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8話 夏休み

「ただいまー」

「ただいまー!」


「お帰りなさい。優真。ご飯、出来てるけどどうする?」


「うーん、食べるよ。少なめでいいけど」

「分かった」


 カラオケから帰宅し、母親が出迎える。

 出てくる名前は俺だけ。まあ、当たり前か。同じ血縁者でも、心音の姿は何故か俺にしか見えていないからな。

 心音の立場で考えると確かに辛い部分が多いな。


 そんなこんなで訊ねられた夕食。一応ファミレスでフライドポテト。カラオケでも少しは食べたけど、状況が状況だっただけに腹八分目以下しか食べていない。腹三分目くらいか?

 なので量は少なめとして食事は摂る事にした。


「後で食器とかは自分で洗ってね」

「分かってるよ」


 両親は既に食事を終えているらしい。まあ、カラオケと帰り道を経てもう9時を過ぎてるし当然か。

 母親も自室に向かい、俺は一人で、厳密に言えば二人で食事を摂る事にした。


「何にせよ、結奈さん達に伝わって良かったな。これで心音の存在は少し認知されたかもしれない」


「うん! 本当に良かったよ! まだ観賞だけで干渉する事は出来ないけど、ちょっとモヤモヤが晴れたかも!」


「そりゃ何よりだ」


 まだまだ小さな事だが、確かに少しは進展しただろう。心音も昨日より明るくなったように思える。

 となるとここからが本題の問題だな。


「それで、それによって成仏しそうとか、そんな感覚はあるか?」


「うーん、そう言うのはまだ無いかな。気持ち軽くなったけど、あ、消えそう。とかは無いなーい」


「成る程な。あくまで切っ掛けに過ぎないって事か。確かにまだ母さん達には打ち明けられていないし、結奈さん達や心音の寂しさが無くなった訳でもないしな」


 まだ心音に成仏しそうな雰囲気は無かった。

 人は死ぬ時、「あ、死ぬ」……って理解するらしいけど、幽霊も成仏する時はそんな感じになるのかどうか。

 前例が無いし、その時が来るまで不明だが、取り敢えず次の瞬間に成仏するとかは無さそうだな。

 俺はご飯を口に運び、よく噛んだ後で飲み込んで言葉を続ける。


「ま、とにかく進展はしたんだ。後はどうやって心音を成仏させるか、結奈さん達と連絡を取り合うとするか」


「そうだね! お兄ちゃんを通してならユナっち達に話をする事も出来るし、死んでから二番目に嬉しい!」


「二番目? 一番じゃないのか」


「うん。一番嬉しかった事は継続しているからね!」


「ふうん?」


 心音の言葉を特に深くは考えず、ご飯を食べ、おかずを食べ、汁物を飲み、そそくさと夕飯を終わらせた。

 結奈さん達のグループにも入れて貰ったし、取り敢えずどうするかを話し合うのが先決だな。

 食器を洗い、リビングの電気も消し、俺は自室へと戻った。



*****



「さて、取り敢えず既に通知来ているし、さっさと見てみるか」


「賛成ー!」


 風呂は一先ず先回し。ベッドに寝転がり、連絡アプリを開いた。


           既読『今来たよ』

           21:46



『あ、お兄さん』21:48

『来ましたね』21:48

『じゃ、話し合おうか!』21:48



              21:49『了解』



 まずは簡単なやり取りから入る。

 てか、俺の文短いな。グループとかには入っているけど、入っているだけで基本的には関わらないし、どうしてもこんな文章になってしまうみたいだ。

 まあ、話始めれば長くなるだろうし、出だしはこんなもんで十分だな。



『それで、ここちーの未練って他に何があると思う?』21:52

『やっぱり私達の事と、家族の事くらいしか思い付かないね』21:53

『ウチらと家族の事かな?』21:53



              21:54『やっぱりその辺りだな』



 考える事は大体同じ。

 実際、俺も心音からはそう聞いているし、まずはそれが問題で間違いないだろう。


「それで、どうだ? 心音。俺達の推測は?」


「うん、当たってるよ~。少なくとも今、私の分かる範囲ならお兄ちゃん達家族と、ユナっち達が一番の気掛かりかな」


「よし、分かった」


 近くの心音に訊ね、確証を得る。

 まずは正解。それを教えるか。



            既読『心音もそうだってさ』

            21:59



『成る程』21:59

『じゃあやっぱりその辺から切り込んだ方が良いですね』22:01

『家族と私達かー。ここちーの事は知っているし、まずは私達の問題を解決したいね』22:01



            既読『そうだな』

            22:01



『そうだね』22:02

『うん』22:02


 三人の言う事はもっとも。帰り際にも言ったように心音の事を分かっていて、信じているのは俺と結奈さん、紗枝さん、喜美子さんの四人だからな。

 取り敢えず現状、解決出来るのは俺達に関する問題くらいだ。



            既読『じゃあ、明日は学校だし、後は休日にでも話そうか』

            22:04



『分かりました』22:05

『りょ』22:05

『はい』22:05



 これで一時的に話は終わる。

 取り敢えず会わなきゃ始まらないけど明日はお互いに学校がある。なので休日に会う約束をした。

 とは言っても休日にも普通に大学があったり、高校でも部活とかあるし、夏休みまで会えないかもな。ま、夏休みまで一、二週間だし、割とすぐに話し合えるか。



『せっかくだからもう少し話そー!ここちーとも話したいし、暇だから!』22:09

『いいね!ここちーとここちーのお兄ちゃんとも少し話したいかも!』22:11

『いいですね。お兄さんが居ればお兄さんを通して心音ちゃんと話せますし』22:11



              22:13『俺は心音のおまけかよ』



 終わろうとした時、どうやらここから噂に聞くガールズトークが行われるらしい。

 俺も誘われたが、しかし、楽しむ女子達に混ざる男は禁忌。果たして俺にそれ程の事をしても良いのだろうか。


「え!? 私と話すの! 楽しみ!」

「ハハハ……まあ、仕方ないか」


 心音の意思となればしょうがない。と言うか、結奈さん達も俺と話たがっているしな。俺が女子に慣れる為にも好都合かもしれない。

 俺と心音。そして結奈さん達三人。霊体となった心音の存在を知る者が増えた一日目が終わる。

 結奈さん達と次に会うとしたら夏休みか。予定は……多分無かったな。



*****



「さて、待ち合わせ場所はここか……」


 ──結奈さん達三人に心音の事を教えてから数週間後。

 夏休みに入り、俺の用事と結奈さん達の部活も被らない日に俺達は会う事となった。

 待ち合わせ場所は目立つオブジェクトらしき物がある駅前。夏休みだからか、家族連れや友人同士って人達が大勢居るな。

 俺達が集まる理由は取り敢えず、隣にフワフワと浮かんでいる心音の事についてだな。


「まるでデートみたいだねぇ」

「デートって……女子高生三人と……そんな大それた事じゃないさ。俺自身にそんな勇気が無いからな」

「もう、意気地無し。それと、私も合わせたら四人だよ」


 頬を膨らませ、ムスッとする心音。

 幽霊になってから何週間か過ぎたけど、相変わらず俺以外の誰にも姿を見られない。自分の数に入る事で存在を確かめたいみたいだな。

 そうなると確かに俺が悪かった。


「悪いな。心音をハブったりはしないさ。結奈さん達も会うのも心音の為だし、基本的は心音第一の行動をするよ」

「お兄ちゃん……」


「今のところ呪い的な効果も無いしな」

「お兄ちゃん!」


 少しジーンとした事からの落差か、心音のツッコミは早かった。

 俺は心音に割と揶揄からかわれる側だけど、揶揄い返すのも面白いな。弄りたくなる気持ちも分かる。

 当然、真意を理解している親しい人にしかやっちゃ駄目だけどな。あまり親しくない人とか、知り合い程度の人にするとただの嫌がらせになる。


「けど、普通に私と話しちゃってるね。お兄ちゃん。変な目で見られたりしない?」


「スマホ持ってるし、待ち合わせで一人言言っている人も多いからな。そもそも人通りが多かったり周り自体が騒がしかったり、傍から聞いた俺の一人言を気に掛ける余裕なんてないだろうさ」


「成る程ねぇ」


 ここに居る全員、心音の姿は見えていない。なので俺が心音の言葉に返す行為は全部一人言になるのだが、今言った諸々の理由から不審がられる事は無いだろう。

 そもそもどこにでも居る普通の青年である俺を気にする人なんて居る訳もない。


「さっきから一人でブツブツと、お兄さんまたここちーと話しているんですね」


「ここちーと話せて羨ましいなぁ」

「私もまた心音ちゃと話したいですね」


 ──全ての事情を知る者を除いて。

 この声三つ、どうやら来たみたいだな。俺は結奈さん、紗枝さん、喜美子さんの三人を視界に収める。


「こんにちは。お兄さん」

「今日はよろしく~」

「よろしくお願いします」


「悪く無い意味で女子高生に囲まれるなんて……俺、今日が命日になるのかもな」

「え!? お兄ちゃん!?」


 私服姿である現役女子高生三人。結奈さんはTシャツにスカート。紗枝さんはラフな格好にショートパンツ。喜美子さんは帽子にワンピース。全員ルックスも良く、それぞれの性格も違う。

 俺の気弱な部分からデートとは思わない思考だが、この子達と出掛けるってのはラノベや恋愛漫画、もしくは大金はたいた場合でしか許される事のない所業だぞ……。


「えーと……何ですかその反応……」

「ちょっと気持ち悪い……」

「もしかしてお兄ちゃんって童」


「それ以上言わないでくれ! 確かに今の言葉、悪いのは十割俺だけど、やっぱり男として思うところがあるんだ。心音の友人に手を出したりしないからその辺は安心してくれ!」


「ちょっと声が大きいですよ……!」

「アハハ……気にしてたんだ」

「えーと、大丈夫です。多分気持ち悪くなくなりました」


 俺の声を聞き、道行く人は一瞬だけチラ見するが無視して歩を進める。大半は気にすらしていない。

 とことん他人に無関心な国民性。緊張している俺的にはかなり助かる。黒歴史一歩手前の状態をスルーしてくれる事程に嬉しい事は無いだろう。


「と、取り敢えず全員集まりましたし色々と見て回りましょうか」


「勿論お兄ちゃんの奢りねー!」

「数日間は部活もありませんし、お兄さんの車で遠出するのも良いかもしれませんね」


「オイオイ……遠出は下手したら事案だぞ。俺が捕まる側として。もう少年法は適用外だし、誤解のないようにやってくれ」


 イタズラっぽく笑う紗枝さんに、ちゃっかり旅行を申し出す喜美子さん。

 やっぱり結奈さんが一番まともなのだろうか。全員がいい子であるのは変わらないんだけどな。何より今回は俺の感無量と言った態度が一番の問題か。


「まあ、奢るくらいは構わないけど、一日何万とか、ゲームセンターで沢山使うとか、そう言った奢りは止めてくれよ。終わり時が無いような感じの事はな。スイーツとかファミレスとか、その辺はまだ比較的良いけど」


「「「はーい!」」」


 まるで引率の先生みたいだな。俺。

 いや、引率の先生は生徒に奢ったりしないか。そもそも引率の先生が幽霊になった妹を成仏させようとは考えないな。

 さて、四人と一人で集まった理由はその一人を成仏させる為。普通に遊ぶのが目的じゃないんだけど、


「どこ行く~?」

「夏だし海かプール行きたいかもねぇ」

「私達もそろそろ大学受験だし、勉強も必要かも……」


 そんな様子は無かった。

 結奈さんが訊ね、紗枝さんと喜美子さんが提案する。

 純粋に遊ぶ気満々の紗枝さんに受験生らしく勉強を推奨する喜美子さん。俺も高校生の頃はこんなんだったなぁと何となく懐かしい思いに浸る。


「一応目的は心音の成仏なんだけどな……まあ、心音もそれを望んでるっぽいし」

「アハハ。分かっちゃった? やっぱり私、みんなとワイワイ楽しみたいよ!」


 結奈さん達には聞こえない声音で話す。

 心音は楽しんでいるみたいだな。しかし、それとは別にまた気になる事もあった。

 今、紗枝さんが海かプールと告げた事だ。

 海かプール。海岸やプールサイドを散歩したりとかじゃないのは明白。


 ──……っ。まさか……! ラブコメの一大イベントや、不自然なテコ入れでしか行われる事の無い、“女子高生の水着イベント”が今日、この日、巻き起こると言うのか……!? ゴリゴリのファンタジーな世界観にすら出張してくる不可思議なイベントだが、現実世界ではまず御目に掛かれない代物。幼馴染と部屋の窓越しに話したり、彼女が弁当を作ってくれるという、特大イベントに並ぶイベント……! 果たして俺のような冴えない青年が女子高生の水着イベントを体験しても良いのだろうか……!?」


「あのぉ……お兄さん……」

「全部聞こえてるし……」

「やっぱり気持ち悪いかもしれません……」


「……!?」

「途中から口に出してたよ。またベタな事をしてるね、お兄ちゃん……」


 ハッとし、引き気味のジト目で「うわぁ……」と俺を見やる四人の顔が映り込んだ。

 そう、“四人”。出会って間もない三人は兎も角、風呂にまで付いて来た実の妹にまでドン引きされてしまった。


「……あーと……」


 “あ”と“えーと”が同時に出、脳内が真っ白になる。俺のキャンパスは白紙だ。

 冷たい目線で三人は言葉を続けた。


「えーと……ここちーの為なのでお兄さんと一緒には行きますけど……ちょっと距離置いてください」

「勘違いされたら困るしねぇ」

「私……お兄さんとは割と気が合うかもしれませんけど、今は少し離れてください」


「ハハハ……当たり前だよな……」

「当然の報いだね」


 俺は肩を落とし、自業自得と割り切る。

 まあ、今のは確実に俺が悪いな。窃盗の加害者くらい俺が悪い。


「じゃ、行きましょうか」

「レッツゴー!」

「…………」


「ハハハ……」

「ゴー!」


 一応俺と共に行動してくれるのは変わらない。心音の存在は俺にしか視認出来ないからな。通訳……とはまた違うか。イタコとか降霊術とかのそっち方面に近い。

 何にせよ、俺と心音。そして結奈さん、紗枝さん、喜美子さん。五人の夏休みが始まった。

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