05.人生初のモテ期
異世界召喚されて、7ヶ月目。
シオン、ジャックス、ウィリアム、アリスの4人は、夏休み2カ月を使って、死亡エンド回避に向けて精力的に取り組んだ。
ジャックスは、自分の最期を聞いて思う所があったらしく、戦闘スタイルを、攻撃重視から守り重視に変更。
今まで以上に鍛練に励んだ。
アリスは、王宮にメイドとして潜入。
斥候としてのスキルをフルに生かし、隠密メイドとして、様々な情報を仕入れてくるようになった。
ウィリアムは、政治力を利用して魔獣討伐の作戦参謀に就任。
元来の頭の良さで、めきめきと頭角を現し、今では絶大な信頼を得ている。
そして、シオン。
彼は、とにかく目立ちまくった。
魔獣討伐遠征に参加し、中2病魔法を使いまくった。
「<断罪の刃>」
「<聖域浄化>!」
派手なパフォーマンスと、見たことがない高威力な光魔法に、人々は熱狂した。
「すげー!!!」
「さすがは勇者様だ!」
「光の勇者、シオン、万歳!」
「シオン! シオン! シオン!」
とまあ、こんな具合に、シオンコールもすっかり定着。
派手好きの貴族達も大喜びで、シオンは何度も彼等の前でこっぱずかしいパフォーマンスをさせられる羽目になった。
正に地獄である。
しかし、人というのは慣れるもの。
最初は、人々の歓声に怯え、寝る前に自分のパフォーマンスを思い出しては、「わー!!!」と、ベッドの中で悶絶していたシオンだが、最近は開き直りの境地。
ポーズをビシッと決め、声援を受けても、何とか平静を保ち、笑顔で手を振れるようになった。
羞恥心と引き換えに、シオンの武勇は飛躍的に向上。
「光の勇者タダ・シオン」の名は、あっという間に広まった。
* * *
そして、夏休みも終わり。
新学期の初日。
登校したシオンは、教室に通じる廊下を歩いていた。
ふと窓の外を見ると、紅葉し始めた木々が見える。
(もう秋なんだな)
シオンは、歩きながら、ググーッと伸びをした。
久々の学園はとても平和で、約2カ月続いた魔獣狩り三昧の日々が嘘のようだ。
穏やかな日常に戻り、どこかのんびりした気分になるシオン。
しかし、そんなのんびりなど、どこかに飛んでいってしまうようなイベントが起きた。
それは、教室の扉が見えてきた時のこと。
シオンの耳に、こんな会話が飛び込んで来たのだ。
「見て! シオン様よ!」
「まあ。なんて素敵なのかしら」
「とても美しい瞳と髪の色なのね」
「こっちを向いてくれないかしら」
え? と、思って、チラリと声の方を伺うシオン。
そこには、キャアキャア言いながら立っている複数の女生徒たちがいた。
皆、目をハートにしてシオンを見ている。
シオンは呆気にとられた。
(……え? 俺?)
そして、思った。
もしかして、俺、モテてるんじゃないか?、と。
いまだかつてない経験に、浮足立つシオン。
女生徒たちに気が付かないフリをして、足早に教室に入る。
そして、同級生達に「おはよう」と挨拶を終えた後。
ガタンと席に座り、机に突っ伏した。
(……なんか、すごいことが起きてる気がする……!)
その後も、シオンは女生徒たちの熱い視線を浴び続け。
全く授業に集中できずに、1日が終わってしまった。
* * *
放課後。
騎士団での鍛錬終了後。
シオン、ジャックス、アリスの3人は、ウィリアムの研究室に来ていた。
ウィリアムは、シオンを見るなり、ニヤリ、という表情で言った。
「聞きましたよ、シオン。学園で物凄くモテてるらしいじゃないですか」
まあな、と、少し憂鬱そうに言うシオン。
ジャックスが首を傾げた。
「あんまり嬉しくなさそうだな」
シオンは、軽くため息をついた。
「最初は嬉しかったんだけど、だんだん怖くなってきてさ」
「へ? 怖い? なんで?」
目をぱちくりさせるジャックスに、シオンは憂鬱そうに言った。
「女子の目が怖すぎるんだよ。獲物を狙う鷹のような目っていうか、ギラギラしてるっていうか、不純な感じがするっていうか」
女子達の熱い視線を感じながら、シオンは嬉しい反面、気持ちが悪いものを感じていた。
急にモテだしたということは、何か考えているということ。
打算的な感じがすごくするのだ。
柚子胡椒がいかに純粋で真っすぐな女の子だったかよく分かる。
シオンの浮かない顔を見て、ウィリアムが面白そうに言った。
「なんと言うか、シオンは意外とロマンチストなんですね」
アリスが、チッチッチッと指を動かした。
「シオンは甘い。女にロマンを求めちゃダメ」
「そうかもしれないけどさ、夢ぐらい見たいんだよ、俺だって」
ジャックスが笑いながら言った。
「まあ、でも、大成功って事だよな。武勇が上がってるから、モテてるわけだし」
「そうですね。思った以上の大成功ですね。――ただ……」
ウィリアムは溜息をつくと、一通の手紙をシオンに差し出しながら言った。
「……ただ、少しばかり厄介なものも引き寄せてしまったようです」
ウィリアムの暗い様子に、シオンは首を傾げた。
「これは何ですか?」
「宰相から渡されたものです。どうやら、シオンに全く会ってもらえないシャーロット王女が、国王陛下に泣きついたようです」
手紙を開けると、そこには几帳面そうな字で
『国王陛下より、シャーロット王女がシオン殿に会えず非常に寂しがっているとの言葉あり』
と書かれていた。
無言になるシオン。
手紙を覗き込んでいたアリスが、「これって、シャーロット王女と会えってこと?」と、尋ねると、ウイリアムが残念そうに頷いた。
「そうなりますね。命令まではいきませんが、似たようなものでしょう」
シオンは深い溜息をついた。
自分に害をなそうとしている人間と会うとか冗談じゃない、と、考える。
――でも……。
「これを俺に渡すってことは、ウィリアムは行った方がいいと思ってるってことだよな」
「ええ。現時点で国王陛下の機嫌を損ないそうなことは避けた方が良いと思っています。逆に言えば、ここで受ければ、ほんの少しだけではありますが、恩を売ることになりますし」
どうやら会うしかなさそうだ、と、シオンは渋々頷いた。
「……分かったよ。次のお茶会は断らないことにする」
そして、その翌日。
早速、シャーロット王女からお茶会の招待状が届き。
シオンは渋々参加する旨を返答した。




