魔力訓練、母の教育
鑑定の儀を終えて、村に帰ってきた。
ポリルの父親が豪語した通り、三家分の夕食の獲物を取っていた。
正直なところ、ちょっと多いくらいだ。いつもより食べたなあと感じた。
夕食後に、母に以前約束していた話をする。
「母さん、鑑定の儀終わったよ!
早速明日、魔法を教えてよ!!」
「そうねえ。もう寝るだけだし、ちょっとだけ教えましょうか?」
「何を教えてくれるの?」
「まずは自分の魔力を感知するところからよ。
母さんの感覚で悪いけど、人は全身に根っこが張っているのよ。
胸のところから魔力が出て、全身の根っこに魔力を送っているの。
ここまではわかるかしら?」
「全身に根っこ?血管ってことかな?
それに胸から?心臓ってことか?
…うん、わかったよ!」
「ブツブツと呟いていたのが何か気になるけど、今は無視するわ。
その胸から発生する魔力を感じてみなさい。制限時間は眠るまで!」
「え?いきなりそんなこと言われても!?」
「まあ、母さんの教えで、魔力を感じなかった人はいないわ!
あとはあなた次第よ、頑張りなさい」
「急に放り投げられた!?ええい、やってやる!!」
「ああ、そうそう。身体は先にお湯で拭いちゃいなさい。
どうせ、このあとはすぐ寝るんだから」
「わかった!」
私は言われた通り、お湯で湿らせた布で、
今日一日の疲れを落とすように、身体を拭う。
それから、身体が大きくなってきたからともらった、
自室のベッドで集中することにした。
胸元から魔力が発生している?
胸に手を当てて、目を瞑る。トクントクンという鼓動が聞こえる。
この鼓動に合わせて発生しているのかな?
心臓から全身の血管に魔力が送られているイメージ…
んん?今、イメージしたら、それっぽい何かを感じたぞ?
もしかして今、無意識に魔力を探る魔法を使った?
もう一度イメージしよう。鼓動に合わせて心臓から、
全身の血管に魔力が送られていくイメージ…
おぉ、頭に気持ち悪いほどの全身の血管図が浮かんだ!
これは魔力血管と名付けようか。そのまんまだけど。
…うーん、胸元にあるのは、魔臓器だな!
命名がややストレートな気もするが、別にいいだろう。
魔力は一応、感知出来たと言っていいのかな?
この魔力、今は魔臓器から出て、魔臓器に戻ってる。
魔法という出力をしないといけないんでしょ?
じゃあ、この魔力を操作できないとまずいんじゃない?
うーん、動くかな?これもイメージするべきか?
魔力を捕まえて動かすイメージ…
捕まえて動かすじゃダメみたいだな?
魔力を捕まえても、指の隙間からこぼれていくようだ。
魔力の塊をドローンみたいに遠隔操作するイメージにしよう。
うん、全身を巡る魔力の塊の一部を操作出来た。
でも、魔力の塊の一部なんだよな、これ。
全部を操作って出来ないのかな?
あれ?これ、ヤバい、たお、れる…
気が付いた時には朝だった。
あれ?昨日は何してたんだっけ?
魔力の感知の仕方を教わって、感知が出来たから、
次に魔力の操作をしようとして、動かせたのが一部だったから、
全部を動かそうとして気を失ったのか?
もしかして、魔力は全身を巡ってないといけない?
もう一度魔力を集めてみよう、と思ったら、
「コースケ、起きた?朝ごはんよ?」
「え?あ、ごめん。忘れてた!」
「何してたの?朝ごはんを忘れるなんて…」
「あのね…」
そして、私は昨夜のことを話す。
父は呆れて笑っている、母は俯いている。
あれ?私、何か失敗した?
母さんの雰囲気がまずいんだけど!?
「コースケ!今後、私の許可なく魔力操作はしないこと!
いいわね!!命の危険もあったところなんだからね!?」
「え?僕、知らないうちに、そんなことしてたの?!」
「俺も同じことやって、同じように怒られたぞ」
「父さんも!?」
「親子そろって、同じことするなんて!まったくもう!!」
「まあ、ちゃんと理解した時には、自由許可が出る。
それまでは己の未熟さを呪うんだな、はっはっは」
「コースケ?どういう理由で魔力の扱いもよくわからずに、
許可もなく、そんなことをしようとしたの?」
「その、操作出来る魔力が一部だけだったから…」
「あっはっは、ここまで俺と似るなんてな!面白いもんだ」
「はあ、もう言わなくてもわかっているでしょうけど、
人は魔力が途切れちゃダメなの。
全身に魔力が常に巡らせる必要があるのよ」
そこからの母さんの説明はこうだ。
魔力は全身に循環していないといけない。
そして、操作できる魔力は巡っている魔力の一部だけ。
使える魔力はその一部だけになる。
必然として扱える魔力が少ないため、魔法の威力も落ちる。
それはなぜか?
魔力の通る道、つまり魔力血管だ。
魔力血管が細いからだという。
大きな魔力を扱うためには、この魔力血管を広げないといけないらしい。
魔力血管が広がれば、大きな魔力を扱え、高威力の魔法を使うことが可能になる。
そのために一時的に魔力を集めて、魔力の塊を魔力血管に流して、
全身の魔力血管を広げていく必要があるとのこと。
魔力血管が広がれば、魔臓器から送られる魔力量も増えるようだ。
私が魔力の塊を魔力血管に詰まらせて、倒れたのもそれはそうだと言える。
スタート地点から魔力血管が細いのだ。
そこを広げれば、送られる魔力は増える。
よって、扱える魔力も増えるということだ。
私にはジンから贈られた大量の魔力がこの身体に宿っている。
あとは魔力血管を広げ、魔力の扱い方を学べば、どんなことでも出来るはずだ。
創造神フェリオス様は、魔法は自由だと言っていた。
魔法の使い方も見せてもらえた。早く魔法を使いたい。
よし!そうとわかれば、あとは簡単だ。
魔力の通り道をどんどん拡張していくだけだ。
と、ここで母から注意が入る。
「コースケ?今、魔力を広げようとしてるでしょ?」
「は、はい」
「許可なく魔力操作は厳禁。それと、朝食を食べなさい。
せっかく美味しく作ったのに、冷めちゃうわ」
「あ、ごめんなさい…」
「わかればいいのよ、コースケ。
魔法で浮かれるのはいいけど、足元を疎かにしたらダメよ?」
「はい…」
「ここまで行動が俺と完全一致していると、少し怖いな」
「そうね。その分、私は次の予測が出来るからいいのだけど…」
朝食を食べ終え、早く魔力訓練をしたいため、
片付けや洗い物の手伝いをする。
地球では一人暮らししていたのだ、これくらいは余裕だ。
「コースケの行動がアルフと同じだけど、
内容がまったく違うわね。ふふっ」
「どうせ、俺は家事は出来ませんよっと。
夕飯の獲物を取ってくるよ」
「不貞腐れないの。いってらっしゃい、あなた」
人が洗い物しているときに、いちゃいちゃしないでほしいね。
それも、ちゅって音がしたぞ。ちゅって。っけ!
前世、独り身だった身としては、うらやまけしからんね!
と、ブツブツと愚痴を言って、洗い物を終えると、次の指示が出される。
「洗い物は終わった?じゃあ、次は掃除ね?」
「え!?もしかして、家事が全部終わってから、魔力訓練なの?」
「そうね?それもいいわね。親孝行と思って、母さんを手伝って?
これから先、家事が出来るように教えるから、ね?ね?
私も楽ができるから、いいわね!」
「最後に本音が漏れてるよ、母さん」
「あらやだ、うふふ」
まあ、一人暮らししていたから、以下同文。
さっさと家事を終わらせよう。
そうして、あっという間に家事を終わらせた私。
母は呆然としている。
「あらま、すぐ終わっちゃった。
教える事なんて、ほとんどなかったわね」
「じゃあ、母さん。魔力訓練をしよ!」
「はあ。じゃあ、その椅子を持って裏庭に行きなさい」
「ん?椅子を持って?よくわからないけど、はい!」
私は言われた通りに、椅子を運ぶ。
母は何やら縫物をするようだ。籠に糸と服を入れて持っている。
私は地べたに座れと言われた。
座り方は自由だが、なるべく集中できる座り方と言われた。
なので、座禅をする。
「なあに、その座り方?それで集中できるの?」
「うん、できるよ。それで、どうすればいいの?」
「さっきも言ったけど、魔力の通り道を広げるのよ。
でも、広げるからと言って、大きな魔力で広げようとすると、
激痛が伴うから注意よ。じわじわと広げるのよ。
コツはあるけれど、自分で気付くかもしれないからまだ言わないわ」
「わかった、痛くないようにじわじわとだね?」
私は集中して、魔力血管を通る魔力を少し集めて塊にする。
魔力は魔力血管の流れに逆らえない。
痛くないようにギリギリの大きさで、魔力の塊を魔力血管内に進める。
うっ、ちょっと魔力を集めすぎたかも。
中々、魔力血管内を魔力の塊が通らない。
無理に前に進めようとすると痛い。肌を爪で抓られてるような痛みだ。
これくらいならまだ我慢できる。とにかく一周させよう。
ふう。なんとか魔臓器まで戻して、魔臓器から出て一周させたぞ。
うーん、さっきは魔力を集めすぎたな。
ちょっと魔力は多いくらいで、早く動かしてみよう。
その方が効率的かもしれない。
魔力血管をこすって進む程度の魔力を、集めて、それ!
おお!さっきよりも全然早く一周できた!
魔力血管も少しだけど、ちゃんと広がったみたいだ。
それじゃあ、さっきより魔力は増やして、ぐーるぐるっと。
うん、これなら早い早い。それっ、ぐーるぐるっと…
「あら、もうコツに気付いたのね。案外早かったわね?
アルフよりは柔軟な対応力ね。よかったわ、少しは私に似ていて」
「母さん、僕を馬鹿にしてる?」
「まさか!そんなことしてないわよ!もう、拗ねないでよ~」
「ふんだ!」
それにしても、このぐるぐると魔力を全身に回すの。
意識してやるの面倒くさいな。自動でやってくれないかな?
昨日の魔力血管の全身図みたいに、魔法でどうにか出来るかな?
うーん、まずはイメージするために設定からしてみよう。
ちょっとプログラミングみたいだ。
魔力を動かすのをやめて、自動で動いてくれるように設定を考える。
開始位置を魔臓器にして、魔力血管内を魔力の塊が少し擦れる程度に、
魔力の塊の大きさを設定して、魔力血管内に魔力を流す。
魔力が開始地点の魔臓器に戻ったら、流す魔力の大きさを、
先ほどよりやや大きくして、魔力血管内に魔力を流す。
それを繰り返すように設定する。
エラー検知として、痛みが走ったら魔力の塊を散らすように設定して、
私に知らせるようにすることを挟んでおく。
これで、無理な魔力の循環も止めてくれるだろう。
よし、こんなもんかな?
イメージは出来た。あとは脳内のスイッチを押すだけだな、ポチッとな。
最初は私も魔力の動きを確認する。おー、動いてるね。
動く魔力の速度設定をしなかったけど、自動で動くならこんなもんでしょ。
魔臓器から魔臓器まで魔力血管を拡張しながら、魔力の塊が動く。
魔臓器まで戻ると、流す魔力の塊を大きくして、また魔力血管内を流れる。
うん、これで少し様子を見てみようかな?
っと、その前に母さんに見てもらわないとね。
「母さん、母さん。僕の魔力の動きを見てみて」
「なあに?あら、魔力が不思議な動きをしてるわね。
一瞬胸元に魔力が止まるけど、すぐに少し大きくなって動き出してる」
「よし、うまくいった!」
「コースケ、何かしたの?」
「ん?自動で魔力血管を広げてくれないかなって思って魔法を組んでみたの。
ちゃんと動いてるみたいだから、昼からはポリルたちと鍛錬していい?」
「え?ちょっと待って、コースケ。理解が追い付かないわ。
自動でって、そんなことが魔法で出来るの?」
「実際、僕は出来てるでしょ?論より証拠って奴だね」
「論より証拠?たしかにそれはそうだけど、身体に異常はないの?」
「うん、ないみたいだよ。
特に意識しなくても、魔力はずっと動いてるみたい」
「え、ええ。あなたの中で動き続けてる魔力を検知できるわ」
「へえ、母さんは検知なんてのも出来るんだね?
今度、それも教えてよ!
それで、この広げるのはいつまでやればいいの?」
「これは、育成方針を考え直さないとね…」
「どうしたの、母さん?」
「はあ。今日一日はそれで過ごしてみなさい。
異常がないか確認だけはするわよ。
確認が取れるまでは鍛錬は禁止ね」
「え?安全がわかるまで鍛錬禁止なの?そんなあ!?」
「まあ、大丈夫よ。今の調子なら問題ないわ。
異常がなかったら、明日から午前中は家事をしてから魔法訓練よ。
内容は、新しく何か考えておくわ。
午後はポリルたちと鍛錬してきなさい。
あなたたちにとって、鍛錬は遊びのようだし、しっかり遊んできなさい。
そういえば、あの二人の勉強もあなたが見てるって言ってたわね。
板を用意させるから、あの子たちが躓いた部分とか困った部分、
それを解決した方法とかをあの黒い棒で板にまとめなさい。
いいわね?あの二人をそのまま育てあげなさい」
「うっ、なんか色々増えた…」
「あなたが悪いのよ、コースケ?」
母の教育スイッチを押してしまったようだ。
母のスパルタ教育が止まりそうにないかも。
父さん、助けて!母さんが止まらないよ!!
「さすがにそれは、自業自得だろ。諦めろ…」
そんなあ!?




