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死に戻り白豚勇者、日本で準備万端ととのえて、いざ異世界へ(※ただし彼は洗脳されている)  作者: 優木凛々
第3章 リベンジ

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プロローグ ずっと思い出せなかったこと


最終章になります。


2周目に入って。

シオンには、1つだけ思い出せないことがあった。


思い出せなくはないのだが、思い出そうとすると、酷い眩暈と吐き気に襲われ、中断せざるを得なくなるのだ。


これは、その、どうしても思い出せなかった記憶の話である。





* * *





前回(召喚1回目)。


シオンが、魔王出現の話を聞いたのは、冬の終わりのことだった。


突然、謁見の間に呼ばれた、シオン、カルロス騎士団長、ゾフィア魔法師団長の3人は、宰相から辺境伯領に魔王出現の兆しがあったことを告げられた。


魔王とは、この国に定期的に現れる、人を滅ぼす意思を持つ瘴気の塊。

無限に魔獣を生み出せる化物で、日が経てば経つほど知恵を付け、強大になっていくという。

過去、発見と討伐が遅れたことにより、国が滅びる寸前までいったことがあるらしい。



「古文書によると、魔王出現の兆しがあってから数週間以内に、魔王が出現するとのこと。我々は、出現直後の魔王を討伐すべく、討伐軍を結成する」



彼等はシオンに魔王討伐軍に参加することを依頼した。


通常の魔獣であれば、剣や魔法で倒せる。

しかし、魔王を、弱点である光魔法なしに倒すのは、無理ではないが、困難だ。

どうか力を貸してくれないか、と。


シオンは、すぐに「分かりました」と、了承した。


ジャックスが心配だったし、魔王を倒して日本に帰りたかったというのもあるが、お世話になっている教会やシャーロット王女に望まれたから、というのが大きい。


シオンの返事に、安堵の表情を見せる国王と貴族達。

そして、誰を総司令にするかという話になった、―――その時。


国王の隣に座っていたシャーロット王女が、突然口を開いた。



「聖女として、王族として。わたくしが総司令になります」



その場は騒然となった。


シャーロット王女は戦いを知らぬ素人。

普通に考えて、そんな者に総司令が務まるはずなどない。


しかし、教会系貴族達の強力な後押しがあり。

シャーロット王女は総司令に任命され、その守護役をシオンが務めることになった。


シオンは決心した。

恩人でもあり、憧れの人でもあるシャーロット王女の守護役。

何としてでも彼女を守ろう、と。



ーーその後。

カルロス騎士団長とゾフィア魔法師団長の尽力により、4日後には魔王討伐軍の出発準備が完了。

あとは出発するだけになった。



しかし、物事はなかなか進まなかった。


王女の出発準備に、やたら時間がかかったのだ。

出発準備が整って2日経っても、3日経っても、出発できる気配がない。


しびれを切らしたカルロスとゾフィアが、少数の精鋭を連れて密かに先発。


そして、魔王復活の兆しが報告されてから9日後。

ようやく、王女の出発準備が完了。


王女を乗せた立派な馬車と討伐軍本体は、華やかに飾られた街をパレードし、人々の歓声を浴びながら辺境伯領へ出発した。


シャーロット王女と共に馬車に乗りながら、シオンは心配になった。

魔王復活の兆しの話を聞いて、もう10日近く経っている。

魔獣も狂暴化していると聞くし、辺境伯領は大丈夫なんだろうか。


心配そうな顔のシオンに、同行したエミールが笑顔で言った。



「今国民は不安になっています。王族であり聖女でもあるシャーロット王女が総司令であるのを示すのも、国民を安心させる、とても大切なことなのです」



確かに、パレードで見た民衆は嬉しそうだったな、と、思い出すシオン。

そういうものなのかもしれないな、と、思い直す。



辺境伯領を目指して進軍を続ける一行。


辺境伯領までは、馬を飛ばして2日。

馬車とはいえ、3、4日もあれば到着できるはずであった。


しかし、王女一行は非常にのんびりしていた。


王女の体調を気遣い、馬車に乗るのは1日5時間。

途中、王女が宿泊するための準備などもあり、かかった日数は6日。


しかも、辺境伯領で王女歓待の準備が整っていないということで、その手前の村で余計に1泊する始末だ。


そんなのんびりとした進軍に、プロディア辺境伯は怒りを隠さなかった。

彼は、馬車を降りたシャーロット王女に丁寧なお辞儀をすると、口の端を歪めながら言った。



「お久し振りです。シャーロット様。随分とお早い到着で」


「出迎えありがとうございます。プロディア辺境伯。様子はどうですか?」


「増えた魔物の対処、住民の避難、魔王討伐の準備、おまけに歓待の準備までさせられて、休む暇もありません」


「そうですか……。ご苦労でしたね。わたくしも後から視察に行きます」



辺境伯が顔を歪めた。



「申し訳ありませんが、視察はご遠慮願えませんか。皆、余裕がないのです」



すると、傍に控えていた神官が青筋を立てながら言った。



「何を申されますか! 総司令であるシャーロット王女が視察されるのは名誉ですよ!」


「……分かりました。ですが、用意などできませんので、そのつもりで」



苦虫を嚙み潰したような顔で了承する辺境伯。

そして、彼は少し和らいだ表情でシオンを見た。



「お初にお目にかかります。シオン殿のことは、ジャックスからよく聞いています。これからの活躍に期待させて頂きます」


「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」



体格の良い辺境伯に、若干ビビりながら挨拶するシオン。



その後、執事らしき初老の男性に案内されて館内に入る王女一行。


立派な部屋に通され、シオンは溜息をついた。



(これって、どうなんだろう)



まるで、被災地を訪問する、空気の読めない偉そうなオッサンのようだ。

しかも、忙しい中を、いちいち歓迎の用意をさせたり、出迎えをさせたり。

プロディア辺境伯が怒るのも理解できる。

このままで大丈夫なんだろうか。


このシオンの意見に、エミールは優しく諭すように言った。



「いいですか、シオン様。シャーロット王女様のお立場は、この魔王討伐軍の総指令です。あらゆることを知っておく必要があります」


それに。


「シャーロット王女様は聖女でいらっしゃいます。聖女は平和の象徴であり、人々に希望をもたらす存在です。勇気づけられる者はたくさんいます。軍事効率では測れない、人々を癒す効果がそこにはあるのです」



なるほど、とシオンは思った。

確かに、途中の村でシャーロット王女に話しかけられた老婆は、涙ぐむほど喜んでいた。


人気歌手や女優が被災地を慰問するようなものだろうか。

それであれば、彼女が綺麗な格好をして笑顔で訪問するには意味があるのかもしれない。



「分かりました。変なことを言ってすみませんでした」


「いえいえ。疑問があったら何でも聞いてきてくださいね」


「はい。ありがとうございます」




* * *




それから1週間。

シオンは、シャーロット王女と共に辺境の地で過ごした。


バタバタしている騎士や領主達を尻目に、豪華な食事に優雅な視察。


疑問を感じなくはなかったが、シオンは思っていた。

エミールとシャーロット王女がすることに間違いはないだろう。

多分、俺が正しく理解できていないだけだろう、と。


それくらい、シオンは2人を盲信してしまっていた。



そして、辺境伯領に来て2週間目。

とうとう、周辺調査をしていた斥候が、魔王を発見。

主要メンバーによる緊急作戦会議が開かれた



「戻った斥候の報告によると、魔王は4mほどの黒い泥人形のような化物だそうだ。奴がいる場所は、山の中腹にある空き地。何度か軽い挑発行為をして下山を誘導しようと試みたそうだが、空き地から一切出なかったそうだ」


「山中には、多数の魔獣が警戒しており、そのほとんどがB級。A級の魔獣も混じっているらしい」



辺境伯家長男のエドモンドが溜息をついた。



「思った以上にしんどい状況ですね。B級の魔獣ということは、一般兵は使えないと思った方が良いでしょうね」


「ああ。対応できるのは、王都から来た騎士団、魔法士団250名に加え、辺境伯軍と周辺の領土から送られてきた騎士・魔法士100名の、総勢350名に限られる」



カルロスが口を開いた。



「では、王都からこちらに向かっている一般兵達は帰した方が良さそうだな」


「ああ。申し訳ないが、そうした方がいいだろうな。山の中腹ということは、戦うスペースも限られるだろうしな」



その後、1時間ほど話し合いを行い。

作戦は下記の通りに決まった。



<作戦骨子>


騎士団、魔法士団、辺境伯軍から成る連合軍約320名が、周辺を守っている魔物を食い止め、そのすきに、精鋭メンバー約30名で魔王へ特攻する


<精鋭メンバー>


・騎士団から、騎士団長カルロスを含む手練れ10名

・魔法士団から、魔法師団長ゾフィアを含む10名

・辺境伯の次男ジャックス率いる、辺境伯軍精鋭8名

・光魔法の使える異世界人シオン




総力を挙げて、精鋭メンバーを魔王の元まで送り、精鋭メンバーで魔王を倒す作戦だ。



そして、作戦も決まり、会議が終わろうとした、―――その時。


沈黙を守っていたシャーロット王女が、突然口を開いた。




「お待ちください。わたくしも砦まで行きます」




あまりに予想外な言葉に、シンとする会議室。


しばらくの沈黙のあと。


辺境伯が、聞き間違いじゃないか、といった風に、王女に尋ねた。



「…………どういう意味ですか?」


「その言葉のままですわ。わたくしも行きます」



まるで、ピクニックに行くような調子で宣言するシャーロット王女。

辺境伯は、怒りのあまり顔が真っ赤になった。



「いい加減にして下さい! これは遊びではありません! 命がけの任務ですぞ!」



思わず声を荒げる辺境伯に、お付きの神官がバンと机を叩いて立ち上がった。



「総司令の命令を何と心得るのですか!」


「しかしっ!」



すると、エミールがにこやかに言った。



「まあまあ。プロディア辺境伯殿。責任者たる総司令が現場に行くことに不思議はないでしょう?」


「……それはそうだが」


「それに、危なくなったら逃げれば良いのです。危ないことなどありません」



一同は、呆れ果てたようにシャーロット王女とエミールを見た。

お前らが危なくなくても、お前らを逃がす騎士達は危ないだろ、と、心の中で思うが、総司令の命令には逆らえない。



そして、しばしの沈黙の後。


辺境伯が、苦い顔で言った。



「……魔王討伐失敗の際には、総司令に責任を取って頂きますので、そのつもりで」


「ええ。分かりましたわ。ありがとうございます」



輝くような笑みを浮かべるシャーロット王女。


その後、王女が滞在する砦の守護に騎士魔法士30人を残すことが決まり、会議は解散になった。




――その後のことは、推して知るべし。


シャーロット王女を乗せた籠を守るため、騎士が負傷。

出陣式での、神官の下らなくて長い挨拶で、士気はだだ下がり。

あまり良くない状態で魔王討伐に臨むことになった。


そして、人員不足が響き、何とか魔王を倒したものの、所要時間は4時間超。

メンバーのほとんどが負傷し、魔法士は魔力を使い果たした状態だった。


その後、消耗しきった精鋭メンバーは、やっとの思いでシャーロット王女の待つ砦に帰還。

先に帰還した討伐軍本体を追って辺境伯領に戻ろうとするも、夜になってしまったため、断念。

砦で体を休めることになった。



しかし、その日の深夜。

100匹を超える瘴気にまみれたミノタウルスの大群が、砦を急襲。


魔王戦で消耗しきった彼等になす術などなく。

砦に残っていた全員が、命を落とす結果になってしまった。






ーーこれが、シオンの潜在意識がずっと思い出すことを拒んでいた、罪悪感とトラウマにまみれた、前回(召喚1回目)の記憶である。












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