22.断罪の時間2
「新たな証拠をお見せしたいのですが、そちらの壁に魔道具で画像を映しても宜しいでしょうか?」
シオンの言葉に、頷く宰相。
「よろしい。許可する」
シオンはお礼を言うと、空間収納からカメラを取り出し、その場にいる全員に見せた。
「これは、私の世界の『デジカメ』というもので、見たそのままを絵や動く絵にできる魔道具のようなものです。例えば……」
カメラを構え、隣のカルロスや謁見の間のあちこちを撮影するシオン。
そして、ジャックスが設置したプロジェクター様魔道具にデジカメをセット。
魔力を注ぐと、デジカメの液晶部分が壁に映し出された。
貴族達の間から、「おお!」と驚きの声が上がった。
「これはカルロス団長! なんと精巧な!」
「すばらしい。正に見たままですな」
「なるほど。見たものをそのまま絵に出来ると言う訳ですな」
シオンが頷いた。
「その通りです。では、これから、これを使って証拠をお見せしたいと思います」
デジカメを操作するシオン。
そして、大映しされたのが、シオンの部屋から服を盗むシャーロット王女の動画。
悪い笑いをしながら、抜き足差し足でシオンの服を奪う様が、バッチリと撮影されている。
「なっ! なっ!」
呆然と壁を見つめるシャーロット王女。
続いて映されたのは、ミノタウルスに瘴気を送り、おびき寄せる魔道具を使うよう指示するエミールと、実際に使っている教会騎士の動画。
エミールから「眠り薬入りの酒です」と渡され、「分かりました」と微笑むシャーロット王女の動画まである。
動画を見ながら、シオンは心の底から感心した。
アリスの隠密能力もさることながら、撮影技術が凄すぎる。
これ以上の証拠がないくらい、ばっちり撮れている。
これには、さすがのバクスター侯爵も、目を見開いて硬直。
その他貴族達も唖然茫然。瞬きも忘れて動画に見入っている。
冷静な宰相も口をポカンと開けており、冷静なのは、黙って動画を見つめる国王ただ1人。
その後も、決定的証拠動画は流れ続け。
王女とエミールが、砦近くの高台で会話をしている動画が流れた瞬間。
シャーロット王女が金切り声で叫んだ。
「こんなの嘘ですわ! 捏造ですわ! こんな怪しい魔道具、信じるに値しません!」
シオンが静かに口を開いた。
「いえ。捏造ではありません。真実です」
「そんな道具! 信じる方がおかしいですわ! この下賤な詐欺師! 恥を知りなさい!」
髪を振り乱して憎々し気に叫ぶ王女。
その声に我に返ったバクスター侯爵が、シオンを睨みつけて叫んだ。
「だ、大体、お前は異世界から来た平民だ! お前の言葉の価値など無きに等しい!」
「そ、そうだそうだ! あんな見たことがない魔道具など、信じる方が間違っている!」
「怪しげな術で作ったに違いない!」
「怪しいのはあっちの勇者に決まってる!」
我に返って、次々と叫び出す教会派の貴族達。
黙って目をつぶる国王。
そして、宰相がとうとう、「王の御前であるぞ! 静粛に!」と、ブチ切れた―――
その時。
突然、シオン達の後方に跪いていた、眼鏡の文官が立ち上がった。
そのまま、コツコツ、と、音を立てて、前に向かって歩く。
文官の只ならぬ雰囲気を感じ、シンと静まり返る謁見の間。
そして、文官は、王の御前で優雅にお辞儀をすると。
カツラと分厚い眼鏡を取り去った。
茶色いカツラの下から、輝くような金色の髪が零れ落ちる。
「……ッ!!!!」
目を見開いて息を飲むシャーロット王女。
バクスター侯爵が、真っ青な顔で叫んだ。
「あ、あなたは、サンドラ様!」
サンドラは、笑みを浮かべると、バクスター侯爵の顔を真っすぐ見た。
「いかにも。私はこの国の第一王女であるサンドラです。
私は、文官に身を扮し、ウィリアム殿と共に、ずっとシャーロットの所業を見てきました。
あの絵と彼等の言葉が真実だと、この私が証明します」
国王が静かに口を開いた。
「サンドラに魔王討伐軍に同行する許可を与えたのは私だ。サンドラが辺境伯領に行ったことを、私が保証する」
顔面蒼白になって、膝から崩れ落ちるバクスター侯爵。
国王が溜息をついて、わなわなと震えるシャーロット王女を見た。
「聞いた時はまさかと思ったが、本当だったのだな」
「……!」
「お前には失望した」
「お、お父様!」
縋るように叫ぶシャーロット王女。
黙って、騎士達に向かって、連れていけ、と合図する国王。
シャーロット王女が顔を歪ませて、サンドラ王女に殴り掛かった。
「あんたさえ! あんたさえいなければ!」
そして、殴ろうと手を挙げた瞬間。
シオンが、彼女の手を止めた。
「放してよ! この薄汚い異世界人!」
般若のような顔で暴れるシャーロット王女。
シオンは溜息をつくと、王女の目を見た。
「……少なくとも、最初の頃は、私はあなたに感謝していましたよ。――今はもう『残念』という気持ちしかありませんが」
貴様! と、元の顔が分からないほど顔を歪めてシオンに殴り掛かるシャーロット王女。
シオンは、騎士に王女を引き渡すと、国王に一礼した。
「魔王討伐軍の総司令官として、シャーロット王女とプレリウス教、およびバクスター侯爵への厳罰を具申します」
シオンの言葉に、黙って頷く国王。
そして、悲しそうに溜息をつくと、騎士達に向かって言った。
「早く連れていけ。塔に閉じ込めろ。バクスターもだ」
「なっ! 陛下! あのような者の言うことは……」
必死の形相で王に縋りつこうとするバクスター侯爵の前に立ちふさがる騎士達。
国王は、侯爵の顔を見ようともせず、手で合図した。
「連れていけ」
「い、嫌よ! お父様! どうか話を聞いて!」
「お、お考え直しを! 陛下!」
泣き叫ぶシャーロット王女と、色を失って叫ぶ侯爵。
暴れるエミール他2名。
しかし、屈強の騎士達に敵う訳もなく。
抱えられるようにして謁見の間から連れ去られてる5人。
遠ざかる喚き声を聞きながら、シオンは思った。
これで、ようやく2年に渡る戦いが終わったのだな、と。
動機等については、次のパートになります。
このまま一気に投稿したいところなのですが、最近の投稿時間を見てお気づきの方もいらっしゃると思いますが、仕事がめちゃ忙しい……。連日超残業&土日出勤確定という……。orz
完結まであと4話。(1話増えました)
予約投稿してしまおうかとも思ったのですが、やっぱり見直ししてから投稿したいと思い。
今後は、3、4日おきな感じの投稿になると思います。
それでは、あと4話。
よろしくお付き合いくださいませ。(^^)




