05.カミングアウト
==== に囲まれているのは、オンラインゲーム上のチャット
元の世界に戻ってきてから10日後。
オンラインゲームのパーティーメンバー5人は、いつも通り夜10時に集合した。
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すみれ:
『今日はどこに狩に行く?』
腹黒小学生:
『インハンマーの洞窟とか』
ひまぽ:
『いいねー!』
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行き先がまとまりかかった、その時。
紫苑は、意を決して話を切り出した。
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シオン:
『あの、少しだけ時間もらえませんか。相談したいことがあるんです』
柚子胡椒:
『相談?』
ひまぽ:
『珍しーね? どしたの?』
シオン:
『話すと少し長くなるんですけど、大丈夫ですか?』
腹黒小学生:
『別にいいよ。狩りはいつでも行けるし』
すみれ:
『あら。何だか深刻な話っぽいわね。パーティーチャットに切り替える?』
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すみれの気の利きすぎる言葉に、紫苑は苦笑した。
やっぱり女性は勘が鋭い。
紫苑の話を聞くことになり、人気のないセイフティーエリアに移動する5人。
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すみれ:
(ここなら邪魔にならないわね。パーティーチャットにしてるから、他の人には見えないし)
シオン:
(ありがとうございます。助かります)
柚子胡椒:
(どしたの?)
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紫苑は、パソコンの前で大きく息を吸い込んだ。
昨晩、彼は「どうやってみんなにアドバイスをもらうか」、について、考えた。
異世界召喚されることは伏せて、そういう小説を書きたいから知恵を貸してくれ、とでも言えば、頭のおかしい奴だと思われなくて済むかな、と。
しかし、意外と義理堅くて真面目な紫苑は思った。
「騙してアドバイスをもらうのは、かなり良くない」
本当のことを話して、頭のおかしいヤツだと思われるのは嫌だ。
でも、騙してアドバイスをもらうよりはずっといい。
紫苑は覚悟を決めると、ゆっくりとキーボードに打ち込んだ。
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シオン:
(驚かないで聞いて欲しいですけど)
(実は俺、1年後に異世界召喚されることになってるんです)
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ーーすみれSideーー
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シオン:
(実は俺、 1年後に異世界召喚されることになってるんです)
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PC上でこのコメントを見た、キャラ名:すみれ(本名:最上大介)は、飲んでいたビールを噴き出しそうになった。
(おいおい、いきなり何言い出すんだよ)
最上は、いわゆるネカマだ。
建設業を営んでおり、そのストレス解消の1つとして、別人格でゲームを始めた。
キャラも女性、名前も女性、言葉遣いも女性のため、彼が実はゴツイおっさんだと気付いている者はほとんどいない。
最上は、ビールを飲みながら、シオンの話すこれまでの経緯を眺めた。
・突然異世界召喚され、勇者にされたこと
・魔王を討伐しないと帰れないと分かり、参加したこと
・魔王討伐成功の帰りに急襲され、死んだら召喚される1年前に戻ってきたこと
最上は苦笑いした。
(こりゃすごいな。荒唐無稽すぎるだろ。中二病ってやつか?)
同じように思っているのか、画面上では、腹黒小学生とひまぽが次々と質問をしている。
それに対し、ほぼ即答するシオン。
そのやり取りを眺めながら、最上は呟いた。
「ただ……。ここ最近のシオンの言動を見てると、単なる中二病の空想話とも言い切れないんだよな」
* * *
ーー腹黒小学生Sideーー
一方、キャラ名:腹黒小学生(本名:高木太陽)も悩んでいた。
彼は政治学を専攻する大学院生で、自他ともに認めるリアリストだ。
その彼から見れば、「1年後に異世界召喚される」なんて、一笑して終わる、信じる方が頭がおかしいくらいの話だ。
しかし、ここ最近のシオンの言動を見ると、そう言い切れないものがあった。
「……こいつ、ナンバーズの番号、的中させてるんだよな」
4ケタの数の組み合わせは、10の4乗=1万通り。
その中から自分の誕生日と同じとはいえ、的中番号を当てたのだ。
完全まぐれの可能性もあるが、普通に考えて無理だ。
加えて、オンラインゲームの仕様変更の内容を言い当てたり、台風の進路や被害を的中させたり。
偶然と言えばそれまでだが、ここまで連続して的中させるのは不可能だ。
未来から来たと言われれば納得してしまいそうになる。
(そんな馬鹿な。時間逆行とか異世界とか、ありえないだろ)
高木は、矢継ぎ早に質問をした。
・異世界の国と王の名前は
・政治体制、宗教について
・勇者召喚の目的 など
作り話であれば、ボロがでるだろうと思ったが、ボロは一切なし。
それどころか、「なるほど」と、感心してしまう始末だ。
「もしかして本当なのか? いや、でも科学的に考えてあり得ないし……」
理解不能な状況に、頭を抱えるリアリスト高木(腹黒小学生)。
しかし、話は高木の予想外の方向に進む。
ひまぽが、いつものお気楽な感じで、明るく発言したのだ。
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ひまぽ:
(よーし、分かった。じゃあ、みんなで協力して、シオンの異世界行きを応援しよー!)
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それは良い考えだ、とばかり、「賛成!」「それでいいと思うわ」と続く、柚子胡椒とすみれ。
高木は、目をパチクリさせた。
こんな突拍子もない話を信じるのか?
当のシオンも同じことを思ったらしく、こう打ち込んで来た。
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シオン:
(え、信じてくれるんですか?)
ひまぽ:
(うーん。50%くらいかなー。信じているような、いないような。でも、デタラメじゃないのかなーとは思ってる)
すみれ:
(そうね。あり得ない話だけど、ナンバーズを的中させるのを見てるしね)
柚子胡椒:
(うんうん。それに、シオンって嘘つくタイプじゃないしね(´・ω・)b)
ひまぽ:
(あと、単純に、色々考えるの楽しそー!)
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高木は、苦笑した。
まあ、そうだよな、そんなに深刻に考えることもないよな。
正しいか正しくないかじゃなくて、面白いから、話に乗る。
それでいいじゃないか。
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腹黒小学生:
(OK。俺も参加するよ。アドバイスするには情報が足りないから、もっと詳しい話を聞かせてくれると嬉しい)
シオン:
(ありがとうございます!)
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その日、夜遅くまで。
4人は、シオンの異世界話に熱心に耳を傾けた。
シオンに仲間が増えた!