気になるな。
スイングドアの下部にしか頭が届かないよ…
中へ入ると、正面に受付カウンター。
横に軽食を扱う酒場がある。
この時間だとさすがに人はいないが。
父は換金の職員に話があるらしいので、私は受付に行く。
いよいよ冒険者登録だ!
「すいません、新規の冒険者登録をお願いしたいのですが」
「君、何歳?登録は最低十歳からだよ?」
「十歳ですよ、こう見えても…」
「あら!ごめんね~、どう頑張って見ても、
七歳か八歳くらいにしか見えなくてね。
いやー、お姉さんも年齢を見る力には自信があったのになあ」
「言い訳はいいから、登録をお願いします」
「はい、ごめんなさい。登録の紙はっと、あったあった。
では、こちらに必要事項を書いてください。
文字は読める?書ける?お姉さんが代筆しようか?」
「読めますし、書けますよ。安心してくださいね?」
「あ、はい」
いちいち腹が立つな、このお姉さん。
だけど、どこか憎めない雰囲気を持っている。
少し苦手だな、なんて思ってしまう。
書類が書きあがり、提出する。
「はい、確認しますね。コースケくん、十歳。
職業は魔法楽師?聞いたことないわね。まあ、いいか。
じゃあ、ちょっと待ってね」
受付のお姉さんは手に持った羊皮紙を何かの機械に入れる。
すると、先ほどの羊皮紙が真っ新な羊皮紙になって出てくる。
そして、小さな鉄板に先ほど書いたことが打ち込まれている。
「じゃあ、これに魔力を流してね。
それで本人登録されるから。それがギルドカード。
紛失したら、あ、失くすことね?
失くしたら、再発行に銀貨五枚もかかるから注意してね」
「はい、『紛失』したら銀貨五枚ですね?」
「わざわざ難しい言葉で言い直すところが可愛いなあ。
じゃあ、新規冒険者にする説明もするわね?
まあ、簡単なことばかりだけどね?
新たに必要なことは、冒険者の階級が上がってから、
説明することになってるの。だから、最初は必要最低限。
わかったかなあ?」
「はい、必要なことは階級が上がってから。
最初は必要最低限の説明なんですね?」
「うん、合格!じゃあ、説明するわね…」
お姉さんが語るには、依頼は依頼版に張り付けられていて、
各自、階級にあったものを選んで、受付で受諾すること。
選べる依頼の階級は、自身の階級の一つ上まで。
基本的に受付で無理と判断されたら、依頼の受諾は出来ない。
冒険者の安全をキッチリ確保するためだそうだ。
依頼に成功したら、依頼者から署名をもらうこと。
依頼失敗と判断された場合も署名が必要になる。
その場合、職員が依頼者に確認しに行くことになる。
冒険者にも話を聞き、失敗かどうかの判断をするようだ。
もちろん、討伐依頼には署名は必要ない。
必要なのは討伐証明の魔石や部位を持ち帰ること。
ギルドで鑑定することが出来るようだ。
それから…
冒険者同士の諍いは話は聞くが、基本的には喧嘩両成敗。
けど、一方的な場合は、さすがに相手だけを処分するらしい。
最後に…
殺人などの犯罪を行った場合には、冒険者資格をはく奪。
まあ、そんな人は滅多にいないらしいが。
「以上で説明を終わります。あー、喉乾いた。
あと、鉄級の間は最低階級の依頼しか受けられないからね?
これも安全処置のためよ。仕方ないことだと思ってね?
それと依頼をひと月以上受けなかったら、資格はく奪。
これも真面目な冒険者だけを残すためなの。
再発行になるから、これも銀貨五枚よ。
続きは銅級になってからね。わかったかな~?」
「はい、理解しました」
「登録は終わったか?ギルドマスターに呼ばれている。
ついてきてくれ」
「あれ?双剣のアルフレッド様?なんでこの子を?」
「俺の息子だからに決まっているだろうが」
「え?息子さんなんですか?!ツバつけておこうかしら?」
「減給されたいのかしら?カティ?」
「え、エレンさん!?これ以上の減給は勘弁してください!!」
「まったく。コースケ様、アルフレッド様。
ギルドマスターがお呼びです。奥へどうぞ。こちらです」
さっきまでのお姉さんがカティさんで、
このいかにも出来る感じのお姉さんがエレンさんっと。
名前、ちゃんと覚えておこう。
私たちは階段をのぼり、二階の一番奥の部屋へと連れられる。
エレンさんがノックをして、入室許可をとる。
中から「来たか、入れ」と低い声がした。
私たちは室内に通される。ここがギルドマスターの部屋か。
あちこち見ては失礼だと思って、ギルドマスターを見る。
年齢はだいぶ上に見えるが、まだ若々しい。
四十代くらいだろうか?筋肉で、年齢がわかりづらい。
その青い眼光は鋭く、なんでも見通しそうだ。
ギルドマスターが私に視線を向けて、その後に父を見る。
「お前の子とは思えんほど、利発そうだな?アルフよ」
「うるせえ。いいから換金してくれ。
この子が集めたものだ、すべてな。金もこの子のものだ」
「ほお?その子がか。で、どれだけ持ってきたんだ?」
「箱二つ分だ」
「箱二つ分ね。その背負ってる箱の中身が全部そうだとか、
言わんだろうな?さすがに窃盗を疑うレベルだぞ?」
「この箱二つの中身がそうだ。確認するか?」
「…ああ。念のため、俺自身の目でしっかりと確認しよう。
まあ、窃盗の事件など聞いてないから、大丈夫だろうがな」
「そりゃそうだ、全部村の近くの森で取れたものだからな」
「あの森にこんなに宝石があるのか?
まさか、カーバンクルでも飼ってるんじゃないだろうな?
あれは妖精だぞ?純粋な者にしか懐かないと言われるほど…」
「そんなもの飼ってるわけないだろ?
ウチでそんな飼育は無理に決まっている。
宝石農家なんて、夢物語だ」
「カーバンクル?」
「坊主は知らんか?
妖精の一種で、額に宝石を生み出す存在だ。
妖精は純粋な者にしか懐かないと言われている。
そのため、基本的には国では保護指定とされている。
妖精側から飼われることを望めば、話は別だがな」
「そんな存在がいるんですね?初めて知りました」
「普通は出会うこともなく、一生を終えるものなんだぞ?」
「しゃべると本当にお前の子なのか、疑いたくなるな?」
「いいから、換金を早く終わらせろ。ゲルク」
「今見終わったところだ。あとは鑑定に任せる。エレン」
「はい。鑑定のリードを連れてきますね」
「それで?その坊主を新規登録か?大丈夫なのか?」
「魔法の腕はあのテディが認めるほどだから、大丈夫だ。
世間知らずなところはまだ心配だがな…」
「そうか。じゃあ、ギルド内にある簡易宿舎にでも泊るか?」
「いいのか?そこまでしてもらって?」
「別に構わん。さすがにここまで小さい子は心配だからな」
そう言って、目元を柔らかく細めるギルドマスターのゲルク。
ゲルクさんには、今後もお世話になりそうだな。
ちゃんと挨拶しておこう。
「コースケです、よろしくお願いします」
「ハハッ、俺に気を遣って挨拶してきたぞ!
本当に拾ってきた子じゃないだろうな?」
「俺の子だって言ってるだろ!?」
そんなに私は父に似ていないのだろうか?
まあ、遺伝子はそうでも、中身は私だからなあ。
こればかりは仕方のないことか。
話していると、部屋がノックされる。
「リードです、鑑定に来ました」
「ああ、入ってこい」
「失礼します」
「じゃあ、しばらくはこいつが宝石を盗もうとしないか、
見張っているんだな。俺は俺で書類仕事をする」
「そんなことしませんってば。
欲しいとは言うかもしれませんが、俺も結婚適齢期なんで…」
「『も』ってどういうことかしら、リード?」
「なんでもありませんよ、エレンさん」
「そうかしら?意味深に聞こえたのだけど…」
「…じゃあ、ちゃっちゃと鑑定しますね」
「はい、お願いします」
鑑定のリードさんか。この人にもお世話になるかもなあ。
チラッとこちらを見ただけで、作業に没頭し始めたけど。
しばらくして、鑑定が終わったようだ。
査定額を提示される。
「ええっと、ウチで引き取る場合ですけど、
だいたいですが、金貨三十五枚くらいですね。詳細はこちらに」
「どうする、コースケ?お前が決めろ。
商業ギルドなら、交渉次第でもっと高値になるかもしれんぞ?」
「交渉は面倒なので、ギルドで買取で。
金貨二十四枚はギルドに預けます。十枚は父が持ち帰ります。
残りの金貨一枚は細かく崩してほしいです、生活費にします」
「では、ギルドで金貨二十四枚預かります。
アルフレッド様に金貨十枚をお渡しします。
残りの金貨一枚を小金貨九枚、銀貨を銀貨八枚、
銅貨を二十枚と分けますね。
…子供が持つには少々大金だと思うのですが、どうしますか?」
「すいません、たしかにそうですね。
…うーんと、銀貨三枚と銅貨十枚だけ受け取ります。
残りはギルドに預けます」
「わかりました、小金貨九枚と銀貨六枚をお預かりします。
少々お待ちください。
まずは、金貨三十五枚を持ってきて、確認してもらいます」
「はい、お願いします」
しばらく、お金のやり取りをして、一旦落ち着く。
父はそろそろ帰らないと日が落ちるので、私たちは退室した。
次に私に会いに来た時に、残りの金貨十枚を父に渡す予定だ。
残りの金貨十五枚がしばらくの私の生活資金になる。
預けたお金の管理は、ギルドカードでするようだ。
そして、金庫は魔道具らしく、中は異空間で繋がっており、
どのギルドでもお金を下ろせるそうだ。
この魔道具は、大昔の職人の大作らしく、復元不可らしい。
そのため、警備はとても厳重になっているとのこと。
私はエレンさんにギルド内の簡易宿舎を案内してもらう。
案内してもらった部屋は、狭いけど落ちつく部屋だった。
最低限の荷物を置いて、あとはベッドだけだ。
ベッドのシーツなどは、一週間に一度回収して洗濯するので、
あとで交換用の籠を渡すとのこと。
とりあえず、することもないので依頼を確認しに行く。
鉄級なので、最低階級の依頼しか受けられない。
掃除や力仕事、店番にペット探しってところか。
さすがに最低階級は何でも屋って感じの依頼しかないな。
力仕事は、物によっては厳しいかもしれないな。
大きなものは、身体的に持てないからだ。
重い物は問題なく持てるんだけどね。
これは依頼内容を確認しないとだな。
掃除はほぼ常駐依頼のようだ。
しばらくは、これを中心に動くかな。
店番は一定の期間と定められてるし、
ペット探しは、魔法があるから、すぐに終わると思う。
明日は力仕事の依頼内容の詳細を聞いて、
受付で無理と判断されたら、素直に諦めよう。
もし力仕事を受けた場合は…
その依頼が早く終われば、掃除に手を出せばいいだろう。
今日はまだお昼時だ。
昼食を食べたら、ペット探しをして時間を潰そうかな。
捕まえるのに苦労しそうだけど、魔法でなんとかなるでしょ。
私は明日の予定を考えつつ、昼食を買いに行った。
ここから私の冒険者稼業が始まるのか。ワクワクするなあ。
魔法もどんどん便利に使っていこう。
サクサクと階級を上げて、立派になって二人に会いに行こう。
このときはまだ、二人に会いに行くために、
あんなにも回り道をするとは思わなかったのだ。




