07.筋トレと勉強の日々
元の世界に戻ってきて、1カ月。
異世界召喚されるまで、あと11カ月。
真夏の日差しがカッと暑い8月。
紫苑は、未だかつてない充実した夏休みを過ごしていた。
ここまでの成果は下記。
<筋トレ・体重>
・DVDプログラムでは物足りなくなってきたため、すみれの作った筋トレプログラムを開始
・プロテインを飲むようになった
・体重が6kg減った!
<勉強>
・小学生向けの歴史本、「世界の偉人伝記」、「世界の歴史」シリーズを読破
小学生向けの歴史本は、腹黒小学生に薦められた。
彼は紫苑に向かって、こう言った。
『話を聞いていると、君は異世界をちゃんと理解していないんじゃないかな』
紫苑はハッとした。
確かにその通りだ。
考えてみれば、自分は、異世界でただ漫然と過ごしていただけ。
理解しようという発想すらなかった。
『確かに。理解していないから、何が必要か分からなかったのかもしれません』
『なら、まずは、理解する努力をしてみたらどうだろうか』
そう言って、腹黒小学生が薦めてきたのは、歴史の勉強。
彼曰く、他の国や文化を理解するには、比較対象があった方がいいらしい。
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腹黒小学生:
『手始めに小学生用の簡単なやつでもいいから、一通り読んでみると良いと思う』
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シオンは衝撃を受けた。
そんなこと考えつきもしなかった。
これぞ、漫画によく出てくる
「相手を知るために、自分を知る」
というヤツなのでは。
なんかかっこいい!
それで、紫苑は図書館に通いまくり、棚に並んでいた「世界の偉人伝記シリーズ」と「世界の歴史シリーズ」を合わせて読破した、という訳だ。
ちなみに、筋トレについては、引き続きかなり順調。
ハンドグリップとバランスボードに加え、新たにダンベルとトレーニングチューブを購入した。
最初の頃は、限界ギリギリに設定してあるトレーニングメニューが辛すぎて、何度もくじけそうになったが、その度に、すみれが「すごいすごい!」「がんばって♪」と声をかけてくれ、何とか乗り切った。
「世界を救う男になる!」という呪文より、すみれの「がんばって♪」の一言の方が効果が高いのが、なんとも紫苑らしい。
ちなみに、画面上では色っぽい美女である すみれが、実際は建設業を営む筋肉ムキムキのオッサンであることを、紫苑はまだ知らない。
―――そして、迎えた夏休み最終日。
紫苑は、いつも通りオンラインゲームの仲間達と話していた。
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ひまぽ:
『学生さんは明日から学校だねー。シオンくん勉強進んでる?』
シオン:
『はい。腹黒小学生さんに教えてもらった歴史関係の本を読み終わったので、今はひまぽさんに薦めてもらった内政系のラノベを読んでます』
すみれ
『偉いわ。がんばってるわね。読んでみてどう? 何か感じたりした?』
シオン:
『そうですね。ローズタニア王国のことを、思った以上に知らないことが分かりました』
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1カ月間、世界の歴史を学んだことにより、紫苑は改めて、自分が全くローズタニア王国を理解していなかった、ということに気が付いた。
分かっているのは、王政だということと、瘴気が増え過ぎて困っているということくらい。
それ以外は、聞いた話を断片的に覚えているくらいだ。
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シオン:
『俺、とにかく無難に過ごしたり、帰ることばかり考えてたんで、あまり見てなかったみたいです』
すみれ:
『分かるわ。人間って大変な時ほど、周囲が見えなくなるものよね』
『でも、それだったらどうやって生活してたの? 知識が必要なこともあったでしょう?』
シオン:
『お世話をしてくれた人がいて、その人が色々教えてくれてました。国王に薦められて学校にも行きましたけど、何だかんだで呼び出されて、あんまり授業は受けていませんでした』
ひまぽ:
『呼び出しー? 誰にー?』
シオン:
『教会が多かったです』
柚子胡椒:
『教会?』
シオン:
『礼拝に勇者がいると箔がつくらしくて、かなり頻繁に呼ばれてました。俺も勉強はしたくなかったんで、喜んで行ってた感じです』
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紫苑の発言に、沈黙するチャット欄。
紫苑が「俺、なんか変なこと言ったかな?」と首を傾げていると、すみれが発言した。
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すみれ:
『あら。もうこんな時間。学生2人は明日から学校でしょ? もう寝なさいな。遅刻したら大変よ』
柚子胡椒:
『本当だ! もうこんな時間!』
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時計を見ればもう23時過ぎ。
そろそろ寝ないと明日辛そうだ。
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シオン:
『気付きませんでした。寝ます』
柚子胡椒:
『僕も寝ます~。(*´▽`*)おやすみなさい』
すみれ:
『はい。おやすみなさい^^』
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柚子胡椒に続き、紫苑も『おやすみなさい』と打ち込むと、ログオフ。
歯を磨いてベッドに入ると、あっと言う間に眠りについた。