森に入るための模擬戦
この話から試しにと、改行を使わなかったりと色々と試していきたいと思います。
魔力と魔法の扱い方を習って、日々の鍛錬が少し変わった。
まず、午前中。私が各家の家事を終わらせる。
まだ納得はしていないが、この方法が一番早く集まれるのだ。
母であるリーンからポリルとフェリルは毎日、魔力血管の拡張具合を見てもらっている。
リーンの魔力検知が検査のレベルまで上がったのは、私の助言のおかげだ。
主に想像力の面で役に立てた。
ただ、やはり自身で魔力を巡らせるのは時間の効率が悪いと、リーンが言うので、自動拡張の魔法を教えることになった。
最初は理解できるか不安だったが、リーンも協力してくれて、ポリルとフェリルの二人も自動拡張の魔法を習得した。
性格が出るのか、二人の自動拡張の使い方は違う。
ポリルは、座学中や筋肉鍛錬中などの安全が確保される場合には、やや痛みを伴ってもいいから、多少無理をして、魔力血管の自動拡張を進めているようだ。
もちろん、集中するような場面では抑えているとのこと。
フェリルは、とにかく速く魔力を循環させているようだ。
魔力血管に通す魔力量はそこまで多くない。
本当に少し拡張される程度だ。だが、速度が異常に速い。
常に、自身の能力の限界ギリギリまでの速度を保っている。
今のところ、どんな場面でも問題なく動いているようだ。
母のリーンも自動拡張はしている。
だが、私たちと違って、もう魔力量は伸び悩む時期らしい。
魔力量は十代の内が一番伸びると教わった。
そのため、そこまでの拡張はしなくていいのだが、今まで出せなかった魔力放出を伸ばすという意味で、自動拡張の魔法を日々使っている。
自動拡張の魔法のおかげで午前中は基本的に、どんな魔法があるのかという座学中心になった。
その魔法の想像は、どうすればいいかという会話がメインだ。
試しに魔法は使うが、魔力衰弱を起こさないように、慎重に丁寧に魔法を使っている。
魔力衰弱を起こすと、午後の筋肉鍛錬がつらいのだ。
ちなみに、わたしはこの会話には混ざらずに、独自の『音楽魔法』を鍛えている。
使った『魔法名』をより扱いやすくするための研究がメインだ。
『魔法名』だけでなく、音楽用語の意味も少し捻じ曲げて解釈している。
これらを日々、木の板に簡易鉛筆で研究結果を書きまとめている。
それと、音楽魔法を咄嗟に使いこなせるように、合間を見て母さんに『識別板』を上げてもらっている。
識別板の内容を瞬時に判断して、対応した魔法を使う練習だ。
この『識別板』には、それぞれの魔法のイメージを描いた。
地球で言う『アイコン』みたいなものだ。
今は識別板を手に持ってもらい、上げてもらっている。
難易度を上げるときが来たら、口頭での指示に切り替えてもらうのだ。
母さんもこの練習は楽しんでいるようだ。
なぜなら、間違うたびに私が腕立て伏せ十回するからだ。
母さんのサディスト!
だが、おかげで魔法の扱いにも慣れ、筋力もついた。
このようにして、私たちの午前の魔法鍛錬は継続中だ。
昼食をはさんで、午後は筋肉鍛錬だ。
これも相変わらず、基本的に私は走るだけだ。
ポリルとフェリルは、私が疲れたら木剣で打ち合う。
私はその間に、ポリルとフェリルの勉強具合を確認する。
毎日薪を5本持ってきてもらい、その断面に計算式を書く。
持ち帰らせて解かせて、翌日に持ってこさせるのだ。
つまり、毎日薪十本抱えていることになる。
これもどうにかしたいのが、名案が今のところない状況だ。
そして、午後になると私が二人の問題の解答を確認するのだ。
確認が終わったら、二人には打ち合いをやめさせる。
そのまま、問題のやり直しさせてから、打ち合いは再開だ。
片方だけが満点だった場合には、相手のやり直しが終わるまで、腕立て伏せなどの筋トレをさせている。
ちなみに、筋トレの間にも問題を出して、考える力を身に着けさせている。
そのため、二人とも相手のためにと頑張る傾向が出来た。
うんうん、無理やりやらせているけど、美しい友情だ。
二人がジト目を向けている気がするが、気のせいだな。
念のためと思って、二人に『です、ます口調』を覚えさせ始めた。
簡単な敬語だけでも覚えておくと、世の中は生きやすいからだ。
ここ最近は、年上相手には~、などと話して教えている。
二人には、年上は性格も仕事も面倒だと、余計なイメージを植え付けたかと少し心配した。
午後の鍛錬もこのようにして、日々続けている。
だが、最近困っていることがある。
午後の筋肉鍛錬に、幼馴染の二人が物足りなさを感じているのだ。
同じ相手と毎日打ち合っているせいで、変な読みあいをするようになったと言っている。
筋トレも今の年齢だと、やりすぎもよくないと私が抑えている。
そのため、私たちは今、伸び悩んでいるのだ。
そんな中、現れたのが我らの父たちだ。
まず、我が父アルフレッド。
冒険者時代には変幻自在の双剣を使って、たくさんの魔物を切り伏せていたと本人から聞いた。
現在は、開拓村での狩りのために、弓も使っている。
ポリルの父、ガース。
冒険者時代は大きな斧を使う重量系の戦士だったらしい。
その力で、巨大な魔物にも深手を負わせて活躍したそうだ。
現在は、開拓村で木こりをメインに活動している。
フェリルの父、ドジャー。
冒険者時代では、斥候を務めていたらしい。
武器は主に短剣や弓、その場にあるものはすべて利用して戦う。
現在は、開拓村で細工師をしている。
細かい作業が得意で、たまに木像を作っているのを見かける。
そんな父たちは昔、パーティを組んでいたようだ。
そのため、互いの家は仲がいい。
最近、ドジャーはどちらの家の子に、フェリルを嫁に出すか悩んでいるそうだ。
その父たちが、私たちの鍛錬の様子を、たまたま通りがかって確認していた。
「ふむ。そろそろ森に出してもよさそうだな?」
「そうだな。この年頃にしては十分に動けている」
「ああ。でも、フェリルに何かあったらどうしよう…」
「父さん、森に行ってもいいの?」
「父ちゃん、ホントか!?森に行ってもいいのか?」
「もう、お父さん。心配し過ぎだよ、私は大丈夫よ」
「だが、少し確認してからだな」
「うむ。たまには、子の面倒も見てやらねばならんしの」
「フェリルを止めるために、私が壁になるんだ!」
「確認?」
「父ちゃんが面倒を見るって、何するんだよ…」
「止めるために、壁になるって。はあ。厄介だなあ」
『模擬戦をするぞ』
『模擬戦?』
「ああ、三対三の模擬戦だ。集団戦を見る感じだな」
「周囲を見て連携を取れなければ、森では話にならん」
「怪我させないように、ちゃんと手は抜くからね?それに子供相手には、まだまだ負けないよ」
「なるほど。集団戦かあ。たしかにやったことないですね」
「父ちゃん、勝ったら森に行ってもいいんだな?!」
「お父さんはすぐムキになるから、心配だよ…」
「それじゃあ、装備を整えて、広場に行こうか」
「ドン爺の安全な武器を探さなきゃな…」
「じゃあ、先に広場で待っててね~?」
そう言って、父たちは装備を取りに、その場を去っていく。
うーん、模擬戦とはいえ、集団戦か。
今の私たちにいきなり連携は無理だな。
これは何度も負けそうだな、それも簡単に。
二人はやる気のようだし、とりあえず先に広場に向かうか。
「少し待たせたか?刃を潰した武器を探すのに時間がかかった」
「すまんな、三人とも。ワシらも現役の武器以外はないのじゃ」
「僕は少しなら手元に置いてあるけど、それでも少ないね」
「いえ、大丈夫です。まだ日は高い方ですから」
「父ちゃんたちと戦える!く~、ワクワクするなあ!」
「お父さん、しっかりと色々持ってる。気をつけなきゃ」
「それじゃあ、始めるか。作戦会議は終わってるんだろ?」
「はい、父さん。先ほどまでしてました。準備は出来ています」
「じゃあ、この石を投げるから、落ちたら模擬戦開始だ。
脱落したら、素直に負けを認めるように。危ないからな」
『はい!』
「よし、投げるぞ~!」
空高く舞う石。やる気をみなぎらせる二人。
作戦はこうだ。
前衛にポリル、遊撃にフェリル。そして、後衛が私。
私は、広い視野からの魔法で、二人を支援することにした。
ポリルが前を受け持ち、フェリルが臨機応変に動くことに。
石が地面に落ちて、コツンと音を立てる。
さあ、戦闘開始だ!
最初に前に出てきたのは、フェリルの父ドジャーさんだ。
すぐにポリルと対峙する。ポリルは手に握る木剣に力を籠める。
だが、ドジャーさんは短剣を振るフリをして、砂で目つぶしをした。
「くそっ、目がっ!」
「はい、おしまーい」
これにはポリルも対応できず、首に手刀を当てられて脱落した。
これで前衛が潰された。
臨機応変に動くはずのフェリルが前衛の立ち位置になる。
私はドジャーさんの後ろから迫る父たちを止めるため、それとフェリルを守るように魔法を行使する。
「アースウォール!」
使った後に気付いたのだが、使う魔法の選択を間違えた。
フェリルの前を半円のようにして囲う土壁を作った。
半円に囲った土壁の真ん中にだけ道を開けて、ドジャーさんの行動を狭めようとしたつもりだった。
だが、私の魔法のせいでフェリルの視界を狭めてしまい、後方の父たちの様子が分からない状態にしてしまった。
フェリルは守るべき私の存在に気を取られながら、ドジャーさんとの一対一になり、体格差と剣の腕の差で負ける。
短剣で木剣を絡めとってたぞ、どうやってるんだあれ。
そして、私の下に三方向から父たちが迫る。
私は最後まで足掻くつもりで、魔法を使う。
足元を隆起させる。これなら!
「アースライズ!」
地面を隆起させて悪あがきしてみたが、簡単に乗り越えられて、三方向から武器を突き付けられて、私も敗北した。
うーん、見事な敗北。連携をする前に、連携を潰されたね。
あと陣形も間違えたかも。
手練れ相手の対人戦闘って感じだった。
それからは、父たちを交えて反省会だ。
「ポリル君。
斥候や暗殺者を前にして、力いっぱいに武器を握るのは悪手だよ?
からめ手を使ってくださいって、言ってるようなものだよ」
「そうなん、ですか?」
「うん。僕みたいのを相手にするときは、緩く構えて、どんな動きにも対応できるようにすることが大事。
砂がある地面では、目つぶしを警戒するのも基本だよ?」
「はあ。俺が一番苦手とするタイプだな、これは…」
「まあ、僕みたいのを相手にはさすがに慣れが必要だね。
後ろに守るものがある戦いでは必ずと言っていいほど、無理難題を突き付けられてると覚悟することだ」
「わかっ、り、ました…」
「慣れない口調、頑張ってるね。偉いよ。次はフェリルだね」
「うん。もっと武器をちゃんと握るべきだった。
それと、後ろを気にし過ぎた。
視界が狭まって困惑したってのも、もちろんあるけど…」
「うっ、ごめん…」
「そうだね。二人はそこが反省点だね。
武器はしっかり握ること。
せっかく行動を狭めてもらえて、一対一になったんだ。
目の前の相手にだけ、集中するべきだったね。
コースケ君は使う魔法を間違えたね?
壁を出すくらいなら、突風で後ろの二人を遅らせればよかったんだよ。
まあ、いくらなんでも、こればかりは実戦経験が必要だね」
「うぅ、あんな簡単に武器を取られるとは思わなかった…」
「僕も使ってから、使う魔法を間違えたって思ったよ…」
「そうだな。俺からは…
コースケ、お前はなんで無手なんだ?
せめて、杖か棒を持ったほうがいいぞ?
少しでも武器に対抗する手段はあった方がいい。
後衛の役割は、魔法で火力を出すことももちろんあるが、魔法などで時間を稼ぐことも大事だぞ?」
「そうだね。魔法に向いた杖は今のところないから、棒を持つことにするよ。
魔法で時間を稼ぐか。考えたこともなかったよ。
ありがとう、父さん」
「ワシからじゃが、連携を潰しにいったとはいえ、陣形を間違えていたと感じた。
森で行動するなら、あれでいい。
だが、対人戦闘するのであれば、前衛が二人でよかったじゃろ?」
「そうですね。僕の作戦が間違えていました。
森に行くことが頭にあったせいで、あの陣形にしたんです。
対人戦闘ならフェリルも前に出して、前衛二人にしました」
「そうじゃな。あとは坊主、最初に様子見したじゃろ?
あれでは後衛にいる魔法使いの意味がない。
後衛なら妨害なりなんなりと、初手で挟んだ方がええ。
後衛の基本戦術は、相手が嫌がることをするんじゃよ。
相手の前衛に万全の戦闘をさせちゃいかん。
前衛が相手をするのに、一気に楽になるからの」
「はい、わかりました」
「よし、反省会は終わったな?夕方まで模擬戦を続けるぞ。
次からは反省会なしで、終わったら位置についてやり直しだ」
『はい!』
「うん、いい返事だ。よし、また石を投げるぞ。そらっ!」
こうして、私たちは夕方まで模擬戦を繰り返した。
その後もいいところはなく、私たちは一方的に負け続けた。
だけど、たくさんの経験は積めた。
音楽魔法に頼ると、火力が危険だから模擬戦では使えない。
そして、私の魔法の使い方はまだまだ甘い。
その場での対応力が、実戦経験が足りなさすぎる。
模擬戦を繰り返して、対応力を鍛えられたが…
今のままでは、戦闘状況に合わせた魔法が使えない。
もっと魔法の自由度を、活かさないといけない。
魔法は自由だ。その分、対応力の性能は高い。
私次第で、戦闘状況が大きく変わる場面は今後もあり得る。
もっと魔法の腕を磨こう。発想力を鍛えよう。
そう思えた模擬戦だった。
ちなみに、森へ出ることは父たちを納得させなければ、許可しないと宣言された。
これには二人が燃えて、打倒父たち!と作戦を考える。
私もこれに混じっている。
最初の作戦ミスが思ったよりも悔しかったみたいだ。
意外と負けず嫌いだったんだな、私。と再確認した一日だった。