鍛錬、魔法の実験
昼食を各家で食べて、また我が家に集合。
食後なので、まずはゆっくりと村の周りを一周歩く。
その後、私が言い出したことだが、柔軟体操をしっかりとする。
それから、『重力腕輪』を手足に装着。
そして、我が家の前から、村の周囲を走る。
普通の子供は家の手伝いをするのだが、それは午前中に終わらせた。
そのため、こんな風に鍛錬に時間を使えるのだ。
この鍛錬の時間の間も自動拡張は行っている。
さっきの座学での速度を維持したままだ。
今のところ不調を起こしたことはないので、安全だと思う。
私の走る体力がなくなったところで、
幼馴染の二人は、木剣で打ち合いを始める。
私はストレッチをしてから休憩。
普段は二人の勉強を見るのだが、今日はお休みにしている。
これには二人も喜んだ。後日、まとめてやるとは知らずにね。
午後は母から魔法の放出方法を学ぶ。
とは言っても、創造神のフェリオス様から大まかには聞いている。
まずは確認からだ。
「母さん。魔法の放出って、魔力操作を経てってところ?」
「そうね。基本は魔力操作が必須ね。
詠唱を行って、その間に魔力を操作して、放出って形かしら?」
「ふむふむ。じゃあ、魔力操作を行って、放出すればいいのか。
ちゃんと形になった想像すれば出来るはず、かな?」
「何を言ってるの、コースケ?詠唱は必須でしょ?
これを覚えるのが、また大変なんだから…」
「母さん。母さんが得意な魔法をちゃんと頭の中で想像して?
それから、魔力操作して、魔法として放出ってやってみて?
ちゃんと想像して、魔法名だけを唱える感じで」
「いいけど、発動しないわよ?」
「ちゃんと発動するって思ってやってね?
ときには、思い込みも大事だよ?」
「わかったわよ、もう。…いくわよ、フレイムランス!」
「おお!すごい!」
「え?出来ちゃった?」
母さんで実験することになったけど、やはり詠唱はいらないようだ。
母さんが震えている。どうしたのだろうか?
「あの師匠…
許さないわ。私に何度もこっ恥ずかしい詠唱させて…
何度も何度も魔法の空撃ちさせて、絶対に許さないわ。
今度会ったら、今のを何度もぶち込んでやるわ…
ふ、ふふっ、うふふ…」
「あー、母さん?大丈夫?」
「…あまり大丈夫じゃないわね。精神的なダメージを受けたわ。
だから、コースケを見守ることにするわ。
魔力操作は出来るわね?放出の理論もわかっているわね?
あと自動拡張は、今は一旦止めておきなさい。
それで色々とやってみなさい。
使う魔法名が気になったら、私に聞けばいいわ。
ある程度は答えてあげる」
「うん、わかった!」
「なんだ?もうコースケは魔法を使う許可が出たのか?」
「いいな~?私たちは拡張が終わるまではダメって言われたのに」
「なら、今日の鍛錬は拡張に使ったら?
夕方前には、使う魔力量の少ない魔法が使えるんじゃない?」
「フェリル、どうする?今日は拡張に時間を回すか?」
「そうだね、ポリル。コースケに置いていかれそうだ」
「置いていきはしないけどね、ふふっ」
ポリルとフェリルは、今日は魔力血管の拡張に専念するようだ。
私は色々と魔法を試そうかな。
まずは、フェリオス様が実演してくれた奴を真似してみよう。
あと、ちょっと思いついたこともあるし…
初めて魔法を使うため、集中することにする。
イメージを固めて、魔力操作して、魔法名を唱えて放出。
「…まずは、ファイア!」
「おお!コースケが火の魔法を使ったぞ!」
「いいなー、拡張頑張ろっと!」
「うん。これくらいなら、夕方まで頑張れば、
二人でも出来そうだよ?拡張頑張って!」
「お、マジか!やる気出た!気合入れて動かすぞ!」
「気合を入れるのは、動かす速さだけにしたら?
じゃないと、痛いわよ~?」
「脅かすなよな、フェリル!」
「にっしっし!」
二人がじゃれ合いながら、拡張作業をしている。
ここで私はフェリオス様のもう一つの魔法を真似する。
私から言えば、【音楽家】の『音楽魔法』の一つかな?
ちゃんと出来るかな?さび付いてないといいけど、と不安になる。
まずは魔法を使うための集中。
それからイメージを固める。魔力操作をする。
最後に、魔法名を唱えて、一気に放出!
「ファイア・フォルテ!」
「うお!なんだ?!さっきよりも格段と火がでかい!!」
「あの大きさはもはや炎だよ!すごい、コースケ!!」
「コースケ?今、あなた何をしたの?」
「うっ、やっぱり聞かれるよねえ…
僕の職業が関わってくるんだけど、現状では僕だけの魔法かな?」
「なるほど。職業が関わってくるのね。
なら、無理には聞かないわ…
でも、危ないことはしないでね?
今の炎も空中に向けていたからよかったけど、
地面に向けてたら、ここら一帯が火事になっていたわよ?」
「大丈夫!安全面はちゃんと考えてるから!」
「なら、いいけど…」
ふう。危なく母さんに魔法を禁止されるところだった。
さて、次はちょっと試したい魔法だ。
まずは、薪になりそうな木を拾ってこよう。
「母さん。試したい魔法があるから、ちょっと薪拾ってくるね?」
「いってらっしゃい。今度は何をするのかしら?不安だわ」
私は森に入り、薪になりそうな小枝を少し集める。
実験だし、これくらいあればいいかな?
さっさと戻ろう。森は危ないのだから。
「ただいま、母さん」
「あら、そんな量の薪でよかったの?」
「うん、試したいだけだから」
「何をするの?」
「うーん、これは分類的には『料理魔法』、かな?」
「『料理魔法』?」
「まあ、試しにやってみるね。薪を簡単に組んでっと。
…じゃあ、行くよ!んーっと、フランベ!」
「すごい炎だったけど、一瞬で消えたわね?
あら、なんだかいい香りね?どういうこと?」
「うーん、これは僕にもちょっとわからないや。
でも、僕の想像した香りだね」
そうなのだ。この料理魔法、フランベ。
私が想像したお酒の香りがするのだ。
拾ってきた木には、薫香みたいな感じでお酒の香りがついた。
たき火魔法に使えるかな?と思ったけど、ダメだったね。
炎の火力は強いけど、あまりにも一瞬過ぎる。
これじゃあ薪に火が移らない。
それに、こんなに香りがついてたら、森じゃあ使えないや。
森の動物や魔物が簡単に寄って来ちゃう。
うーん、失敗。
これは本当に料理の時に使おう。『料理魔法』なんだからね。
そして、それからもいくつか確認のために魔法を使う。
幼馴染の二人も段々と拡張作業に集中し始めたようだ。
早く魔法を使いたいらしい。
さっき使った魔法なら、見ただけでも覚えられるかな?
効果は見た目通りでわかりやすいから…
意味も含めてちゃんと教えれば、二人にも扱えそうだ。
と、ここで母さんが俺の魔力量を不思議に思ったようだ。
「昔、偉い人に言われたことだけど、コースケは本当に魔力量が多いのね。
それだけ魔法を使っても、魔力衰弱しないなんて…」
「魔力衰弱?」
「これは二人も聞いてね?
魔力衰弱とは体内の魔力が減り過ぎるとなる症状よ。
気怠さから始まって、最後は倒れたりするわ。
ひどいときは死ぬ場合もある危険な症状よ。
いくら魔力が多いと言っても過信はダメよ、気をつけてね」
「わかった、母さん。気をつける」
「それから、魔力量は年齢と共に増えるわ。増加量は人それぞれ。
成長過程で急に増える人もいれば、まったく増えない人もいる。
だけど、これを実感するの十歳を超えてかしらね?
その時が楽しみね、三人とも」
「へー、年齢でも魔力量が増えるんだ。僕はどうなるのかなあ?」
「今でも魔力量多そうだもんな、コースケは」
「国一番の魔力量になったりして、にっしっし!」
「あ、そうだ。思いついたことがあったんだった。
二人とも、ちょっと木剣で打ち合いしてみてくれる?」
「ん?いいけど、何するんだ?」
「いいわよ、ちょっと身体を動かしたくなってきたし」
「ありがとう、二人とも。
先に打ち合ってて。使う魔法は『強化魔法』かな?
僕が魔法使ってる間はしゃべれないと思うから、
止めてほしいときは教えてね?」
「わかった」
「へー、他人を強化する魔法なんだ」
「じゃあ、やるか。フェリル!」
「おう!」
私は『強化魔法』と言ったが正確には違う。
これはたぶん私だけが使える、オリジナル魔法だ。
二人が木剣で打ち合いを始める。
魔法の行き先を二人に意識してっと…
私は五線譜を想像して、一つ一つの音を意識してから、
そこに魔法の効果を、重ねるように鼻歌を歌う。
『フンフンフ~♪』
「おわっ!急に力が!」
「なんだこれ?!身体がうまく、制御できない!」
『フフフ~フンフンフ~♪』
「ちょ、コースケ!ダメだ、魔法を止めてくれ!」
「強化される力の強弱がおかしい!!」
私は二人が止めてくれというので、鼻歌を止めた。
うーん、どうだったんだろ?感想を聞いてみよう。
強化の強弱がおかしいとは、フェリルが言ってたけど…
「え?そんなに?どうだった、感想を教えて?」
「とにかく、その魔法はひどいぞ」
「急にすごい力が入ったり、かと思えば弱まるし…」
「そうだな。身体が振り回される感じだった」
「それは使い物にならないと思うよ?」
「そっかー。戦闘方面での強化はダメか。
うーん、じゃあ方向性を変えて、支援特化にしよう」
「今度は何する気だ?」
「無茶なことはしないでよね?」
「今度は二人に魔法を使ってもらうよ。
簡単なファイアだけ。何度か試しに使ってみて?
うまくいったら、僕の方を見てね。
ウィンクしたら、そのまま魔法を使い続けてみてね」
「わかったけど、魔力衰弱起こさないだろうな?」
「まあ、さっき変に動いて、身体の感覚がおかしいから、もう鍛錬はいいけど…」
「今度は僕が二人に魔力を供給する…
うーんと、池になるよ。それもとても大きな池にね?
今度も終わるときは終わるって言ってね?」
「おう」
「わかった」
私はもう一度鼻歌を歌う。魔力の向かう先は二人。
魔法の効果を意識して、歌い続ける。
『フンフ~ンフフ~ンフ♪』
「音色は綺麗に思うんだがな、鼻歌なんだよな」
「そうだねえ。よし、魔法を使ってみるよ!」
『ファイア!』
「おお!小さいけど、火が出た!」
「やった、魔法使いになれた!もっかい!!」
『ファイア!』
「このくらいじゃ、魔力衰弱は起こさないのか?」
「みたいだね。コースケもウィンクしてるから、
魔法の感覚を掴めるように、今のうちに練習しよう」
「ファイア!」
「ファイア!」
…
……
………
「結構、魔法を連発したのに、まったく疲れないな?」
「たしかに。これはコースケの魔法に秘密がありそうだね。
おーい、コースケ。もう終わっていいよー」
「…今度はどうだった?」
「身体に変な力が入ることはなかったぜ?」
「うん。魔法が何回も使えて楽しかったーってくらい?」
「そっかそっか。じゃあ、これの方向性は出来たね。
今後はそっち方面で活躍してもらおう」
「どういうことだ、コースケ?俺には意味が分からんぞ?」
「私たちが魔力衰弱起こさなかったのは、コースケのおかげ?」
「うん、そうだよ。二人にずっと僕の魔力を使ってもらってたんだ」
「え?!大丈夫なのか、コースケ?」
「私たちがずっと、コースケの魔力を使ってたの!?」
「うん。だから、二人は自分の魔力を使ってないから、
まったくと言っていいほど疲れてないの。
普通だったら、たぶんとっくに倒れてるよ。
夕方になって許可が出たら、それも確認してみるといいよ」
「コースケが大丈夫ならいいが、まったく…」
「コースケ、万能説出てきた」
その後の二人は、真面目に夕方になるまで拡張魔法を使っていた。
その結果、母さんから魔法の使用許可が下りた。
私は後半、薪拾いを少しして、また魔法の実験をしていた。
使えるかどうか、効果はどういうものなのかなどの確認を。
母の監視の下、二人がいよいよ自分の魔力で魔法を初めて使う。
『せーのっ、ファイア!』
「二人とも魔法の使い方がうまいわね?
私が目を離した隙に、魔法を使ってたんじゃないでしょうね?」
「そ、そんなことないですよ?」
「そ、そうですよ。やだなー!」
「ならいいけど。
じゃあ、軽い魔力衰弱が出るまで、魔法を使って、
自分の限界が、今どれくらいかを把握しなさい。
これも大事なことよ?」
「わかりました、ファイア!」
「限界を把握ですね、ファイア!」
「ちょっと疲れが出てきた程度でやめるのよ?
歩いて帰れなくなるわよ?」
「それはいやだな、ファイア!」
「ちゃんと途中でやめなきゃ、ファイア!」
「まあ、さすがに初日じゃこんなものよね」
「な、何で…」
「疲れるのが、思ったよりも早い…」
「最初はそんなものよ。精進なさい。
あとはコースケが二人に、見せたいものがあるらしいわよ」
「二人がいつかこの村を出ていって、野営するときに、便利な魔法を用意したよ。
あとで説明はするから、今はちゃんと見ててね?」
「お、おう…」
「見てるだけなら、まだ楽…」
私は薪を組んでから、その魔法名を唱える。
将来二人の役に立つ、『たき火魔法』だ。
「ファイア・アッチェランド」
「おお」
「たき火に使うための魔法?」
「そうだよ。段々と火の勢いが強くなるでしょ?
でも、そろそろかな?魔法の火の勢いは弱くなるはずだよ」
「ホントだ。すごい!」
「これなら簡単に火を起こせるね、いい魔法だよ!」
「今のを見て分かっただろうけど…
段々と魔法の火の勢いが強くなって、最後は消える。
でも、薪には火がちゃんとつくの。
魔法名につけた『アッチェランド』には…
『強く、または、早くなって、終わる』って意味があるの。
正確には違うけど、二人に分かりやすくするために調整したんだ。
だから、この『ファイア・アッチェランド』を覚えてね?
二人のために、作ったんだ」
「ありがとよ、コースケ」
「ありがとう、コースケ」
「それじゃあ、今日は解散よ!また明日も同じようにね?」
「え?母さん?
また明日も同じように、家事の手伝いするのは嫌だからね?
聞いてる?ねえ!母さん!!」
二人はこのかけがえのない友人を大切にしようと思った。
競い合うライバルではある。
だけど、大事な友人の残した弟だ。
こんなにも温かい火をくれたのだ。
この魔法はしっかりと覚えよう。そう、二人は誓った。




