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04.新たな悩み


元の世界に戻ってきて、1週間。

異世界召喚まで、あと11カ月と3週間。


アブラゼミがジージーとうるさく鳴き始める7月末。


紫苑は、未だかつてないほど充実した日々を送っていた。


ここまでの成果は下記。



<筋トレ・体重>

・レッスンDVDに少し余裕が出てきた

・すみれの薦めで、新たにハンドグリップとバランスボードを導入した

・お菓子の消費量を減らした


・体重が、2kg減った!



<その他>

・ナンバーズの番号が見事当選し、90万円GET!

 誕生日に新しいPCを購入した。


・同じく当選したオンラインゲームのパーティーメンバーひまぽに滅茶苦茶感謝された。




すみれは、とても面倒見の良い性格だった。


ゲーム上で会う度に、「トレーニングどう?」と尋ねてきてくれ、「凄いじゃない!」と褒めてくれるのだ。


美人に褒められ応援されるお陰で、紫苑のやる気は100倍。

辛い筋肉痛にも耐え、何とか1週間を乗り切った。


体重も2kg減り、心なしか体も軽い。


正に、順風満帆。


しかし、トレーニングの順調さとは裏腹に、新たな悩みが出て来た。



「俺、他に何をすればいいんだろ……」



考えれば考えるほど、筋トレ以外、やることが見つからないのだ。


通常、異世界召喚されるための準備と言えば、「知識の習得」。

石鹸の作り方、料理、設計などの生産スキル。

その知識があれば異世界で簡単に金を稼げる、いわゆる「知識チート」というやつだ。


しかし、これらスキルが有用なのは「一般人」として召喚された場合のこと。

「勇者」として召喚される紫苑の場合、少し事情が変わってくる。


お金を稼ぐ必要がないのだ。


稼ぐ必要がないから、稼ぐための知識も必要ない。

加えて、身の回りの世話も全部やってもらえるから、生活スキルも必要ない。


思い出してみても、異世界で求められたことといえば、剣を振ったり光魔法を使うことくらい。




……と、ここまで考えて。


紫苑は思い当たってしまった。


もしかして、世界を救うために必要な準備って、筋トレだけなんじゃないか、と。



「い、いやいや! さすがにそれはないだろ!」



紫苑は、自分の中に浮かんだこの考えを、必死に否定した。


世界を救う男になるために必要な準備が「筋トレ」だけって、なんかアホっぽい。

自分が見落としているだけで、なにか学ぶべきことがあるはずだ。


彼は必死に考えた。

何か、何かないか。


しかし、丸一日悩んでも、何も思いつかない。


どうしようもないほど煮詰まった紫苑は、思い切って気の置けない友人に聞いてみることにした。


相談する友人は、オンラインゲームのパーティーメンバー、柚子胡椒。

同年代のイケメン暗殺者アサシンだ。



―――その日の夜。

いつも通り、オンラインゲームにログインした紫苑は、柚子胡椒に話しかけた。



====

シオン:

『あのさ。変な質問していい?』


柚子胡椒:

『ドンと来い!\(^o^)/』


シオン:

『もしも、柚子胡椒が、1年後に異世界召喚されると分かったら、何の勉強をする?』

====



我ながらアホな質問だと思いつつ、キーボードに文字を打ち込む紫苑。


柚子胡椒は、しばらく沈黙した後、こんな返事をしてきた。



====

柚子胡椒:

『ん~。ペニシリンの作り方かな。ペニシリンがあったら、ケガしてもとりあえず死ななそうだし』

====



予想外の答えに、紫苑は目を丸くした。


薬の製法なんて、考えもしなかった。

なんて凄い発想なんだ。



====

シオン:

『すごい。ペニシリンは予想外だった』


柚子胡椒:

『これは自分の知識というよりは、江戸時代にタイムスリップした医師が出て来る漫画の知識だけどね』

『あと勉強するなら、農業知識かな。何か持って行けるのであれば、種とか持って行きたい』

====



次から次へと出て来る予想外の答えに、紫苑は驚きながらも考えた。


自分1人では、丸一日考えても何も出てこなかった。

でも、人に相談したらこんなに出て来る。


思い切ってみんなに相談して、意見を聞いてみるべきなんじゃないだろうか。


特に、ひまぽはラノベや漫画に詳しいし、腹黒小学生は頭の良さそうな大学院生。

高校生の自分では思いつかない、良いアドバイスを貰えるかもしれない。



(……となると、問題は聞き方、だよな)



一番いいのは、正直に全て話して意見を聞くことだ。

でも、「俺、1年後に異世界召喚されるんです」なんて言ったら、確実に頭がおかしいと思われる。


ネット上とはいえ、彼等は仲の良い友人だ。

頭がおかしくなったと思われることだけは避けたい。



(……さて、どう聞こう)



――この日、紫苑はどうやって相談するか、夜遅くまで考えた。






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