座学、魔力感知と魔力操作
魔力血管自動拡張魔法(長いから拡張魔法とでも呼ぼうかな?)を使った翌日の午前中である。
私はポリルとフェリルの家の家事をしている。
なぜこのような状況になってるんだ…
昨夜、突然母から
「明日は家事が終わったら、ポリルとフェリルも呼んできなさい。
魔力と魔法に関しての座学をするわよ」
と突然言われたのだ。
そのため、我が家の家事をサクッと済ませて、二人を呼びに行った。
家が近いポリルから回り、「家事の手伝いがあるから」と言うので、
家事を手伝って、ポリルの家の手伝いを終わらせた。
その後二人でフェリルの家に行き、同じように家事を手伝って、手伝いを終わらせた。
私は二人を連れて、家によろよろと戻ってきたところである。
いや、どう考えてもおかしいでしょ。
なんで三家分も家事の手伝いしてるのだ、私は。
なんか親同士で結託されて、騙されている気がしてきた。
おかしい、二人を呼びに行っただけのはずなのに…
そして、今に至るのだ。
「コースケ、拡張魔法は速度を自由に決められるんでしょ?
なら、座学の間は限界直前までの速度にしておきなさい。
少し話が長くなるからね。時間を無駄にしないでね?」
「はい…」
「拡張魔法?なんだそれ?コースケまたなんかしたのか?」
「静かにしろ、ポリル。リーンさん、めっちゃ睨んでるから!」
「ポリル?無駄話はよくないわ。ええ、よくないわ。
時間は有限ですもの。効率よく、大切に時間を使いましょ?」
「お、おう…」
「返事は『はい』よ?わかったわね?二人とも」
「は、はい!」
「はい!」
「よろしい。それでは魔力と魔法の座学を始めます。
まずは魔力からですが…
今までのことをかいつまんで説明なさい、コースケ」
「は、はい!」
なぜ私がここまで緊張して、魔力について説明せねばならんのだ。
くっそぅ、誰だ!母さんのスパルタスイッチ入れたの!?
私だよ!!救えねえ…
っと、いつまでも思考に流されていてはいかん。
ほら、言葉に詰まってると見られて、母さんが睨み始めたぞ!
私はすぐに言葉をまとめて説明する。
「魔法を使うためには、まずは『魔力感知』を行います。
自身の魔力を感じなければ、魔法は使うことができません。
魔力感知は説明だけでは難しいです。
ですが、『想像力』でそれを補うことが可能です。
今回はそれも踏まえて説明します」
「ふむ。続けなさい」
「はい。まず、魔力の発生場所と思われる胸元の器官を『魔臓器』と僕は呼んでいます。
その魔臓器から植物の根っこのように『魔力血管』が全身に伸びています。
魔臓器から魔力血管、その魔力血管は手や足を通り、再び魔臓器に戻ってきます」
「いいわね。私の説明をさらに分かりやすくしているわ。
名前を付けているところが、特に。続けなさい」
「オホン。この魔臓器から全身にかけて通る魔力血管。
現時点の子供の魔力血管は『狭い』のです。
魔力血管が狭ければ、扱える魔力も少ないです。
そのために魔力血管を『拡張』します。より多くの魔力を扱うために。
これは魔力感知の次に行う、『魔力操作』に関連します」
「ふむ。それで?」
「魔力操作とは、魔臓器から発生する魔力を体外に、
魔法という形で放出するために、必要な『技術』です。
これは出来得る限り、『無意識に出来る』ように訓練するべきです。
その魔力操作で扱う魔力ですが、魔力血管内を通る『魔力の一部』しか利用できません。
これは生きるために、魔力は『必ず』全身を巡っていなければ、
ならないという縛りから来るものです。
魔力をなるべく十全に使うためには、先ほど説明した魔力血管の拡張が関わってきます。
子供の魔力血管は現時点では、限りなく細く狭いです。
それを拡張するため、魔力血管を広げる大きさの魔力の塊を全身に循環させます。
この際、無理な大きさの魔力の塊を魔力血管内に侵入させると、
魔力の塊が魔力血管内に詰まって激痛を伴います。
なので、魔力血管をやや広げて通る程度の大きさに魔力を抑えるべきです」
「無理は禁物よ?ただただ痛いのは嫌でしょ?」
「お、おう。じゃない、はい!」
「はい!魔力を全身に巡らせるとき、痛いのはわかった!
拡張にコツはあるの?」
「コースケ、続きを」
「はい、母さん。
魔力の塊をなるべく速く、魔臓器から全身の魔力血管に通し、魔臓器に戻す。
このとき、魔力血管を擦りながら広げる程度の大きさの魔力の塊にします。
欲張ると痛いので、少し広げるだけにして、循環させる速度を上げたほうが効率的です。
これを繰り返すことで、魔力血管が広がります。
魔力血管が広がることで、より多くの魔力を扱うことが出来、
高火力の魔法を扱えるようになります。
以上で、現時点での魔力の説明を終わります」
私は今、自分に出来る魔力の説明を、なるべく無駄を省いて説明した。
これ以上、無駄を省くのは厳しいだろう。
要点を抑えてかつ、自分の経験も交えての説明だ。
少々説明が長かったけど、ほとんどは昨日の話だ。
それを二人のために、わかりやすく説明したのだが…
母さんからは納得の声があがるが、二人が燃え尽きている。
「私も納得の説明よ、コースケ!完璧だったわ!」
「あの、でも、母さん?二人が真っ白になっていますよ…?」
「魔力、魔法、扱う、難しい…」
「(ぷしゅう~)」
「あなたたち!しっかりなさい!まずは魔力感知からよ!」
「ハッ!?よくわからないけど、わかりました!!」
「まりょくかんち、まりょくかんち。あはは~!」
「母さん、フェリルが壊れた…」
「もう、フェリル!しっかりなさい!」
『バチン!』
「いひゃい!!」
「うわ…」
「あれは痛いぞ…」
母さんがフェリルの背中を力いっぱい手のひらで叩いた。
ものすごい音がした。あれは痛いだろうな…
「ハッ!私は何を…」
「フェリル、これから魔法を使うための技術を教えます」
「はい!リーン先生!」
「あーっと、それなんだけど、母さん…」
「なあに、コースケ?」
「二人には僕が使った感知魔法を教えてもいいかな?」
「ああ、説明していたわね。それじゃあ、よろしく」
「二人とも、大丈夫?」
「おう、もう意識はバッチリだぜ!」
「私も大丈夫よ!」
二人の意識も戻ったみたいだし、これなら私の説明にもついてこれるだろう。
私は地面に図を描きながら、魔力感知の説明をする。
「じゃあ、説明するね。
とは言っても、まずはこの図を頭に描くだけだけどね」
「この絵をか?」
「簡単じゃん」
「簡単に思うけど、正確に、ハッキリと、思い浮かべてね?
胸元にある『魔臓器』から伸びる管が全身に、
根っこのように伸びているのを想像するんだよ」
「うっ、急に難易度が上がった…」
「うーん、胸元に大きい池があって、
そこからたくさんの川が流れてる想像でもいいの?」
「うん、フェリル。想像はなんでもいいよ。
でも、その想像だと大きな池に川の水が戻ってこないんじゃないかな?」
「ホントだ。川の水が戻ってこない。根っこの方がわかりやすいね。
ちょっと草むしってくる」
「そのまま裏庭の草抜きをしてちょうだい、二人とも」
「げっ」
「えっ」
「母さん、今は二人の魔力感知を優先させてね?」
「はあい、ごめんなさい」
「お、俺も草むしってくる!」
フェリルがイメージするために草をむしりに行った。
それを追いかけるようにポリルが走る。
二人ともしっかりとイメージ出来るといいんだが。
しばらく、二人とも根っことにらめっこをしていたようだが、
ちゃんとイメージは出来たかな?
「二人とも、根っこのイメージは出来た?」
「ああ、出来たぜ!」
「私も出来た!」
「根っこの伸びているところを胸元と想像してごらん。
その胸元から魔力が出てきて、根っこを通って胸元に戻る。
そんな風に想像しながらさっきの図を思い出してね?
きっと、感知魔法が頭に浮かぶはずだから」
「おわあっ!なんだこれ!?」
「私も!なんか変なのが浮かんだよ!?」
「ふう。感知魔法は成功のようだね。
魔力が胸元から流れて、全身を巡って戻るのがわかる?」
「おう、これならわかるぜ!」
「光っているから、わかりやすい!」
ふう。第一関門をようやく突破だね。
このあとの魔力を操作する方法、どうやって教えようかな。
『ドローン』なんて言っても通じないだろうしなあ。
ここで母さんが魔力感知が出来たことに気付く。
「あら、コースケ。二人は魔力感知は出来たの?」
「うん。問題は魔力操作なんだけど…」
「教え方に困っているのね?任せなさい!」
「大丈夫かな?」
母さんは家の中に戻り、何かを持ってきた。
黒い石と丈夫そうな麻袋?
なんだろうか、一体。
「準備はいいかしら、二人とも?」
「は、はい!」
「だ、大丈夫です!」
「緊張しなくてもいいわ。まずはこの石を麻袋に入れます。
この後の様子をよーく観察していてね?」
「おお!麻袋になんか黒い砂がついてる!!」
「それもたくさんよ!!」
ああ、なるほど。あの黒い石は『磁石』か。
砂鉄が麻袋にくっつく姿を見せたいんだな?
そして、麻袋の中の磁石を取り出す。というか離す。
そうすることで、砂鉄が麻袋から離れると。
この世界ならではの教え方だな。
それにしても、磁石なんてよくあったな。
それもあの大きさで。あの磁石、拳大はあったぞ。
「麻袋の中は、こうなっているわ。覗いてごらんなさい」
「麻袋の中には、さっきの石か」
「この石が、黒い砂を引っ張っているのかしら?」
「その認識で合っているわ、フェリル。
そして、この石を麻袋の中から取り出すと…」
「おお!?黒い砂が麻袋から離れて落ちた!」
「これが、魔法って形で放った後なんですね。
さっきまでの状態が、魔力を操作してる状態で」
「フェリル、よく出来ました!偉いわよ~?」
「ふふん、どうよ。ポリル!」
「俺も今のを見て、聞いて、ちゃんと理解出来たっての!」
「僕からも説明するね。今のを踏まえてね」
「おう、頼むぜ!」
「うん、今度は身体の中だと、どうなっているかを知りたい!」
私は先ほどの磁石にくっついていたのを『砂鉄』だと教える。
その砂鉄が魔力。
黒い石、『磁石』として引っ張っている状態を魔力操作とする。
魔力操作で、魔力血管内の砂鉄、魔力を動かして、魔法として放つ。
ここまでが魔法の放出現象だと説明する。
二人はちゃんと理解できているようで、頷いている。
さあ、ここからだ。
魔力操作で根っこの内側、魔力血管内で魔力を集める。
それから、魔力血管内の魔力を移動させる。
そして、根元に戻す。
説明だけじゃあわかりにくいだろうから、麻袋と磁石を使う。
先ほどのように麻袋の中に磁石を入れる。
この状態で、砂鉄を集める。
ここまでが魔力血管内部での、魔力を集める動きだと説明する。
ここから、麻袋内部の磁石を動かす。
砂鉄が動いた!と驚く二人。
これが血管内部を移動する魔力だと説明する。
この動きをあちこちに行き渡らせて、胸元に戻す。
この一連の流れが、魔力操作と魔力血管の拡張だと説明する。
二人はよくわかったという。
実際に二人にも、磁石を持って砂鉄を動かしてもらう。
その方がイメージはしやすくなるだろうからね。
注意事項も忘れない。
「二人ともいいかな?
さっきも説明したけど、魔力血管を拡張するとき、
一度に多くの魔力を通そうとしたらダメだからね?
たぶん、ものすごく痛いよ?」
「お、おう。わかったぜ…」
「う、うん。気をつける…」
「魔力を集めすぎたなってときは、
さっき持った石を、麻袋から取り出す想像をするんだよ?」
「なるほど。そうすれば痛くないのか」
「わかりやすいね、こうやって実際に見ると」
「だろうね。母さんがよく、こんな石を持っていたものだよ」
「それは昔、鉄を砂から作るからって言って、
私たちに持たせて走り回せたのよ。あのドンの馬鹿が…
今でもあれだけ走り回って出来た鉄が、あんな小さなものだったのが許せないわ…」
「そ、それは…」
「苦労したんですね、リーンさん」
それから始まる愚痴という名の思い出話。
とりあえず、二人も魔力感知と魔力操作は出来そうだ。
今日の午前中はこれでおしまいだろう。
最後に一度、魔力を魔力血管内に通らせて、
魔力血管の拡張を、試しにやってもらったら、終わりだ。
ふう。母さんがいてよかったような、つらかったような…
そんな午前中だった。
午後は鍛錬をしてから、魔法の実験だな。
魔法を使うのは家の前で、母さんに見てもらおう。
もう魔力血管の拡張もそれなりに広がっただろうからね。
午前中フルで循環させてたから、拡張はバッチリだ。
これなら少しくらい魔法を試しても問題ないはずだろう。