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【更新停止】異世界音楽家  作者: 物部K
勇気と誓いと旅立ちの三重奏
22/29

別離

Side フェリル


私たちはゴブリンの包囲網を突破して、門に辿り着いた。

ゴブリンがうじゃうじゃといる。

短剣だけじゃダメだと思い、ナイフも左手に持つ。

やったことないから、なんちゃって二刀流だ。

でも、しっくりとくる。


私とポリルはコースケを見送って、門の戦いに加勢する。

「手伝います!」

そう言って、門番の背後に近づいていたゴブリンを、

右手の短剣で切り伏せる。

「すまない、助かった!でも、前に出過ぎるなよ!」

礼と共に注意を受ける。

「はい、気をつけます!」

しっかりとよい子の返事をする。


たぶんだけど、あの音色を聞いたら我慢できなくなる。

集中しちゃうというよりも、自分の世界に入るんだよね。

ポリルも、二本の剣を使って器用に戦っている。

もう怯えはなくなっているようだ。

これならポリルを気にせずに、安心して戦える。


ゴブリンを着々と倒していると、音色が流れてくる。

『アレンジ』とか言っていたけど、静かな音色だなあ。

なんだか、問いかけられてる感じがする。

なぜ戦うのかと。

私は昔から剣が好きだったからなあ。

それが今では、ポリルやコースケと鍛錬するような仲だ。


ポリルは落ちついてさえいれば、何事にも動じない。

ああいうのを、胆力があるっていうのかなあ?

どんな攻撃にも対処して来るんだよね。楽しい鍛錬相手だ。

背中を任せるのにも、一番の相手だね。


コースケは、いつも手を変え品を変えって感じで、

色々と挑戦して来るのが、とても見ていて面白い。

ワクワクするよね、次は何をしてくれるんだろうって。

でも、背中を任せるにはまだまだだね。

もうちょっと精進したまえ。


音色が盛り上がってきた。

私は自分が自分の世界に入るのを感じる。

ゴブリンの動きが手に取るようにわかって楽しい。

ほら、手首落としちゃうよ?はい、残念。

首を切って、倒す。また来てね。

次の相手は、二匹同時?いいよ、いくらでも相手してあげる。


そうして、戦っていると、自然と前に出ちゃう。

そんな私の背中を守ってくれる相棒。ポリルが後ろにいる。

ポリルも音色を聞いて、調子がよくなっているようだ。

ポリルのこともしっかりと把握できている。

全能感に溢れちゃってるね、今の私たち。

どこまでも戦えるよ、私たちならきっと、いつまでも。


今度はゴブリンが三匹一緒に来た。

なら、私の得意の悪戯魔法の出番だね。鼻を水で塞ぐ。

呼吸に苦しむ、真ん中のゴブリン。

あ、右のゴブリンにもがいて、こん棒が当たる。

右のゴブリンと喧嘩し始めちゃったよ。

仕方なく、先に左のゴブリンを片付ける。

まだ喧嘩してるや。喧嘩両成敗だよ?

風の魔法で、二匹のゴブリンの首を同時に切り裂く。


魔法も合わせて、剣を振るう。

魔法は便利だなあ。牽制にも使えるし、攻撃にも使える。

今も両手が塞がってても、使えるんだもの。便利すぎ!

いつかコースケの使う、ビリビリも真似したいんだけど…

教わっても、仕組みがよくわかんないんだよね。

コースケも頑張って、説明はしてくれるんだけどなあ…

わからないから、諦めちゃったよ。

コースケが若干凹んでいたのが、面白かった。

笑っちゃいけないんだろうけど。


剣は剣で、一番しっくりくる武器だ。

これは職業のせいもあるのかなあって思うけど、

たぶん、昔からだなって思っている。

初めて剣を持った時のあの全能感は、今も忘れない。

あのとき、今なら何でも出来るって思ったんだよね。

まだ小さくて、女の子で、なんにも出来ないのに…

あの全能感に、今とても近いのかもしれないな。


剣を振るう、魔法で翻弄する。私にピッタリな戦闘方法だ。

特に、鍛えた悪戯魔法が、こんなにも便利で活躍するとは、

あの頃の私もコースケですら思わなかったと思うよ。

ああ、楽しいな。本当に。

状況は最悪なのに、私、楽しんじゃってる。

ポリルも必死なのに、私だけ…

なんか悪いなあ。


そのとき、頭に声が響く。

【……により、称号が追加】

【称号:……により、【剣聖】が……に変化】

なんだろ、今の?

まあ、いっか。今は目の前のゴブリンっと。ヤアッ!


そうして、戦い始めてどれくらい経っただろうか?

いつの間にか、ゴブリンの包囲網を抜けてしまった。

私は仕方なく、戻るかと剣を構え直したときだった。


急に空が暗くなって、空から光がたくさん落ちてきた。

ゴブリンが何十、何百と焼け死んだんじゃないかって思った。

その後には強い風が吹き始めた。

私は飛ばさるんじゃないかと思い、慌てて短剣を地面に刺す。

背後でポリルが私の腕を取り、風から守ってくれる。

逞しいな、この腕。すごく安心できて、落ちつく。

私はついうっかり、それがポリルの腕だということを忘れ、

ポリルの腕に寄りかかる。幸せだなあ、今の私。


そして、空が明るくなり、風も止んだ時。

ゴブリンは一匹も残ってなかった。

音色も止まっていた。ちぇっ、もう終わりかあ…

そう思っていたら、ポリルから声をかけられる。


「おい、フェリル。いつまでも俺の腕に抱き着くな」

「えっ、あ。ああっ、ごめんねっ!」


「別にそのままでもよかったけど…」

「なあにぃ?何か言ったぁ?」


「お前、聞こえてて言ってるだろ、それ!揶揄うな!」

「ふふっ、ポリルも女の子に興味を持ち始める、

そんな年ごろなのかなって思ってね?くすくす。

女の子には優しくして、頼りがいがあるところを、

見せないとダメだよ?

ポリルは女心が、わかってなさそうだしなあ…」


「別に。……以外に興味ないし」

「ん?聞こえなかった、もっかい言って?」


「なんでもない!ほら、ゴブリンはいなくなったんだ。

村にさっさと戻るぞ!」

「えー、なんて言ったか、気になるー!教えてよー!」


私たちは村に戻る。

村長さんが村人に報告を聞きながら、指示を出している。

動ける村人全員にゴブリンの魔石を集めさせている。

今回の被害をわかりやすくするためだって。

森の中にも、魔石は転がっているはずだって言ってる。

森まであの魔法は届いてたのかな?

私たちからではわからなかったなあ。


直接的な戦闘が出来なかった人たちは、

みんなで村人たちのご飯を作っている。

元気のある人は、このまま狩りに行くようだ。

まあ、村人全員ってなると、ご飯足りないよね…

ついでに、森の中の魔石も拾ってくるんだってさ。


私たちも村長さんに指示を聞こう。

このまま家に帰っていいのかわからないからね。

そう思って、村長さんに近づく。

そうしたら、村長さんの方から話しかけてきたよ。


「ポリルとフェリルか。二人は私の家だ。

ガース。もうリーンの護衛はいいから私の下に来いと、

カレンとルトアに伝えに行ってくれ。

気になることがある。たぶん重要な話だ。

親であるお前たちも聞いておいた方がいいだろう」


「わかった。ポリルとフェリルちゃん。

失礼のないようにな。本当に気をつけるんじゃぞ?」


「わかったよ、父ちゃん。

そんなに念を入れなくても大丈夫だって」

「そうだよ、ガースさん。私たちそんなに信用ない?」


「いや、お前さんたちは不安の塊じゃよ…」


そう言い残して、ガースさんは伝言を伝えに行った。

私たちは先に村長さんの家に入る。

村長ってだけあって、広い家だなあ。

あ、でも酒瓶が一杯転がってる。片付けておこうかな。

この後は、お話するみたいだし…

なんの話をするんだろ?

私たちに関する、重要な話なんてあったけかなあ?


しばらくして、私たちの親が村長と共に戻ってきた。

私たちは酒瓶を片付けておきましたというと、

すまんな、助かると村長が礼を言ってくれた。

各自が座ったのを確認して、村長が話を切り出す。


「ポリル、フェリル。お前たち二人の職業を教えてくれ」


「村長、それは…」


「ガース。私は他の村人から報告受けた。

これは大事なことで、確認しなきゃいけないことなんだ。


にわかには信じがたいが、フェリルの嬢ちゃんは、

【無詠唱】で魔法を使っていたんだって?

それも確認したい」


「んん?私、無詠唱だった?自分じゃわかんないです」

「無意識かよ、フェリル。無詠唱だったぞ…

指先向けたり、剣を振るうのと同時に魔法を使ってた。

俺も無詠唱で魔法使ってるのを見たときは驚いたよ」


「私、いつの間にか無詠唱魔法の使い手になってたんだあ」

「まあ、使いこなせるかは、まだわかってないけどな」


「なんでよ!たぶん使えるもん!」

「お前、あの時音色を聞いて集中してただろ?

たぶん、その影響下じゃないと、使えないんじゃないか?」


「音色というのは、コースケの魔法のことかい?」


「はい、そうです。そのコースケの魔法です。

あの音を聞くと、不思議と力が湧くんです」

「私もたしかに集中して、自分の世界に入ってたなあ」


「無詠唱魔法についてはあとで確認しよう。

コースケの魔法については口外するんじゃないよ?

国が欲しがる力だ、あれは。

それくらい常軌を逸しているんだ。だから、絶対に漏らすな」


「わかりました」

「ええ!?あんなにすごいのに黙っておくんですか?!」


「フェリル。国が欲しがるということは、

戦争の道具にされるということだ。だから、気をつけろ」


「…はい、わかりました」


私はコースケの力を自慢したいと思ったけど、

それはダメなんだって。国が戦争に利用するから。

じゃあ、コースケは私たちで守らないとね!


「それとさっきも言ったが、二人の職業だ。

お前たち、どんな職業を授かった?

それ次第では、コースケの存在を少しは隠せる」


「コースケのためになるんですか?」

「コースケを守れるなら、私たち頑張りますよ!」


「助かるよ。それで職業だが…」


「俺は【上級士官】です」

「私は【剣聖】ですね」


私たちが普段は言わない職業を口にすると、

村長だけじゃなく親も驚いていた。

そんなに珍しい職業なのかな?私はその辺り詳しくない。

たぶん、ポリルも詳しくないはずだ。


鑑定の儀のときに神様に出会って、過酷の運命になるぞ、

って言ってたけど、私たちはそれを受け入れた。

だから、これが運命の始まりなのかもしれない。

私はあのとき覚悟を決めたんだ。

例え、三人バラバラに危険に陥っても、信じるって。

そう、決めたんだ。


村長が話を続ける。


「【上級士官】は軍の将軍にもなれる存在だ。

ポリルがそんな重要な職業に就いてるだなんてな」


「ワシもびっくりしたわい。

ポリルの将来は、ワシたち親の手には負えんな」


「村でもそれは同じだ。それとフェリルの嬢ちゃんだ。

【剣聖】だって?百年に一人の存在だって聞いたぞ?

【剣聖】が、こんな小さな村に留まっていていいはずがない」


「フェリルがそんな職業を授かってたなんて…

ウチだけじゃ判断できない。ドジャーにも相談しないと」


「とにかく、二人はこの村にいていい存在じゃない。

いずれは王都、それも王城行きがほぼ確定だろう…」


村長や親たちが難しく考えながら会話する中に、

私たちはさらに爆弾を投下してしまう。

まず、ポリルが森での出来事を話す。

そのあとに、私が門での戦いのときの話をする。


「そういえば、森でゴブリンを倒したときに、

称号が追加とか何たらと言われたな、頭の中で。

それで職業が変わったみたいに言われた気がする」


「あー、私も頭の中に声が聞こえたよ。

内容は同じみたいだねえ」


「は?頭の中に声、だと…」

「おい、それは。まさかじゃが…」


『神の声か!?』


「神の声?」

「なんなんです、それは?」


「言い伝えだが、特殊な条件下で職業が変わるらしい。

それを伝えるのが神の声と聞いている」

「お前さんたちが聞いたのは、まさにそれじゃ。

そして、フェリルが言うような、中身が同じなことはない」


「俺はたしか【勇気あるもの】って称号が追加されて、

【上級士官】が【リトル・ブレイブ】に変わったはずだ」

「私は【剣と魔を極めし者】って称号だったかしら?

それで【剣聖】が【剣魔王】になったみたい?」


「ハア。もう村では完全に扱いきれん存在だ。

十歳だ。少なくとも十歳になったら、王都に行け。

兵として志願すれば、王城で雇ってもらえるだろうさ」

「ワシも同意見だ。それくらいがちょうどええじゃろ」


「ついでだ、救助隊が来たら、今回の騒動を治めたのは、

ポリルとフェリルの二人ってことにしよう。

コースケの存在を隠すためだ。分かってくれるな?」

「お前さんたちは嫌がるかもしれんが、仕方ないんじゃ」


「…うーん、手柄を横取りするみたいで嫌だけど、

コースケのためになるなら、我慢するよ。父ちゃん」

「私も嫌だけど、コースケのためだもんね。仕方ないか」


こうして、私たちは今回の騒動の立役者になった。

コースケの身を守るためだ。我慢我慢。

十歳になったら、村を出ないといけないことも決まった。

これは、少し寂しい。

両親と離れるのだ。誰だって、寂しいだろう。

だけど、一人前として認められたといってもいいはずだ。


しかし、私たちの予想を裏切る人たちが来てしまい、

村長たちが決めた予定が狂ってしまうことになった。




お父さんが呼んだ救助隊は、王都守備隊だったのだ。

たまたま街に寄っていたところに、救助要請が入り、

村人の人命優先と言って手順を飛ばして、

私たちの村に急いで駆けつけてくれたのだ。

それでも三日かかったのだが…


救助隊の隊長さんと村長さんは、旧知の仲らしい。

今回の騒動の原因と結果を話している。

そして、ゴブリン増加の原因は、冒険者ギルドで調査。

騒動の原因となった冒険者たちは、ギルドまで連行。

と、そういうことになった。


ギルドの調査、大丈夫なのかなあ?

弱い人が行くと、またゴブリンが増えちゃうんじゃない?

そう思って、連行される冒険者たちを見ていたら…

ポリルの剣を見て、突っかかってきた。


「あ!それはコーディさんの剣!」

「お前、それをどこで手に入れた!?」

「あの人が自分の愛剣を捨てるわけがない。まさか…」


「これか?これはゴブリンが持っていた剣だぞ?」


「そんな…」

「じゃあ、先輩たちは…」

「…すまない。規則でもあるんだが…

俺たちにその剣を預けてもらえないか?先輩たちの遺品だ。

遺品は、ギルドに提出しなければならないんだ」


「そうだったのか。だいぶ便利に使っちまったよ。

ごめんなさい。はい、持っていってください」


「コーディ先輩…」

「イサナ先輩…」

「大丈夫だ。君が先輩たちの仇を取ってくれたんだ。

誇りに思っていいぞ。少なくとも俺たちにとっては、な」


「…ありがとうございます」


冒険者たちと話しているのを見ていた隊長が、

私たちに近づいてくる。

そして、今後の予定を話してくれた。

ついでに、お誘いもされた。


「我々は彼らを街に護送して、ギルドに送り届ける。

そのままギルドとも話をつける予定だ。

それと、君たちのことをテディ村長から聞いた。


私は君たちをぜひ王城に、軍に招集したい」


「俺たちを軍に、ですか?」

「私たちをどうする気ですか?」


「とりあえずは、訓練しながら教育だな。

そして、いち兵として働いてもらう。


大丈夫だ、実力はわかっているつもりだ。

だから、君たちなら、すぐに昇進するはずさ。

どうかね、この話受けてくれるかね?」


「俺は構わない」

「私もいいけど、この村と私たちの安全は、

確保してください。少なくとも、戦場以外では」


「それくらいなら任せてくれ。

村の安全は領主に任せることになるが、構わないか?」


「ええ、それでいいです」


「君たちは育ちがいいのだな?

普通、この年頃の子は、もう少し粗野なのだが…」


「私たちはこれが普通です。ねえ、ポリル」

「お、おう。そうだな」


「そうか。では、私たちと共に来てもらうことになる。

親たちや友人との別れを済ませておきなさい。


必要なものは自分の武器と少しの間の着替えくらいだ。

それ以外は王都で揃えるし、こちらでもある程度は用意する。

出発は明日の昼過ぎだ」


「明日!?」

「早くないですか?」


「我々も随分と無理してここに来たのだ。

少々、時間が押している。こればかりはすまない」


『…わかりました』


私たちは急な別れと準備をしないといけない。

まず、私たちは荷物の準備をするために家に帰った。


案外、呆気なく荷物の準備は終わった。

ポリルと再び合流する。

人気のないところに移動する。


私たちは、コースケに今回の話を伝えるか迷った。

手柄を横取りしてしまうことに後ろめたさがあるのだ。

コースケを守るためと言えば、許してくれるだろうか?




そして、二人で話していたら、コースケがやってきた。

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