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【更新停止】異世界音楽家  作者: 物部
勇気と誓いと旅立ちの三重奏
17/29

魔物に対する本能

季節は秋になった。

模擬戦を経てからは、私たちは森に入り浸っている。

鍛錬をそろそろ再開したいなと思う中、父子で狩りを続ける。

ここ最近は栄養があり、かつ美味しいものと設定して、

索敵魔法の簡易地図を開いている。

秋の新しく見つかる、美味しい味覚探しだ。

その味覚を見つけるたびに、すべて父が解説してくれる。

中には栄養キノコなんていう、そのままの名前のものもあった。

だが、食べてみると、旨味があり、栄養豊富な味だった。

これはたしかに、その名前がつくのにも納得した。




秋が深まり、そろそろ狩りを一人でさせてもいいか、

と思われていた頃に、それと遭遇した。

緑色をした小さな鬼、ゴブリンだ。

話には聞いていた魔物だ。初めて見るな。

耳障りな声で、角うさぎをこん棒で追い回している。

その足は遅く、のたのたと走っている感じだ。


ゴブリンを観察していると、父が舌打ちをした。

そのまま父は、その場に弓を捨てて腰の剣を掴む。

ゴブリンに走り寄り、ゴブリンを切り伏せる。

ゴブリンは倒れると同時に黒い砂になった。

私は父が捨てた弓を持ち、父に走り寄る。


「父さん、今のが…?」

「ああ、あれがゴブリン。魔物だ」


「あれが…」

「いいか、コースケ?

魔物の中でもゴブリンは見かけたら、必ず殺せ。

ゴブリンほど不快な魔物はこの世にいない」


「父さん。昔、何かあったの…?」

「…昔、ゴブリン村が出来た場所があった。

元々は農村だったらしい。

そこでは男は殺され、女は家畜のように扱われていた。

しかも、小さな子供は労働力として働かされていたんだ。

多くの冒険者でゴブリンどもを討伐したが…

結局、後味の悪い結果に終わったんだ。


普段のゴブリンはあんな間抜けな様子なんだ。

だが、知恵をつけると厄介な魔物として成長する。

だから、見かけたら必ず殺せ。

それと、殺せばこういう物を落とす」


「なに、それ?紫色の、水晶?」

「これは魔物の石、冒険者ギルドで魔石と呼ばれるものだ。

魔石は魔物の体内に必ずある。

魔物を倒すと、黒い砂になる。余裕があるなら拾っておけ。


魔物の討伐報酬が国から常に払われている。

冒険者ギルドに魔石を持ち込めば、換金してくれるぞ。

まあ、ゴブリンの魔石は安いんだがな。

だが、安いからと見過ごすと、さっき話したことが起こる。

だから、ゴブリンは殺すんだ。


ついでに、魔物にとって魔石は弱点だ。

デカい魔物にも、魔石は必ずある。

この魔石が壊れると、魔物は即座に黒い砂になって死ぬ。


さて、一通り説明はしたな。

じゃあ、ゴブリンは見かけたら複数いると思え、だ。

近くにたぶんゴブリンがもう一匹くらいいるだろう。

コースケ、探せるか?見つけたら、次はお前が殺せ」


「うん、わかった。探してみるよ、父さん。

…いた!結構近くだ。父さん、あっち!」

「よし、行こう」


私は父の話を聞いて思った。

ゴブリンの不快感は、遺伝子レベルだと感じたのだ。

私が初めて見た時ですら、あれは生かしておいてはいけない。

と、身体が訴えていたのだから。

なので、私はゴブリンに対しては容赦しないと決めた。


探したゴブリンは、木の根元で居眠りをしていた。

通りで簡易地図の場所から動かないわけだ。

私は父に視線を向ける。父は頷くだけだ。

私はすぐさま魔法を使う。


「アースニードル」


地面から土で出来た鋭い針が複数飛び出して、

ゴブリンをくし刺しにする。

「ゲギャ!」と最後の言葉を残して、黒い砂となる。

私は砂の中から魔石を探して拾う。

これも収入になるのだ。将来の資金にしようと考える。

父が私に話しかける。


「よし、もう近くにはいないか?」

「…うん。いないみたいだよ」


「じゃあ、今日は帰るか。もうじき冬だ。

日が落ちるのが早くなってきた」

「そうだね。獲物もあるから、早く帰ろう」


家に帰ったあと、父は母に何かを話していた。

母は不安そうな顔をしていたが、許可するように頷いた。

そして、父は出かけていった。何を話していたんだろうか?

その後、父は夕食には帰り、また出かけた。

寝る前になっても、今日は父は帰ってこなかった。


翌日、いつも通りに狩りに向かうと、

やや緊張した幼馴染の二人と保護者たちがいた。

どうしたんだろうかと思っていると。


「今日はお前たちだけで、森で狩りをしてもらう。

心配するな。少し離れるが、俺たちもついていく。

今後お前たち、子供だけで森に入っても大丈夫かという、

最終試験だと思え。いいな?」


「父さん、昨日帰ってこなかったのは、そのせい?」


「ああ、村長のところで話していた。ガースとドジャーもな」


「だから、父ちゃん、昨日帰ってこなかったのか」

「うちのお父さんもそうだったわ」


「ワシはまだ少し心配しておるのじゃがな…」

「僕はフェリルはもう大丈夫だと判断してるよ」


「さあ、三人で隊列を組め。俺たちは離れて気配を殺す。

だから、三人で獲物を取れれば、合格とする。


ちなみに、コースケはすでに村長から許可が出てるぞ?」


「え?僕だけ?」


「コースケの魔法のことを、俺が話したからな。

村長はそれで十分と判断したんだろう。

独り立ちの資金でも稼ぐといい、と言っていたぞ」


「わかりました。ありがとうございます、父さん」


「コースケだけいいなー」

「まあ、私たちはあそこまで自由に魔法が使えないからね。

仕方ないよ。代わりに、接近戦の剣の腕じゃ負けないけどね」


「じゃあ、行こう。隊列は前に決めていたのでいいだろう」


『はい!』


私たちは森に入る。

森の道が途切れるところで、父たちの気配が消える。

視界にはいるのに、存在感が薄いのだ。

これも技術なんだろうな。

私はそれを見て思いついたので、魔法を使う。


「じゃあ、二人とも。僕からあまり離れないでね?」


「何するんだ?」

「離れすぎなきゃいいのね、任せて」


「サイレント・ハイド!」


「薄っすらと何かに包まれたな」

「なあに、これ?」


「大声じゃなければ、しゃべっても大丈夫だよ。

この包まれてる範囲ならね。

範囲内であれば、音と姿を消してくれる魔法だよ。

ほら、大人たちは慌ててる」


「ホントだ。でも、これじゃ、父ちゃんたちが俺たちに、

ついてこれないんじゃないか?」

「そうね。薄っすらと姿が見えるようにしたら?」


「それもそうか。じゃあ、薄く見えるようにしよう。

大丈夫だよ、父さん!まだここにいるから!」


「急に消えるから、焦ったぞ!そのまま森に入りなさい!」


「わかった!ね?大声なら聞こえていたでしょ?」


「なるほどな。基本的に音は聞こえないと」

「姿もほとんど見えないってことは、気配も消してるの?」


「うん、気配も消してるよ。

じゃあ、このまま獲物のところに向かおう。割とすぐ近くだ」


「これって、いいのかな?」

「私たち三人でならって、許可が下りるわね。きっと…」

「一応、ちゃんと注意して行動しようぜ」

「そうね。このまま、おんぶにだっこじゃ恥ずかしいわ」


「二人とも、行くよ?」


「おう」

「うん」


私たちはそのまま移動する。私はあまり注意していないが…

二人は周囲を気にして、静かに移動することにしたようだ。


そして、獲物を見つける。

ツチヘビだ。

これは私の獲物だなと判断して、二人に待ったをかける。


「二人とも、待って。あれは私が殺すから。

二人は二人で、別の獲物を探そう」


「そうだな。その方がよさそうだ」

「そうね。あれはコースケの獲物よ」


「ありがとう、二人とも」


私はさっそくパラライズを使い、ツチヘビを麻痺させる。

血抜きと解体は後回しにするため、生きたまま捕獲だ。

ツチヘビを回収したら、二人に行こうと話しかける。

その後は、二人に任せて自由行動をさせる。

一応、索敵魔法の簡易地図は頭の中で発動させたままだ。


まずはポリルが道を進む。

何かに気付いて、足元を確認するポリル。

そのまま静かに歩き出す。

その方向に獲物はいるな、たしかに。

獲物の足跡を見つけたんだろう、きっと。


獲物がいた。あれはベビーボアか。

ベビーボアの身体の大きさは小さいのだが、

あれ以上に成長することはない不思議な猪だ。

その肉は小さい分、脂がのって美味しい。

私の簡易地図にも表示される獲物だ。


ポリルは、弓をつがえ構える。狙いを定めて、射る。

見事だ。目を貫通している。

角度がよかったのだろう、一矢で仕留めたようだ。


ポリルがガッツポーズをして、ベビーボアを回収する。

血のニオイに気付いて、私はその場で魔法を改良する。

このままだと、ニオイで危険な生物が近寄ってくる。

なので、サイレント・ハイドに、消臭の要素も混ぜる。

そのことを二人にも告げる。

ポリルはすまんと謝る。私は別に構わない。

ただ、このままだと、フェリルの狩りに支障が出るのだ。

フェリルは私の気遣いにありがとうと返してくれた。


最後にフェリルが獲物を探す。

即座に獲物の足跡を見つけ、その後に鼻を動かした。

そのまま一定の方向に進む。そして、獲物がいたんだが…

フェリルは犬か何かか?

ニオイであの獲物の下まで来たように見えたんだが。


獲物はミートスパイダー。

普段は巣から急降下して、地上の獲物を捕らえて食べる。

だが、時折地上に降りて、獲物を探すのだ。

その足跡をフェリルは見つけたようだ。

ミートスパイダーの可食部分は足だ。その身は美味である。

何気に足は太く、その足は八本あるので、食べ応えもある。

身体の部分には糸袋があるので、それも売れる優秀な獲物だ。


フェリルは弓を構えたが、何かを思い直して、剣を構える。

魔法を使って、ミートスパイダーを巣から落とすようだ。

魔法を使うのに随分と集中しているな。

ミートスパイダーの巣に向かって、魔法を放つ。


「ファイア!」


火の魔法で巣が燃える。

威力を調整したようで火力はなく、巣だけが燃えているようだ。

巣からミートスパイダーが地面に落ちる。

素早く接近したフェリルが、眉間に剣を突き刺す。

そのまま剣をぐりぐりと動かして、剣を深く突き刺す。

ミートスパイダーの動きが完全に止まる。

剣を引き抜き、足を根元から切り落として回収する。

その場で解体して、糸袋も回収するようだ。

身体はそのまま放置だ。

きっと森の掃除屋のスライムが食べてくれるだろう。


私たちはポリルのベビーボアの解体のため、川に移動する。

ポリルが解体をするのを見守る。

解体も一人で出来るようにしないといけないのだ。

たまに解体の手を止めて、周囲を確認するポリル。

危険な生物がいないとわかると、再び解体に戻る。

そして、解体が終わる。


私のツチヘビは帰ってから、父に解体してもらうつもりだ。

まだ私の腕では、綺麗に皮が剥ぎ取れないのだ。

お金のため、これは仕方のない処置だ。


そのまま、私たちは森の入り口まで移動して、村に帰る。

村の入り口に到着したので、魔法を解除する。

門番が驚いていたが、今はスルーして、父たちに振り返る。

私たちの保護者の今回の評価が気になる。

父たちが口を開く。


「俺の目から見て、三人は合格だと思う」

「ワシも三人なら合格だな」

「僕はフェリル一人でも合格を出したいかな?」


「いいのか?一人娘だろう?」

「ワシも話を聞いた限りだが、フェリルちゃんは大丈夫だと思う」

「アルフ、一人娘でも一人前なら許可を出すのが親だよ?」


「お父さん!私、一人で森に入ってもいいの?!」


「うん、一人で森に入ってもいいよ。

ただ、可能なら二人のどちらかでも、そばにいてほしい」


「うん、わかった。なるべく、どちらかを連れていくよ」


「父ちゃん、俺は?!」


「…お前は、『まだ』ダメだ」


「なんでだよ、父ちゃん!?」


「ガース、ちゃんと説明してやれ。

それだけじゃ納得できずに、一人で飛び出しかねん」

「僕もそう思うよ。ちゃんと伝えたほうがいい」




「ハア。二人がそう言うなら、ちゃんと伝えるわい。

いいか、ポリル?お前はまだ魔物と遭遇していない。

お前が魔物と遭遇しても、ちゃんと戦えるかを、

ワシは自分の目で、まだ確認していないんじゃ。

だから、一人で森に入るのは『まだ』許可できないんじゃよ。


ドジャーから話は聞いたが…

フェリルちゃんはゴブリンと偶然に遭遇しても、

嫌悪感は抱いても、ちゃんと戦えたそうじゃ。

近くにドジャーがいたという安心感はあったかもしれんがな。


それがお前とフェリルちゃんの違いじゃ。

ついでに言うと、コースケも同じ理由じゃ。

ちゃんと魔物と対峙出来て、戦るかが問題なんじゃよ」


「父ちゃん、俺はゴブリンとだって、きっと戦える!!」


「きっとやたぶんじゃダメなんだ、ポリル」

「そうだね。魔物を見て、本能的に恐怖する奴もいるんだよ」

「そうじゃ。だから、許可を出せんのじゃ。『まだ』な」


「俺が臆病者だって言いたいのかよ、三人とも!」


「ポリル、違うわ。あれは本能的に感じるものなのよ」

「そうだね。僕もそう思った。というよりも感じた。

ゴブリンを見て、身体が訴えるんだ。あれは殺せって。

その本能を見ないことには、許可は出せないと思う」


「なんだよ、それ…

そんなの出会わなきゃ、わかんないじゃんか…」


「そうだ。遭遇しなきゃ、その資質を見抜けないから、

俺たちも判断が出来ず、許可を出せずに困ってるんだ」

「僕らも何も意地悪で許可を出さないわけじゃない。

その本能がどういうもので、恐怖を乗り越えられたかを、

判断しないといけないんだ。じゃないと、最悪死ぬからね」

「すまんな、こればっかりは運じゃ。

三人でいるときに、もし魔物と出会ったらその時のことを、

ワシらに教えてほしい。

じゃないと、許可が出せないままだ」


「わかったよ、父ちゃん。今はまだ我慢する。

でも、俺だって倒せるはずだ!きっと大丈夫だ!

だから、まずは三人で行動して、魔物に会ってみる。

それから判断してくれ!」


『わかった』


三人の親が口をそろえて、了解をポリルに伝える。


私たちもしばらくは、三人で森に入ることにした。

私が提案して、森林鍛錬ということになった。

魔法を使い、森の中を消音のまま走り回る。

計算も口頭で私が問題を言い、暗算してもらうつもりだ。

二人はまた勉強かと落ち込んでいた。

それを見て、親たちが苦笑する。


ポリルの問題は後回しになったが、きっと大丈夫だろう。

この時私は、この問題を軽く考えていた。

思ったよりも重大な問題になるとも思わずに。

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