魔法の理、選択の責任
『では、君には【音楽家】の職業に就いてもらおうか』
やっぱり…
私の前世の人生でしてきたことと、今世でしてきたこと。
比べるもなく、比重は前世の人生の方が上になる。
なので、今までしてきた経験を基に職業を決めるのであれば、
必然的に【音楽家】になりますよね、神様?
だが、私は魔法が使いたいのだ。そこを聞いてみる。
「【音楽家】が職業なのはわかりますが、
私は魔法という不思議な力を使ってみたいのですが…」
『君の場合は問題なかろう。
一例を見せてやろう。たとえば、フォルテだったか?
『強く』と言う意味が、その言葉にはあるであろう。
私にはあまりイメージできないが、こんなものか?
『ファイア・フォルテ』』
フェリオス様が呟いた魔法名。
『火や炎などが着火する』という意味と『強く』などという意味。
そして、実際に発生した炎は力強い炎だ。
『そして、これが通常の『ファイア』だ』
次に呟いた魔法名では、本当に小さな炎が一瞬ボッと燃えただけだ。
この違いは…
『わかったか?魔法は基本的に『想像力』だ。
だが、しっかりとしたイメージを形に出来なければダメだ。
君にはそれが出来るだろう?【音楽家】としてな』
たしかに、私には音楽用語として、その手のイメージは簡単に出来る。
想像力が、魔法の基本…
私にはその想像力が、地球のゲームでも身についてる。
魔法はつまり、自由…
ブツブツと呟いていたのだろう。フェリオス様が言葉を拾う。
『その通りだ。魔法は『想像力』であり、『自由』でもある。
それが、この世界での『魔法の理』だ。
まだこの世界の住人では難しいだろうが、いずれは無詠唱も可能さ。
この理には、それだけの可能性を秘めているんだ。
詠唱が素晴らしいものだと語る哲学者もいるだろう。
だが、詠唱など所詮イメージを固めるための不便な道具だ。
この魔法の理を知ってしまえば、馬鹿馬鹿しくなるだろう?
詠唱魔法だなんて、自分たちで可能性を狭めている理論だよ。
神聖さと彼らは言うが、私からすればそんなものに神聖さはない』
「想像力、自由、魔法の理…」
『君の【音楽家】としての力は、正直に言ってあまりにも危険だ。
『魔法の理』に必要な『想像力』を一気に鍛えてしまうからな。
そこからは『自由』な発想で、好きなだけ魔法を堪能できる』
「それはたしかに。自分がもし使うとしたら、教えるとしたら…」
『その能力が君の【音楽家】には含まれている。
だから、君は自身の力の使い方には十分気をつけたまえ』
なるほど。私が他人に教えて鍛えることは場合によっては危険なのか。
でも、私自身が使う分には、私を助けてくれる力にはなると。
これは母に魔法の使い方を教えてもらったら実験だな。
私独自の魔法の使い方がたくさんありそうだ。
『君の魔法の使い方を見せてあげたし、魔法の理も教えた。
君の職業の危険性も理解してくれたようだ。
あとはそうだな?兄の遺言はちゃんと覚えているか?
前へ進めという言葉を。決して、忘れるな。
決して歩みを止めず、前に進む者にこそ活路は見出される。
それが君たちが選んだ道だ。
それでは、待たせている二人の下に帰るか?
外では時間はそこまで経っていないが、
神官が訝しむくらいの時間は経っているはずだ』
「兄の言葉、しっかりと胸に刻みました。
ありがとうございます、フェリオス様。
そうですね。そろそろ帰らないと二人が心配しそうです」
『では、送ろう。さらばだ。君のことは見守っておいてあげよう』
フェリオス様の言葉が言い終わり、
私が目を瞬いたときには、元の儀式の間だった。
「大丈夫かね?少し長めに水晶に触れていたが…」
「あ、はい。大丈夫です」
「出口はあちらだ。ついてきなさい」
出口は別口なのか。このまま帰れるのかな?
特に職業について、聞かれることはないのか。
神殿内の廊下を歩いている時に、その疑問は定番なのか、
神官が過去の話を交えて教えてくれる。
「なぜ職業を聞かないのかって顔をしてるね?
その昔、特別な職業に就いた子を王宮が、
親元からその子を離して、教育しようとしたのだ。
だが、その行為が神の怒りに触れてしまい、
教育と言う名の体罰を行っていた家庭教師に、
空から裁きの光が降ってきたのだ。
その家庭教師は灰になって、風に吹かれて消えた、
と言い伝えられている。
以来、教会で職業を聞いて、無理やり連れていく、
などという行為はなくなったのだ」
「へー、そんな過去があったのですね…」
空から裁きの光、か。雷のことだろうな、きっと。
無理やりでなければいいのか?
「君はとてもわかりやすいな。その通りだとも。
無理やりでなければ、神の裁きは発生しない。
自分で選んだ道だからという意味があるのだろう。
選んだ以上、責任は自分で取るしかない」
「選んだ、責任…」
「今は深く考えなくてもよろしい。
君のような年齢なら、時流に身を任せてもいいだろうからね」
私は今後どうしたいのだろうか…
その辺りをしっかりと考えなくてはいけないときが来るだろうか。
でも、兄の遺言は忘れてはいない。フェリオス様の言葉も。
前へと進め。決して、歩みを止めるな。
前へと進む者にこそ、活路は見出される。
やや歩いて、もうすぐ出口だ。
出口の先には、みんなが待っている。
「さあ、君の保護者と友人たちが待っているようだ。
行きなさい。君の行く道に幸あれ」
「ありがとうございます」
私は駆け出す。今は何も考えないでおこう。
兄の遺言を胸に抱いて。
このまま前を向いて、しっかりと歩いていこう。
作中で詠唱魔法を悪しざまに言ってますが…
私はどっちの理論も好きです。
自由な発想、想像力で使う魔法もよき。
古くから伝わる詠唱を研究するもよき。
あなたがイメージする『魔法』とはどんなものですか?