表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【更新停止】異世界音楽家  作者: 物部
プロローグ
1/29

プロローグ

趣味で書き始めました、完結するまで書けるかわかりませんがよろしくお願いします。


2023/1/25

再開、再構成中。

プロローグはすべて書き直しました。

物心がついた小さな頃から音に敏感だった。




幼稚園で、歌の練習中にピアノの音を覚えた。

物音がすると、あの音だねーと何気なく先生に報告した。

それから先生に音階というものを教わった。

ピアノを弾き、

「この音はね、『ド』っていう音階なのよ」

という簡単な教えの繰り返しだった。

先生も『あの音』という表現を正そう、という程度の気持ちだったのだろう。

だが、私は正確に音階を覚えた。


小学校に上がって、音楽の先生と六年間の付き合いをした。

低学年の頃から、私の才能を見抜き、丁寧にピアノを教えてくれた。

休み時間も自由に音楽室のピアノを使わせてくれた優しい先生だ。

音楽室はいつも私の遊び場だった。

友人たちからも、あれ弾いてこれ弾いてと頼まれては弾いてあげた。

私も面白がって、音を覚えて弾いていた。


卒業する時にはお世話になったからと、先生の下に挨拶に向かった。

「あなたはこれからきっと、多くの人と関わるでしょう。

その中で多くの人を喜ばせ、感動させることになります。

それは私にとって誇りとなるでしょう。

あなたを育てたのは私だ、と言えるのですから」

と、冗談めいたことを言ってくれた。


私が仕事に就いて、ゲームの背景音楽を作り上げて、

本当に多くの人を感動させたとき、一番に喜んでくれたのは先生だった。

先生は私の実家の連絡先を知っていたので、一報を入れてくれたのだ。

それから、現在の連絡先を交換して、飲みに行った。


飲みの席で先生は私のことを語ってくれる。

「君には音楽の才能があると思っていました。

けれど、その才能がまさか作曲にもあるとは思いませんでした。

当時言った言葉に嘘はありませんが、ここまでとは思わなかったですね…」

と、苦笑いしていた。


私も同じように語る。

「先生からピアノを学び、私は楽しかったです。

音楽室で友人たちに囲まれ、あれ弾いてこれ弾いてとせがまれていました。

まさか、それがここまでになるとは、私も思ってもいませんでしたよ」

これは私の本音だ。


あの少年がここまで大成するとは、周囲の人たちは誰も思わなかっただろう。

大学時代の友人からは連絡はあったが、小学生の頃の友人たちからの連絡はない。

少々寂しいな、と切なくなったものだ。


先生と飲んだ後の別れ際、

「君は教えるのもうまかっただろう。

誰かに教えて過ごすのも悪くないものだよ?

それと、誰かいい人と結婚したまえ。

私のように独身のままじゃ、仕事漬けで寂しくなるよ?

それじゃ、よい眠りを。またいつの日か会おう」

先生に痛いとこを突かれたが、いいことも聞けた。


私も誰かに技術を伝えよう。

しかし、音楽は感性によるところも大きい。

私は何を伝え、何を残そうかと考えた。

結婚はいずれでいいだろう。


この時の考えが、私に悔いを残したのかもしれない。






ここは病室のベッドの上。私ももう若くない。

あの時の答えを出せないまま、この世を去りそうだ。

教えを乞うてきた者たちに、私の技術を教えたことはある。

しかし、私の教えが悪いのか、次々と私の下から人が去っていった。

だが、僅かながらに残った者もいた。

その者たちは、必ずと言っていいほど、この音楽業界で大成した。

私から去った者たちは、さぞ悔しいだろうなと笑ったものだ。


去る者追わず、残る者に教える。

私の信条だ。

だが、私は生涯をかけて、この世に何かを残せただろうか。


彼らには彼らの技術がある。あれはもはや私のものではない。

私が残せたもの…

いや、あるな。残せたものはある。

私の曲たちだ。

多くの人たちを感動させた、耳に残り、誰もが口ずさむ曲たちだ。

『彼ら』はきっとこの先も、語り継がれるだろう。




私の命の灯は消えかけている。




ああ、叶うならば、もっと曲を作りたかった。

結婚もしたかったな。

もっと音楽に携わっていたかった。

ゲームの中の勇者たちのように、私も勇ましい姿を見てもらいたい。

というのは、少々、少年の憧れがすぎるだろうか?



私の最後の言葉を書き残したノート。

いつか読まれるだろうか?少し恥ずかしい気持ちもあるが…

私くらいになれば、名言として残ってくれるだろうさ。

弟子たちに囲まれて、見送られる私は幸せ者だろう。

だが、叶うことなら。




もう一度だけ…






この日、沢山の人に惜しまれ、亡くなった音楽家がいた。

その最後の願いが叶ったかどうかは、この世界の人にはわからなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ