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【更新停止】異世界音楽家  作者: 物部
勇気と誓いと旅立ちの三重奏
23/29

誓い、旅立ち

私は二人から話を聞いて、

なぜ王都に行くことになったのかを知る。

私のためだったのか…


二人はちゃんとこのことに納得しているようだ。

功績を横取りしてしまったことを気にしているようだが、

私はまったく気になどしていない。

むしろ、二人の未来の手伝いが出来て嬉しいくらいだ。

だが、寂しいのもまた事実。


そして、私も覚悟を決める。


「よし、決めた!僕も十歳になったら村を出るよ。

そして、二人に会いに行く。まずは街に行くところかな?

冒険者にでもなって、力をつけて会いに行く!」


「…お、おう。いいのか?そんな簡単に決めて?」

「そうよ?別に私たちの真似しなくてもいいのに」


「僕が嫌なんだ。このまま完全に離れ離れになるのが…

僕は必ず二人に会いに行く。どんな手段を使っても。

これは僕にとっての誓いだ。立派な冒険者でもいいし、

何か功績をあげて、二人に近づくのもありだね」


「誓い、か…」

「私たちも何か誓いましょ!」

「そうだな!」

「ええっと、何を誓おうかな…」


「俺は誓う。たとえ遠く離れても、二人を守ることを」

「私も誓う。どんな困難でも、すべて切り払うことを」


『これが…』


「僕の誓いだ」

「俺の誓いだ」

「私の誓いよ」


私たちは、誓いを立てた。

私は、再会を。

ポリルは、私たちを守ることを。

フェリルは、すべての困難を切り払うことを。


それぞれの誓いを胸に、私たちは一旦離れることになった。

けれど、いつか再会する日がやってくるだろう。

そのときに胸を張って会えるように、頑張ろう。




それから私たちは、ドン爺の下に向かう。

武器の補修や研ぎ直しをするために。

二人が困った顔で、ドン爺の作業を見つめる。

私が尋ねると、二人はため息をついて語ってくれる。


「俺たち、ドン爺以外の鍛冶師の腕を知らないからさあ」

「ドン爺以外に、武器を見てもらうのが不安なのよね…」


「ああ、なるほどね」


「なんじゃ、そんなことで悩んでおったのか?」


「そんなことって。俺たちには致命的なことなんだぜ?」

「そうだよ、自分の相棒の調子を見てもらったり、

作ってもらったりする相手は貴重だよ?」


「大丈夫じゃ。行き先は王都なんじゃろ?

わしの弟が王都で鍛冶をやっている。たまに連絡する仲じゃ。

二人の面倒を見てもらうように、手紙を書いて持たせてやる」


「ドン爺、弟いたの!?」

「しかも、王都で鍛冶屋やってるの!?」


「ああ。だから、武器の心配はいらないぞ。腕も一人前じゃ」


「やった!これで不安はなくなった!」

「王都でたくさんお世話になるかもね!」


「頼むから、弟に心労を与えないでやってくれよ…

お前さんらはやりすぎることがあるからな、まったく」


私はその言葉に苦笑した。

二人の武器や防具は明日の出発前に取りに行くことに。

その時に手紙も渡すみたいだ。




今日は村で宴会をすることになったようだ。

私が寝ていたためと後片付けでやる暇がなかったそうだ。

宴会までの時間、私は二人に教えられることを教えようと、

家の前で魔法鍛錬をすることになった。

母さんは身重で宴会の手伝いが出来ないために、

私たちの魔法鍛錬の面倒を最後まで見てくれるようだ。


私が最後に教えることは、身体強化と魔力感知、検知だ。

まず身体強化。

これは武器を使う二人は、覚えておいた方がいいだろう。

どんなときにでも役に立つ万能な魔法だ。

教えるために、身体の構造。特に筋肉のことを教える。

母さんに糸束を用意してもらい、説明する。


この糸束を腕として、一本一本の糸が筋肉の筋として、

この糸を魔力で補強することで、身体強化となると説明する。

二人はすぐに理解してくれたようだ。

さっそく魔法を構築している。

だが、二人に時間がないことを告げる。

理論だけを理解してもらって、魔法の構築は後回しだ。




次に、魔力感知だ。

これは今までのように、自身の内部魔力を感知ではなく、

外部の魔力を感知することを教える。

私が先日のゴブリンに魔法を使ったときに、

魔法の発動に気付かれたことを話す。

二人はそんなことがあったのかと驚いていた。


この世界は魔力で満ちていると寝物語で聞いたことがある。

なので、きっと空気中にも魔力があると判断した。

空気中の魔力をホコリと例えて、

感じられるようにしてほしいと説明する。

そして、二人は互いの魔力を感じるられるかと聞く。

意識すれば、何かあるようには感じるようだ。

ただ、ほかの人は感じにくいという。

これは魔力量と魔力血管の太さの違いだろう。

二人には、魔力を感じる訓練をしてもらうことにした。




最後に魔力検知を教えようとしたが、もう夕方だ。

宴が始まる時間になった。

二人には親との別れも大事だと話した。

ゆっくり両親と話して、家族に甘えるといい。

しばらくは会えなくなるのだから。

私は二人に会いに行くから、問題ないと告げる。


そして、二人と一度別れる。






Side 幼馴染の二人


「母ちゃん、ただいま。父ちゃんもいたのか」


「おや、おかえり」

「なんじゃ、ワシがいちゃまずかったか?」


「そんなことないよ。

たまには二人に甘えてこいって言われてさ。

俺、よくわかんなくて…」


「あらまあ、子供らしいことをいってくれるじゃないか」

「そうじゃな、もう最後じゃからな」


「アンタは一人前になるのが早すぎるのよ…

もう少し、私たちの下にいてくれてもよかったのに」


「母ちゃん、ごめんな。

俺、もうちょっと親孝行しておけばよかったよ…」


「何言ってるんだい。アンタが無事ならそれでいいから。

たまには手紙を書いておくれ。それで無事がわかればいい」


「王都、それも王城に行くんじゃろ?

貴族もたくさんおるはずじゃ。あそこは魔窟だ。

今のお前だと、簡単に足元をすくわれるぞ。


だから、耐えられなくなったら、いつでも帰ってこい」


「大丈夫だよ、父ちゃん。俺もちゃんと勉強してる。

コースケが簡単にだけど、マナーも教えてくれた。

向こうでも習うだろうけどな。


でも、本当にダメだと思ったら、その時は帰ってくるよ」


「…ああ、そうしろ」


俺は父ちゃんたちに何かを残してあげられたかな?

勝手に巣立っていってごめんよ、母ちゃん。

いつまでも心配してくれてありがとう、父ちゃん。


俺は大丈夫。あの二人を守ると誓ったんだ。

どんなことからも守ってみせる。その力を手に入れるんだ。

権力だって、いつかは手に入れてみせる。

父ちゃんたちも守れるように、俺は頑張るよ。




私はポリルと二人で並んで座って、大きなかがり火を見る。

お父さんたちに甘えたかったのになあ。

最後かもしれないのに、まったくもう。

ポリルはガースさんたちに甘えられたのかなあ?

聞いてみよっと。


「ねえ、ポリル。ガースさんたちとはもう話した?」

「ああ、ちゃんと話したぞ。いい時間だった。

たぶん甘えるって、こういうことなんだなって思えたよ」


「そっか。ポリルは甘えられたんだね。

私はお父さんが『行かないで!』って泣いちゃってさ。

大変だったんだよ、もう」

「ハハッ、ドジャーさんらしい」


「いつかは私もお嫁さんに行くんだよって言ったらさ、

真顔でね『僕を倒せる人じゃないと許さない』って、

言い始めちゃって、お母さんがそれを聞いて怒るし、

甘えるどころじゃなかったよ…」

「あー、なんというか、大変だったな」


「うん。最後でもいいからさ。甘えたかったなあ。

頭を撫でてもらいたかったな、なんてしんみりしたよ」

「…あー、その、なんだ?俺が撫でてやろうか?」


「え?」

「あ、いや、他意はないんだが…

頭を撫でるくらいならさ。ほら、俺でも出来るじゃん?

だから、代わりに撫でてやろうかって思ったんだけど…

…今は俺に甘えるか?」


なんだかポリルが急に大人になったなあ。

男の人って感じがして、ちょっと…

ちょっとだけなんだけど、ドキドキするよ。

だから、ポリルに甘えることにした。


「…うん。今はそうするよ。頭撫でて、ポリル」

「わかった」


「ポリルの手、おっきいね。なんか落ち着く」

「そうか?」


「…好きだなあ」

「え?」


「あ、手がね!ポリルの手が好きだなあ、なんて…」

「…」


私はうっかりなんてこと言っちゃったんだろうか。

ポリルも真剣な顔して、黙っちゃうしさ。

なんかしゃべってよ。誤魔化してよ。

でも、嘘はつかないで。嫌わないで…


「黙んないでよ…」

「…いつか、ドジャーさんに勝ってみせるよ」


「え?それって…」

「さあ、腹減ったな!飯取りに行こうぜ!!」


ポリルが勢いよく立ち上がって、ご飯を取りに行く。

私は慌てて、その後を追う。

ポリル、さっきの言葉って、もしかして…

ううん、気のせいだよね。

ポリルはそんなこと言わないもんね。あのポリルだよ?

でも、私の頬は熱を持ったままだ。

ポリルも同じ気持ちを感じててほしいな。


かがり火に当たるその横顔は、頬の赤さを隠す。

今だけはずるいなって思ってしまう私。

いつかお父さんに勝つ、か…

その時が楽しみだな。私はその日が待ち遠しくなった。




Side コースケ


宴が終わり、その翌日。今日は朝から魔法鍛錬だ。

二人に時間がないので、私は各家の家事手伝いを免除された。


身体強化の魔法は、二人とも無事に覚えることが出来た。

説明の見本がよかったのかもしれない。

糸束のおかげで、きっとイメージしやすかったんだろう。

二人はそこまでかからずに、手のひら大の石を持ち、

握力だけで石を砕いていたよ。

あとは洗練するだけと二人に告げて、魔力感知に移る。




魔力感知は、今は互いの魔力を感じるようにと練習させた。

最初は向き合って、魔力を感じられるかと聞いたのだが…

なぜか顔が赤いフェリル。なにかあったのか?

そのまま放置したけど、ポリルが魔力はあるけど、

ハッキリとはわからないと言い出した。


なので、私は手をつないでみてはどうかと助言する。

すると、フェリルが今度は「て、手を繋ぐ!?」と、

挙動不審になっていた。

ポリルはそれはいいな!と言って手を繋ごうとすると、

避けるフェリル。これは本格的に何かあったなと感じた私。

「どうしたんだよ?手を繋ぐくらい、今までやっただろ」

と首を傾げるポリル。

それを聞いて、フェリルが、

「そ、そうね!て、手を繋ぐくらい、繋ぐくらい…

そのくらい、ど、どうってことないわね!」

と明らかに様子がおかしい。


正直、見ていて面白い。私は、だけど。

母も二人の様子に苦笑気味だ。


そして、二人で手を繋いでみたが、まだわからないと言う。

じゃあ、二人で魔力を循環してみては?と提案する。

手から、相手の手に魔力を通すように、と助言する。

これでうまくいかなかったらどうしようかと思ったが、

うまくいったようだ。

だが、ポリルが再び、フェリルをドギマギさせていた。


「フェリルの魔力って、なんか優しくて温かいな」


「そ、そうかしら?そ、そう、なのね…

ポ、ポリルの魔力はなんだか、こう、力強い感じがするわ」


と二人が言い合う、この甘い雰囲気をどうにかして欲しい。

私には毒だ。それも猛毒だ。


ポリルは無自覚であれをやっているのか?

天然か?天然なのか、お前は?

フェリルは完全に顔が真っ赤で、鍛錬になっているのかと、

甚だ疑問だ。


まったく、早く結婚しろ。

まあ、大人になるまで待つしかないんだろうけどさ。


私の若干の不機嫌さに気付き、母が肩をポンと叩く。

その気遣いが今は泣けるほど、胸にしみるよ。母さん。




そのまま昼食の時間になる。

魔力検知に関しては、教える事すらできなかった。

まあ、二人ならなんとかするだろうってことで、

鍛錬は終わった。


最後に二人は頭を下げ、俺と母さんに、

「今までありがとうございました!」

と、そんなことを言ってくれる。

これには母さんも涙ぐみ、

「これからも頑張りなさい。二人のこれからに祝福を」

と言って、二人を応援していた。




昼食後、食休みの間にドン爺のところに赴き、

自身の装備と手紙を回収した二人。

いよいよ別れの時が迫ってきた。


門の前で守備隊が勢ぞろいしている。

隊長さんと村長さんが談笑するところに私たちは向かう。

隊長さんが村長と二人の両親に向かって、敬礼する。


「それでは、二人をお預かりします」


「元気に暴れて来いよ、二人とも」


「はい、村長」

「暴れはしませんけどね…」


最後に両親と抱き合って、別れをすませる二人。


「じゃあ、行ってくるよ。父ちゃん、母ちゃん」


「ああ、行っておいで」

「母ちゃんに手紙を出すのを忘れるなよ?」


「わかってるって」


「お父さん、お母さん。行ってくるね」


「身体に気をつけてね」

「うぅぅぅ、フェリルぅ。本当に行っちゃうのかい?」


「もう、お父さんったら。…あっ、そうだ。

お父さん、腕をさび付かせないようにね?

次に帰ってくるときは、結婚の話のときだから!

じゃあね!!」


「な、なんだって!!」


ポリルが若干青ざめているが、そういうことなんだろう。

ポリルの手を取って、隊長さんの下に走り寄るフェリル。

二人が仲睦まじく、走る姿を睨むドジャーさん。

気付いたようだな、フェリルの相手に。

額に青筋を浮かべて、ポリルに向かって叫ぶ。


「ポリル!次に帰ってくるときは、首洗って帰るんだよ!

娘を泣かしたりしたら、許さないからね!!」


ドジャーさんは父親らしく、娘の前に立ちはだかるようだ。

まあ、ちゃんと心配もしているようだけどね。




そして、二人を連れた守備隊が村を出ていく。

父と母が私を心配する。


「よかったのか、コースケ?二人に挨拶しなくて」

「そうよ?最後くらい言葉をかけてもよかったんじゃ?」


「大丈夫だよ、二人とも。

言葉じゃなくても、伝える方法はちゃんとあるから」


私は守備隊が視界から見えなくなったところで、

演奏魔法を使う。


演奏する楽曲は、旅立ちの序曲。

この場面には、とても相応しい楽曲だ。


「ゲット・レディ」


周囲にたくさんの楽器が並ぶ。

ウィンドウから、演奏する楽曲を選択する。


「セット」


必要な楽器だけが並び、それ以外は仕舞われる。

楽器用マイクを設置して、スピーカーも置く。

今回は音響範囲を前方だけに設定する。

これで遠くに行った守備隊にまで聞こえるだろう。


二人のために、心を込めて演奏する。


「ミュージック・スタート」


私は懐かしさを覚えたので、せっかくだからと、

椅子から立ち上がり、指揮棒を手に取り、それを振るう。

壮大で重厚な楽器たちの演奏が始まる。


旅立つ二人に向けて、祝福を。

祈りを込めて、指揮棒を振るう。


いつの日か、オーケストラたちの前で、

指揮棒を振るったときよりも心が震える。

私は泣いているのだろうか?

いや、泣いてなどいない。決して。


これは悲しみでも、なんでもないのだから。

泣くわけがない。

だとしたら、この涙はどんな感情で流れているのだろうか?




Side 遠く旅立つ幼馴染の二人


「コースケからは、何も言ってくれなかったなあ」

「そうだねえ…」


「まあ、会いに来てくれるって言うんだ。待とうぜ」

「そうね」


俺たちはゴトゴトと進む馬車の中にいる。

正確には、荷車だが…


もう村も見えなくなったな。

両親との別れはちゃんと済ませた。

だけど、肝心のコースケとは別れの言葉を交わせなかった。

それだけが心残りだなと感じる。


そのとき、どこからか音色が聞こえてくる。

フェリルが先に反応する。


「あ、これって!」

「ったく、言葉じゃなく音楽で別れを伝えるってか?」


「音楽?」

「コースケが言ってたんだ。音で楽しませる。

それが音楽なんだって」


「へー、そんなこと言ってたんだ。音楽、いいね!」

「ああ、そうだな」


「なんか旅立つって感じだね、この音色…」

「ああ、果てしなさも感じさせて、壮大感も伝わる。

まさに、今の俺たち向けの音色だ」


「行ってくるよ、コースケ。必ず、私たちに会いに来てね」

「待ってるからな、コースケ。俺たちも…」




遠く旅立つ幼馴染の二人に向けた友人からの音楽。

その音色は、街に到着するまで鳴り響いた。

これで一章は終わりです。

たぶん一章は終わりです。

一章の続きを書いたとしても、そんなに長くないと思います。

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