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6話 合流

 ──ヤバい。マジヤバい。超ヤバい。究極ヤバい。なんかヤバいばかり過ってギャルみたいな思考になってる。

 大学の帰り、心音の学校に寄った俺はあの三人組を見つけ、そこにフワフワ浮かぶ心音も居るのでつい話し掛けてしまった。

 もっとこう、心の準備とかしたかったんだけど。緊張で逆に話し掛けてしまったよオイ。


「えーと……」

「あ、ここちーのお兄ちゃん!」

「あ、あの時の……」

「お兄ちゃん! 来てくれたんだね!」


「あ、ああ。そうだよ」


 服装も違うし夕方なので顔が分かるか不安だったが、取り敢えず心音の兄と言う事は分かって貰えたようだ。

 下手したら変質者扱いで人生終わっていたからその辺は良かったよ。うん。


「えーと……私達に何か用ですか?」

「あ、いや……その……」

「と言うかさっきお兄さん……“一緒に居る”って……」


「……!」


 ギクッ! と心臓の高鳴りが聞こえた。本当にこうなる事あるのか……。

 そう言や心音も一緒に居たからつい口走っちゃったな……喜美子さんだっけ。かなり感性が鋭いみたいだ。ちょっとした失言を聞き逃さないなんて。探偵になれるんじゃないか? さて、どうやって誤魔化すか。


「ほら、君達三人はずっと一緒に居るだろう? それについてだよ」


「は、はあ……?」


 困惑気味に返し、返され、気まずい雰囲気。心音には何とか助け船を出して欲しい……あ、そうだ。心音はこちら側には干渉出来ないんだった。

 こちら側に干渉出来ないってバトル漫画以外で聞かない言い回しだぞ……。

 と言うか、動揺し過ぎだろ俺。心音の葬式の時は普通に話せたんだから落ち着いて話そう。


「それで……」

「ああ、少し用があってね。用と言うより話かな。あまり手間は取らせないつもりだよ」

「わっ。急に堂々としだした」

「お兄さん……何か変ですよ?」

「お兄ちゃん緊張し過ぎー!」


「アハハハ……」


 先程までのソワソワした雰囲気から一変させたが、かえって警戒されてしまった。そして心音からも指摘される。

 そりゃまあ、妹の兄貴が関わってきたらこうもなるよな。やっぱり“気があるんじゃ”とか“私達の事好きになっちゃった?”とか、“馴れ馴れしくしないでよね”とか思われているかもしれない。


「話ってなんですか?」

「ああ、心音について少しね」

「「「…………!」」」


 心音の名前を出した瞬間、見て分かる程の動揺を見せて俺から一歩引いた。

 これは……どっちだ? 不審者扱いなのか、素敵なお兄様方面に片寄ったのか。十中八九不審者側だとは思うけど。


「ここちー……あ、心音ちゃんについてですか?」

「ああ。ああ後、別に心音のあだ名で良いよ」


 さっきからお互いに“あ”と“ああ”の応酬。

 “あ”って便利だな。大体の言葉に対して噛み合う相槌になるよ。これからも“あ”を尊重していくとしよう。

 と、どうでもいい考えが脳裏を過った。


「それと、下心が無い事だけは理解してくれ」

「はい。それは見たら分かるので」

「あ、そう……」

「……えーと……どうする?」

「どうしようか?」

「うーん……」


 気があるんじゃとか思われているかもしれないというのは、どうやら俺の思い違いだったらしい。俺が気に掛ける程この子達は俺に興味が無かった。

 逆にそれは良かったよ。変な疑いは掛けられたくないからな……。俺の緊張しまくりの様子から下心なんて存在していないと分かったようだ。


「えーと、別に構いませんよ。話を聞くくらいなら」

「じゃあせっかくだから奢って!」

「コラ、紗枝ちゃん」


「アハハ……別に良いよ。バイトはしてるけどお金はあまり使わないし」

「お兄ちゃん太っ腹~!」

「心音は食べられないだろ……」


「え?」

「あ、いや……」

「おっと。あまりでしゃばっちゃダメだね。私」


 取り敢えず俺が奢る方向で話だけは聞いてくれるようになった。って、何か見方変えたら犯罪臭がするな……。

 それより、心音の言葉にツッコミを入れてしまったのが問題だ。この距離。小声だとしてもはっきり聞こえるだろうし、まず間違いなく指摘はされると思う。

 当の心音は慌てた面持ちで自分の口を両手を交差させて塞いでいた。


「今……ここちーの名前……」

「それに今の一瞬の間を置いた上での言い方と目線の動き……私達に向けてじゃありませんよね……」

「ちょっと……ここちーのお兄さん……変な事言わないでよ……」


 結奈さんと喜美子さんが指摘する。てか、喜美子さんは本当に鋭いな。普通一瞬の動きで目線とか見るか? 本当に探偵なんじゃないかと思ってしまう。

 そんな二人に比べて紗枝さんは……何か怖がっているな。この中で、心音を含めたこの中で一番ギャルっぽいけど幽霊とかの類いが苦手なようだ。可愛いな。振ったのか振られたのか、彼女との付き合いをやめた彼氏ってのは惜しい事をしたな。


 さて、そんなどうでもいい考えは後。この反応は予想通りだけどどうするか。

 今の俺は平静を装っているけど、正直言ってかなりマズイと思う。漫画的に言うなら腕組んでキメ顔作った上で冷や汗ダラダラのそんな状態。返答次第で再び通報案件だ。


「……ふっ、どうやら俺から君達に話す事は何もないようだ。邪魔したね。では」

「待ってください」

「……っ」


 手を引かれ、逃げようとした俺は捕らえられた。

 振り向くと結奈さんが腕を掴んだらしく、その横では眼鏡をクイッと動かす喜美子さんに先程までの怯えた表情が無くなった紗枝さん。


「きみこん警部。これは何かありそうだよねぇ」

「その様ね。お兄さん。やっぱり話をちゃんと聞いてみます」

「ここちーのお兄さん。女子高生三人と一緒に過ごせるなんて幸せ者ですね♪」


「詰んだ……」

「ありゃりゃ……」


 紗枝さんが言い、喜美子さんが返す。そして結奈さんはちょっと怖い笑みを浮かべていた。さながら演劇部かと思う程の小芝居。本当に仲良いんだな。

 ある意味では悪い方向だけど、少なくとも俺への警戒は少し緩んだらしい。俺がだらしないので警戒する必要も無いと判断されたのだろう。隣の心音も苦笑を浮かべている。

 俺は女子高生三人に腕を引かれると言う、傍から見たら羨ましい状態のまま近くのファミレスへと引き込まれた。



*****



「「「まずは……ありがとうございまーす!」」」


「ハハハ……バイト代……別に良いとは言ったけど」


 ファミレスに入るや否や、ドリンクとフライドポテト。そしてデザートやスイーツなどを頼み、フライドポテトはテーブルの真ん中。ドリンクとスイーツはそれぞれの席に置かれて俺は目の前の女子高生三人と向き合っていた。

 フライドポテトはフェイク。本命はスイーツ類だろう。一つ一つが数百円だとしても、この人数に奢るのはバカにならないな。


「それで、お兄さん。ウチらへの話って?」


「あ、ちゃんとポテトも食べるんだ」


 大皿のポテトを一本片手に、紗枝さんが俺へ訊ねた。

 さて、話を持ち込める事にはなったけど、いきなり幽霊の心音が現れたって言うのは変だしな。


「うーん、告白とか?」

「それなら三人に話さないと思うけどな」


 冗談混じりで話す。

 このまま黙っていても埒が明かないし、さっさと話すか。念には念を押すけど。


「……。今から話す事、人に聞かれる訳にはいかないし、多分君達は絶対に信じないと思う。何なら俺の精神病が疑われるような事だ。しかも今の状況にあるのはそれが原因だし、俺自身、傍から見たら精神的に病んでいると思われるような状態にある。加えて、君達を悲しませる結果になる可能性もある。今から言う事には怒りをいだくのもあり得るからな」


「……? かなり長い前置きだね。お兄さん」


「そんなに自己的な判断しているなら精神病は無いと思いますけど……ほら、精神病って今のお兄さんみたいに冷静な判断は出来ないって言いますし。まあ、途中から同じ事を連続して言ったり、何言っているのか分かりませんでしたけど……」


「最近あった事でお兄さんの精神が疑われるような事柄……そして私達にも深く関わる……それって、心音ちゃんについてですか? 学校前で言ったような心音ちゃんの話だけじゃなく、もっと深い部分とか……」


「「……!」」


 紗枝さんと結奈さんが言い、喜美子さんがまた鋭い指摘をした。

 喜美子さんはもう探偵でいいな。三人寄れば文殊の知恵と言うけど、喜美子さんは一人で全部担えそうだ。

 さて、ここまで保身に次ぐ保身を経て長い前置きを話したんだ。信じられないにしても、最悪の事態は免れるだろう。……この場合の最悪の事態ってなんだろうか。まあいいか。


「ああ。単刀直入に言う……今、俺の隣には心音が居るんだ」

「やっほー!」


「は?」

「はい?」

「え?」


 俺の言った言葉に心音が返事をする。まあ、聞こえていないんだろうけど。

 当の三人は素っ頓狂な声を上げると同時に間を置き、


「「「ええぇぇぇええ!?」」」


 ファミレス店内に響くような声量で女子高生三人の叫び声が轟いた。

 他のお客さんは店員さんは全員が「!?」と反応しており、確実に目立っちゃってるな。


「ちょ、ちょっと……ここちーが……?」

「変な声出ちゃった……」

「薄々気付いてはいたけど……面と向かって言われると信じられませんね……」


「アハハ……だよな……」


 三人は慌てて口を塞ぎ、目立たぬようテーブルにうつ伏せのような状態となって話す。

 周りのお客さんや店員さんは、こう言った騒がしい客に慣れているのかもう平静に戻っていた。何人かはまだ見てるけど。

 さて、さっきのやり取りや長い前置きの効果があったのか、三人はそこまで俺を異常者扱いはしていなかった。


「場所……変えましょうか。今は全く信じていませんけど、信憑性のある証拠が出てきたら冷静になれる気がしませんので……」


「そうだね。これ食べたら……うーん、カラオケにでも行こっか」


「うん、それが良さそう」


「えーと……カラオケ代は……」

「「「勿論お兄さん持ち」」」

「ですよねぇ」


 信じてはいないが、大袈裟な俺の言動。完全に切り捨てる事も出来ない様子であり、取り敢えず驚いても周りの人に聞かれないであろうカラオケに向かう事にした。

 女子高生三人と一緒にカラオケ。字面だけなら男の夢だが、出費と緊張から全くそんな気はしない。

 一先ず女子高生トークと共にテーブルに並んだスイーツが消えて行き、俺は黙々とフライドポテトを食べる。

 さて、ここからが本番だな……。

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