03.中2病魔法、爆炎!
古いバージョンをうっかり予約投稿にしており、本日夜中3時頃、誤投稿していました……。
新しいバージョンを再投稿します。すみません。m(_ _)m
新旧の違いは、シオンの魔法に対する感想部分です。
辺境伯領に来て3日目。
砦から戻ってきた、その日。
4人は、領主館から歩いて10分ほどの所にある、人気のない空き地に集まっていた。
空き地の中央には、ジャックスが設置した訓練用の的が8本立っている。
「よし。これで準備完了だ」
「シオン! はじめて下さい!」
頷いて、的から30mほど離れたところに立つシオン。
そして、息を軽く吐くと、両手を上にかざして魔力を高め始めた。
ボッ、ボッ、ボッ、ボッ
上空に現れる、無数の十字架の形をした光の矢。
シオンは、戦隊モノの変身ポーズのように右手を大きく回しながら、大声で叫んだ。
「<南十字症候群>!」
シオンの声と共に、一斉に放たれる光の矢。
光矢はものすごい速さで的に命中。
ドゴオオンッ
轟音と共に、的が一瞬で砕け散った。
「お、おおおおお! すげー!!!」
「すごい! すごい!」
「素晴らしい! 素晴らし過ぎます!」
興奮して手を叩きながら叫ぶ、ジャックス、ウィリアム、アリスの3人。
シオンは、自らが放った中2病過ぎる魔法に、げんなりしながら呟いた。
「マジか……。マジでこれやんのか……」
* * *
話は半日前に遡る。
シオン達が、死亡エンド回避に向けた作戦を立てていた時のこと。
ウィリアムが、3人に向かってこう提案した。
「2週間後に王都に戻りませんか?」
3人は顔を見合せた。
辺境伯領には2カ月居る予定だったが、それを1か月半繰り上げての帰還。
何か意味があるのだろうか。
帰ってどうするんだ? と、尋ねるジャックスに、ウィリアムが真面目な顔で尋ねた。
「ジャックスとアリスは、シオンが世間にどう思われていると思いますか?」
「んー。異世界人。あと、流行病を抑えた人」
「そうだな……。博識な異世界人。努力家。……あと、見かけの割に強い、てところだな」
ウィリアムは微笑んだ。
「私も大体そんな感じだと思います。評価はとても高いですし、評判も良い。
――ただ、魔王討伐という観点から考えると、圧倒的に『武勇』が足りないと思うのです」
「武勇?」
首を傾げるシオン。
ジャックスが、なるほど、と頷いた。
「確かに。評判はいいけど、評価が高いのは、『知性』とか『知識』の部分だな」
「その通りです。それも悪くありませんが、これからは『武勇』が必要になってくるかと」
シオンが尋ねた。
「言ってることは何となく分かったけど、武勇ってどうやったら手に入るものなんだ?」
「戦争がない今、短期間で武勇を上げる方法はたった1つ、『魔獣を倒すこと』です」
ウィリアムの言葉に、ジャックスが、ふうむ、という顔をした。
「理屈は分かるけど、難しいんじゃないか?
今時、魔獣なんてみんな倒してるだろ。ちょっと倒したくらいじゃ、そこまで武勇が上がらないんじゃないか。よほどの大物だったら話は別だけど、そんな大物は滅多に出ないしな」
ウィリアムは眼鏡をクイっと上げると、にっこりと笑った。
「魔獣が弱くても問題ありません。武勇というのは、『目撃者』が『すごい』と『広める』ことによって作られますからね。舞台装置を整えて派手にやれば、武勇など簡単に作れますよ」
ウィリアムの黒い笑顔に、顔を引き攣らせるジャックスとアリス。
シオンは溜息をつきながら思った。
やり方はちょっとグレーな気もするけど、残り期間を考えれば、手段を選んでいる場合じゃないよな。
彼は覚悟を決めた目でウィリアムを見ながら言った。
「よし、分かった。じゃあ、俺は派手に魔獣を倒せばいいんだな」
話が早くて助かります、と、にっこり微笑むウィリアム。
「シオンは、何か派手な必殺技を持っていませんか? カルロス団長の『8連撃』や、ゾフィア師団長の『火槍』のような」
シオンは腕を組んで考え込んだ。
ビジュアル的に派手に見せるとしたら、剣よりも魔法だろうが、教わった光魔法にそこまで派手なものはない。
しかし、魔法なんて所詮イメージ。
アニメで散々カッコいい魔法を見た自分であれば、すごい魔法を作れるかもしれない。
シオンの心が湧きたった。
――魔法を作るとか、超カッコいい! しかも、オリジナル魔法とか、オタクの憧れだ!
「よし! 分かった! 魔法を作ろう!」
シオンの力強い宣言に、ジャックスが、おお!、という顔をした。
「なんか凄いな! カッコいい名前とか付けるんだろ?」
「ああ。かっこいい名前なら昔散々考えたから大丈夫だ! 『地獄の炎』とか、『混沌迷宮』とかどうだ?」
「いいなそれ! 超カッコいいじゃねーか!」
「響きがいいですね。心が躍ります」
「ん。すごそうでドキドキする」
この世界の感覚にドンピシャだったのか、中二病な単語に異様な盛り上がりを見せる3人。
その勢いで、シオンは昔、黒いノートに書いていた必殺技を次々と披露。
異世界視点での改善が加えられ、実際に幾つか技が出来上がってしまった。
そして、砦から帰ってきて、それを試している訳なのだが……。
(こ、これは恥ずかし過ぎる……)
無詠唱でもできるのに、わざわざ技名を叫ぶのも恥ずかしいし、いちいちポーズを付けるのも恥ずかしい。
これを日本の誰かに見られたら、余裕で死ねるレベルだ。
しかし、異世界組3人にはこれが斬新に見えるらしく、カッコいいカッコいいと、大興奮。
しかも、過去(中二病時代)何百回も頭の中でシミュレーションしてイメージが固まっているせいか、魔法の威力が元の倍以上に跳ね上がっている始末だ。
シオンは、げっそりしながら思った。
派手だし、威力も高い。
これ以上ないほど目的に合っている。
でも、こんなのを大勢の前で使ってたら、いつか羞恥で死ぬんじゃないだろうか。
そんなシオンを他所に、ウィリアムが笑顔で言った。
「これでばっちりですね! 行動に移りましょう!」
――その後。
シオンとジャックス、アリスの3人は、辺境伯領で技の練習がてら魔獣討伐に参加。
ウィリアムは、騎士団と魔法士団が合同で行く魔獣討伐の遠征に3人をねじ込むため、色々と画策することになった。




